撮影&文:Chobi
~うちの子がうちにくるまで No.5~
愛猫を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。
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まだ、私が若いころの話です。
仕事が終わり、駐車場へ向かう道で、私は1匹の子猫に出会いました。
その猫は、とても人懐こい子で、ニャー、ニャーと鳴きながら私についてきました。「捨て猫? お母さんがいないの?」
気にはなりましたが、だからといって私の家は賃貸住宅ですし、どうにもできません。私はその子を置いて帰宅をしました。
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その翌日も、その子猫はそこにいました。ニャー、ニャーと鳴きながら。
そして私に気づくと、私の後を追ってきました。
私は「まだ、おるんやね」と声をかけ、そして帰宅をしました。
次の日も。そのまた次の日も、子猫はそこにいました。そうやって、数日が過ぎていきました。
ある雨の日のことです――
子猫はいつものように、ニャー、ニャーと泣き、そして私の後についてきました。
――雨に濡れながら。
「私の家においで~」
私はその子猫を拾い上げました。
それが、私に家族が増えた瞬間でした。
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その猫が我が家に来て、最初に覚えた言葉は「おいで~」でした。
「おいで~」と、言うとついて来るので、名前は『おいで』にしました。
『おいで』は私が近所の自動販売機まで行くときも、犬のように後をついてきました。私が買い物に出かけている間、近所を散歩して玄関で待っていることもありました。
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『おいで』は綺麗な賢い猫でした。
イタズラや粗相をした記憶はありません。玩具を投げると必ず持ってきました。
『おいで』と夏を迎え、秋を一緒に過ごし、お正月には車とフェリーに乗って実家に帰省もしました。
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『おいで』は私の言葉や私が喜ぶことを理解してたように思います。そして、『おいで』はいつも尻尾をピンと立てて、生きることを楽しんでいました。
忘れもしない1月28日――
私は仕事でした。
休みだった夫が用事で家を出るときに、『おいで』はいつものように散歩をしようと一緒に玄関を出たそうです。
それが、『おいで』の最後の姿になりました。
夫が家に帰って来たときには、『おいで』は玄関の前で死んでいたそうです。
連絡を受けて、仕事を早退して急いで帰ったときには、『おいで』はもう冷たくなっていました。
《近所で野良猫が畑を荒らすからと毒を撒いていた》
《あの畑で野良猫が死んでいた》
後になって、そんな噂を聞きました。
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その日の朝、『おいで』は猫の缶詰を欲しがりました。
でも私は、夕方に食べさせてあげようと思い、ドライフードしかあげませんでした。
だから私は今でも、猫の缶詰カルカンを見ると『おいで』を思います。
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その日は、2回目の結婚記念日でした。
夫が買ってきた花は飾られず、そのままテーブルの上に置いたままになっていました。
私が今よりもっとバカな頃の話です。
これは『おいで』の首につけていた鈴です。
数十年が過ぎました。
引っ越しもしました。
今でもこの鈴は綺麗な音がします。
私の大切なものです。
私の心には『おいで』が生きています。
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『おいで』、いつか会ったら「あの時は本当に苦しかったよ」って怒るかしら?
それでも『おいで』は再会を喜んで、私の後を尻尾をピンと立てて、ついて来るような気がします。
――『おいで』がうちの子になったのは・おわり――
~うちの子がうちにくるまで No.5~
猫の名前:おいで
猫種:雑種
飼主:Chobi
ブログ:花と太郎
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~犬や猫と暮らすあなたへ~
『うちで飼えるかな?』
『きちんと面倒を見られるかな?』
犬や猫を、”はじめて”飼う時、ほとんどの方はこう思ったことでしょう。平均年齢でいえば15年も生きる小さな命を預かるのだから当然ですね。その葛藤を乗り越えて、我々は犬や猫と暮らします。
毎日が楽しいですか?
――きっと楽しいですよね。
だって、犬を飼うこと、猫を飼うことは、喜びに満ちていることだから。
どうか忘れないでほしいのです。その楽しさを手に入れる前に、我々はものすごく大きな決心をしたのだということを。
そして、どうか自信を持ってほしいのです。
その決心が、ずっと我々を支え続けてくれるのだと。
いつか、その子を送るときが来たとしても。
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
猫-6|チェリー
ノルウェージャンのチェリーは、ちょっと変わった猫でした。
異食癖をもっていたのです。
危険だったので仕方なくケージ生活に。
しかし、本人はそれを楽しんだのかもしれません。
さてチェリーはどうやって、うちの子になったのか。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
猫-4|ボス
21歳と6か月で天国に行ったボス。
そのボスが家に来る時のお話。
猫アレルギーだったかあちゃんは、それからずっとボスと家族でした。
昔のことって覚えている?
自分のことは忘れたけど、うちの子が来た時のことだけは覚えているよ。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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※本記事は著作者の許可を得て、下記のブログを元に再構成されたものです。