撮影&文:miao
~うちの子がうちにくるまで No.1-1~
愛猫を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。
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猫の寿命は人間よりずっと短い。だから生まれ変わりも早い。
運命なら、現世でまた再び会えることは可能なんだ。
先代猫のみゅうさんとの別れ。
それからの、猫のいない生活。
それが短かったのか長かったのか、よく覚えていない。
そういえば何をしていたのかな? そんな感じ。
帰る部屋が帰りたくない場所になって、周りから見たら随分と奔放に、ひらひら揺れて過ごしていたのかもしれない。
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「猫が死んだからって、そんなフラフラしてたらお前が野良猫みたいじゃないか。放し飼いにしてやるから、ここにいていいよ」
と言ってくれた彼と、暮らすことになった。
あの夜に刺さった棘はいつのまにか抜け、焦がれる思いだけがちいさな傷痕になって残っていたのだと思う。
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みゅうさんが亡くなって、数ヵ月は実家にいた。
遺骨を抱いて泣いて帰ったわたしを、父は忘れられなかったみたいだ。
『世界から猫が消えたなら』という小説(映画)の中で、亡くなったレタスに似たキャベツを探す父親の姿がある。
わたしの父もあんなふうに思ったのかもしれない。
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そんな父が「みゅうさんに似た猫がいる」と世界の猫図鑑という本をくれた。
付箋が貼られたページにいたのは、初めて知るベンガルという種類の猫。
からだの斑点模様(スポット)が、みゅうさんに似ていた。
今思えば、凛々しすぎるくらい野性味溢れる顔立ちや、しっぽの長さなどは、みゅうさんとは全く違うのに、模様ひとつが忘れられない面影を重ねるのに十分だった。
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ベンガルはベンガルヤマネコと、エジプシャンマウとの人為的交配から生まれた。
当時は登録されたばかりの新しい猫種。
運動能力と独特なめらかな被毛とスポットが特徴。
野生との混血であるゆえ、まだ攻撃的な性格を持つこもいるが、今後改良が進むだろうみたいなことも書かれていた。
「日本じゃまだまだめずらしい猫なんだろうな」
「お高いのだろうなぁ」
頭の片隅で思っていただけで、飼うなんてことは想像さえもしていなかった。
だけど――
ベンガル猫クラブという書籍をみつけて夢中になった。
PCで検索して画像を集めた。
ブックマークにベンガルフォルダができた。
「なんだか生意気そうな猫にご執心だな」
彼はそう言って、笑っていた。
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猫図鑑をもらってから半年くらい後のことだった。
父が電話を掛けてきた。
「誕生日プレゼントに猫をあげるよ」
受話器の向こうから、いきなりそんな声がした。
「えーっ!そんな、突然言われても」
覚悟も準備もできてない。
それに、まだ頭の中のどこかで、他の子を迎えることに、罪悪感があった。
それなのに、
「ベンガルの男のこだよ。楽しみにね~」
と、実にあっけらかんと、決められてしまったのだ。
そして――、わたしは――
ベンガルなら……
飼いたいと思ってしまった――
のちに母から聞いたこと。
父は猫図鑑を見てから、ずっとベンガルを探していたらしい。
当時は国内のブリーダーさんも少なく、田舎のペットショップではそのなまえさえ知らなくて、まだまだネットワークも完備する前のアナログ社会。
父の持てる人間関係をフル稼働して、やっとベンガルのブリーダーさんと会えたのだそうだ。
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――仔猫がやってくる!
それも、とびきりカワイイ猫が!
彼の許可をいただかなくては!
彼は動物を飼ったことはなかったらしいが、夜道で脚の折れた迷子の犬を見つけ、すぐに川崎の深夜病院に連れていったこともあったし、マンションの住人が飼われている猫さんに挨拶してるのを知っていた。
大体、いつもわたしのことを「かなり役に立つ猫を飼っているようなもんだ」とかなんとか言ってるくらいだ。
大丈夫!
彼は、猫好きなのだ。
きっと――
――ALEXがうちの子になったのは(前編)・つづく――
~うちの子がうちにくるまで No.1-1~
猫の名前:ALEX
猫種:ベンガル
飼主:miao
――次話です――
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