虹の橋の猫 ―別れって何? 永遠って何?―
「時計塔の鐘が、なくなっている――」
雉白もようの猫は、時計塔を見上げながら、目を疑いました。でも、何度見返しても、鐘はどこにもありません。
足元に広がる無数の光をなくした星屑が、どうやら、鐘の残骸のようです。
古びた鐘は、ついに、高い塔から落ちて、砕け散ってしまったのでした。
●
そろそろ、船着き場に船が到着する時刻です。
「どうしよう――」
猫は、星屑を集め始めました。だけれど、いくら星屑を集めても、砕け散った鐘が元どおりになるはずはありません。星屑は、星屑のままです。
焦った猫は居ても立ってもいられなくなり、集めた星屑の真ん中で、声をかぎりに歌い始めました。
鐘が鳴らないのなら、せめて、自分が歌って、船の到着の時間を知らせようと思ったのです。
でも、門の前で、いくら力のかぎりに歌っても、広い街中に届くはずもありません。
それは、猫にもわかっていました。だけど、何もしないよりは、ずっとましだと思ったのです。
●
猫の歌に合わせ、猫が首から下げた銀の鈴も、澄み渡った音で鳴り始めます。
銀の鈴が鳴り始めると、猫の足元に散らばる、星屑たちが、輝きはじめました。
猫はそれにも気づかず、一心不乱に歌い続けました。
●
光を取り戻した星屑たちは、流星のように飛び立ち、歌い続ける猫の周りをキラキラと回りました。
そして、星屑たちは、猫を乗せたブランコになって、時計塔のてっぺんまで上がって行きました。
●
街では、住民たちが首をかしげていました。
そろそろ、虹の橋の船着き場に船が到着する時刻なのに、いつものように時計台の鐘がならないからです。
長く、この街に暮らすものは、不安そうに言いました。
「あの古びた鐘は、ついに鳴らなくなってしまったのか……。そんな日が来ないことを、切に願っていたのに」
「まさか、そんな――」
「そんなことになったら、どうやって、毎日、時をはかればいいの?」
「そうだよ。鐘が鳴らなければ、地上のみんなのことを思い出すのも減って、地上が余計に遠くに行ってしまいそうで、怖いよ」
「待って!歌声が聞こえるわ」
「時計塔の方からだ!」
鐘の音に代わり、時計塔のある方角から聞こえてくるのは、船の到着を知らせる美しい歌声でした。
●
その日以来、虹の橋の船の発着時間になると、星屑のブランコは雉白もようの猫を乗せ、時計塔のてっぺんまで、するすると上がりました。
時計塔のてっぺんで歌う猫の歌声は、街じゅうに届き、鐘の音と同じように、住民たちの心の拠り所になりました。
●
いつしか、雉白もようの猫は、虹の橋の住民たちや船の渡し守たちから、歌うたいの猫と呼ばれるようになっていました――
――歌うたいの猫(2/10)/虹の橋の猫(9話)・つづく――
作:水玉猫
▶水玉猫:猫の作品
Follow @sa_ku_ra_n_bo
――次話――
――前話――
●
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
●
――第2章のはじまり(第8話)です――
――この物語の第1話です――
●
保護猫のお話です
活動家に保護された猫、夕(ユウ)。
幸せに暮らしていた夕は、ある日リンパ腫の診断をうけてしまいました。
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。