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猫の歌声と星屑のブランコ ~第2章・歌うたいの猫(2/10)/虹の橋の猫~【猫の絵本】

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イラスト&文:水玉猫
 

「時計塔の鐘が、なくなっている――」

雉白もようの猫は、時計塔を見上げながら、目を疑いました。でも、何度見返しても、鐘はどこにもありません。

足元に広がる無数の光をなくした星屑が、どうやら、鐘の残骸のようです。

古びた鐘は、ついに、高い塔から落ちて、砕け散ってしまったのでした。

そろそろ、船着き場に船が到着する時刻です。

「どうしよう――」

猫は、星屑を集め始めました。だけれど、いくら星屑を集めても、砕け散った鐘が元どおりになるはずはありません。星屑は、星屑のままです。

焦った猫は居ても立ってもいられなくなり、集めた星屑の真ん中で、声をかぎりに歌い始めました。
鐘が鳴らないのなら、せめて、自分が歌って、船の到着の時間を知らせようと思ったのです。

でも、門の前で、いくら力のかぎりに歌っても、広い街中に届くはずもありません。
それは、猫にもわかっていました。だけど、何もしないよりは、ずっとましだと思ったのです。

猫の歌に合わせ、猫が首から下げた銀の鈴も、澄み渡った音で鳴り始めます。

銀の鈴が鳴り始めると、猫の足元に散らばる、星屑たちが、輝きはじめました。

猫はそれにも気づかず、一心不乱に歌い続けました。

光を取り戻した星屑たちは、流星のように飛び立ち、歌い続ける猫の周りをキラキラと回りました。

そして、星屑たちは、猫を乗せたブランコになって、時計塔のてっぺんまで上がって行きました。

街では、住民たちが首をかしげていました。
そろそろ、虹の橋の船着き場に船が到着する時刻なのに、いつものように時計台の鐘がならないからです。

長く、この街に暮らすものは、不安そうに言いました。
「あの古びた鐘は、ついに鳴らなくなってしまったのか……。そんな日が来ないことを、切に願っていたのに」

「まさか、そんな――」

「そんなことになったら、どうやって、毎日、時をはかればいいの?」

「そうだよ。鐘が鳴らなければ、地上のみんなのことを思い出すのも減って、地上が余計に遠くに行ってしまいそうで、怖いよ」

「待って!歌声が聞こえるわ」

「時計塔の方からだ!」

鐘の音に代わり、時計塔のある方角から聞こえてくるのは、船の到着を知らせる美しい歌声でした。

その日以来、虹の橋の船の発着時間になると、星屑のブランコは雉白もようの猫を乗せ、時計塔のてっぺんまで、するすると上がりました。

時計塔のてっぺんで歌う猫の歌声は、街じゅうに届き、鐘の音と同じように、住民たちの心の拠り所になりました。

いつしか、雉白もようの猫は、虹の橋の住民たちや船の渡し守たちから、歌うたいの猫と呼ばれるようになっていました――

 

――歌うたいの猫(2/10)/虹の橋の猫(9話)・つづく――

作:水玉猫
 ▶水玉猫:猫の作品
 

――次話――

――前話――

 

まとめ読み|虹の橋の猫 ②
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――第2章のはじまり(第8話)です――

――この物語の第1話です――

 保護猫のお話です

活動家に保護された猫、夕(ユウ)。
幸せに暮らしていた夕は、ある日リンパ腫の診断をうけてしまいました。

 

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