虹の橋の猫 ―別れって何? 永遠って何?―
虹の橋の船着き場には、毎日、地上からの船が幾艘(いくそう)もやってきます。
船には、渡し守がひとりずつ乗っていて、虹の橋までの船旅の間、船の棹(さお)を操りながら、良い声で歌います。
乗客の数は、ひとりだったり、さんにんだったり、船によってまちまちでしたが、誰も皆、渡し守の歌を子守唄にして、まどろみながら、虹の橋の船着き場にやってきます。
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虹の橋の船着き場の外には、並木道が続いています。
並木道は、緑豊かな公園の中を抜け、丘の上の虹の橋のたもとの街の門にまで続いています。
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門の脇には、大きな時計塔がありました。
時計塔のてっぺんで鳴る鐘は、虹の橋の住民たちに船の発着を知らせていました。でも、ずいぶん古びて、もう昔のようには澄んだ音では鳴らなくなっていました。
風向きによっては、鐘の音が街のはずれまで届かないことさえありました。
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ある時、ひとりの猫が、虹の橋にやってきました。
この雉白(きじしろ)もようの猫はとても歌が好きで、船を降りる頃には、渡し守の歌う歌をみんな覚えてしまっていました。
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雉白もようの猫にとって、虹の橋での生活は、穏やかでとても楽しいものでした。友だちも仲間も、できました。
でも、猫は、時々、地上がたまらなく恋しくなりました。
そういう時は、ひとりで門の前の時計塔の下まで来て、歌を歌いました。
猫の歌う歌は、渡し守の歌だったり、地上のおかあさんが猫のために作ってくれた歌だったりしました。
雉白もようの猫が歌っている時、虹の橋の住民たちは時計塔のそばを通りかかると、しばし立ち止まり、猫の美しい歌声に聞き惚れるのでした。
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ある朝のことです。
猫が時計塔のところに来てみると、なんだか、様子が違っています。
時計塔の下一面に、光を失った星屑が無数に散らばっているのです。
猫は、嫌な予感がして時計塔を見上げました。
「あっ!」
嫌な予感は、的中していました。
時計塔のてっぺんから、船の発着を知らせる鐘が、なくなっているのです。
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虹の橋の船着き場の船の発着を知らせる鐘は、街での暮らしの上で、なくてはならないものでした。
街じゅうに聞こえる鐘の音は、地上に残してきた懐かしいみんなを思い起こさせ、自分が虹の橋に到着してからどれだけの月日が過ぎたのかを測(はか)る導(しるべ)にもなっていました。
住民たちの鐘の音に寄せる思いは、祈りにも似ているのです。
その鐘が、あろうことか、なくなっているのです――
――歌うたいの猫(1/10)/虹の橋の猫(8話)・つづく――
作:水玉猫
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――次話――
――前話(第1章の最終話)――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この物語の第1話です――
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保護猫のお話です
家族の引っ越しで置き去りにされたクララは、野良猫の茶太郎と出会います。
やがて一緒に保護された2匹ですが――
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。