文:奥村來未
猫のタロウはいつも、どこを歩いてきているのだろうか。
子供時代、度々疑問を抱いていた。
散歩したいとき、玄関戸の前で鳴き、帰ってくると玄関戸の前で鳴く。
「どこへ行ってきたの?」タロウに聞いても、横目で私を見るだけで、「教えない」と言ってるみたいに寝てしまう。
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尾行してみよう
――よしっ。
私は幼稚園で着る、外遊び用のスモックを着て、タロウを尾行することにした。
家を出て、タロウは家と家の狭い隙間へ飛び込んでいった。
私もすかさず後を追う。子供の身体でも、ギリギリ通れるほどの狭い道。
途中、大きな蜘蛛が顔を出し、「ひゃぁ?!」と声が出た。
タロウはその声に気づいて歩を速めたので、私は急いで追いかけた。
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家の隙間を抜けると、目の前には桑畑。タロウは器用に桑の木の間を縫い歩く。
私は時々、桑の実を摘み食いしながら、タロウの通った道を歩く。
タロウは私の存在に気づいていて、時々意地悪するように歩を速める。
その度焦って追いかけて、何度も何度も転んでしまった。
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まるでお兄ちゃんのゲームの冒険みたいだ。
「ドラゴンなんとかみたい!」心が躍った。
桑畑をウネウネ歩き、タロウは穴を掘りウンチをすると、今度は廃屋のほうへ向かっていった。
その廃屋は私の家の隣だけど、いつも暗くて怖くて、お化けが出るって友達とウワサをしていた廃屋で、近づいたことがなかった。
だからすごく怖かったけど、ついていくって決めたから、ついていくことにした。
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思った通り、廃屋の中へ入っていくタロウ。
小さな壁の穴から中に入っていったけど、私が入れるほどの大きさはなく、穴を覗いてみても真っ暗で何も見えなかった。
裏に回ると、雨戸が数センチ開いていたので、横に思いっきりスライドしてみたら雨戸が開いて、光が差した廃屋の中は、何だか埃っぽいような感じだけど、思ったほど怖く無くて、窓ガラスは割れていたので、そのまま中に入ることにした。
廃屋の中
埃の積もった畳の上を踏みしめると「ギギギ」と木の鳴る音がして、やっぱり帰ろうかという考えがよぎった。
でもその瞬間、部屋の奥にタロウの影を見た気がして、そのまま部屋に入っていった。
畳を靴で歩く非日常的な行動に、多少の興奮を覚えながら隣の部屋を覗き込んだ。
するとそこに居たのは、タロウ。それとそのほかの猫が数匹。
「猫会議だ!」
私は興奮するあまり、腐った床を踏み抜いてしまった。
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その音に猫たちは驚き、あっという間に猫会議は解散してしまった。
私のほうにタロウは歩いてきて「おいおい、頼むよ」というような顔をすると、私が入って来たガラス戸から外へ出て行ってしまった。
私は猫たちが姿を消した廃屋に、たった一人で居るのが急に恐ろしくなり、床に刺さった足を引き抜き、転げるように廃屋から飛び出した。
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飛び出した瞬間、近所のカミナリ親父に見つかってしまい、子供が一人で廃屋に入って遊ぶなんて危ないと、えらく怒られ、私はすっかり落ち込んで、頭を垂れながら帰宅した。
玄関の前にはタロウが寝っ転がりながら私を見ていて、「早く開けてよ」と言っているかのように「ニャウー」と鳴いた。
文:奥村來未
――次話――
――前話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――本作の作者の記事です――