虹の橋の猫 ―愛と絆と永遠の物語―
悲しみが形を変えても、その人は、虹の橋に行った雉白もようの猫を思わない日はありませんでした。
その日は、昨日までの雨も止み、とても気持ちの良いお天気でした。
どこまでも青い空の下を歩きながら、その人は思わず知らず、猫の好きだった歌を小さく口ずさんでいました。
心の中で猫もいっしょに歌っているようで、なんだか楽しくて、このまま家に帰るのがもったいないような気がしました。
それで、少し遠回りをして、木立のきれいな公園の中を通って帰ることにしました。
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公園の木立を渡る風も、さやさやそよそよと、空からの歌をうたっているようです。
いきなり、目の前の植え込みがガサッと音を立て、その人は驚いてうたうのをやめました。
見れば、その植え込みの前に、猫のおもちゃが落ちています。
「えっ?」
その人は、一瞬、目を疑いました。
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そのおもちゃは、虹の橋に行った猫のために、昔、手作りしたおもちゃにそっくりだったのです。
猫も、そのおもちゃが大のお気に入りでした。
だから、猫を弔った時に、いっしょに猫に持たせてやったのです。
それなのに、どうして、ここにあるのだろうと、その人は不審に思いながら、おもちゃを拾いあげました。
「みゃぁ」
仔猫の鳴き声がして、その人は振り返りました。
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小さな仔猫が、見上げています。
まるで、そのおもちゃをかえしてほしいとでもいうように、仔猫はまた「みゃぁ」と鳴きました。
植え込みの影に、段ボール箱が捨ててあります。
ダンボール箱は、中からこじ開けたようになっていました。
きっと、段ボール箱に入れられて捨てられた仔猫が自分で箱を開けて、出てきたのでしょう。
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その人は、仔猫を抱き上げました。
仔猫はあたたかくやわらかで、その人の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしました。
「いっしょに帰る?」
その人は、仔猫にたずねました。
「みゃぁ」
仔猫は、うれしそうに返事をしました。
その人は、そのまま仔猫を抱いて、いっしょに家に帰りました。
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仔猫は捨て猫から飼い猫になり、その人には猫と暮らす幸せな日々がまた戻ってきました。
でも、ひとつ、不思議なことがありました。
あのおもちゃを、二度と見ることがなかったのです。
あの日、仔猫といっしょに家に持って帰ってきたのか、公園に置いてきたのかさえも思い出せません。
その人は、雉白もようの猫が好きだったあの歌を歌いながら、思うのです。
――きっと
あのこが虹の橋に旅立つ時、このこを、私に託して行ったんだ、と――
――銀の鈴/虹の橋の猫(第7話)・第1章のおわり――
――次章・歌うたいの猫につづく――
作:水玉猫
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――次話(第2章のはじまりです)――
――前話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この物語の第1話です――
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保護猫のお話です
活動家に保護された猫、夕(ユウ)。
幸せに暮らしていた夕は、ある日リンパ腫の診断をうけてしまいました。
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。