猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

産業獣医師の仕事を掘り下げてみる ~犬猫の飼い主が見た、加計学園問題(その6)~

f:id:masami_takasu:20180121225836j:plain文:高栖匡躬 

前回は少し回り道で、産業獣医師と公務員獣医師の言葉の定義を行いました。

【前回の定義】
・本記事では産業動物臨床獣医師を、産業獣医師と称することにします。
 (因みに、街の動物病院は、小動物臨床獣医師です)
・産業動物臨床獣医師の約半数は、農業共済組合所属の団体職員。
 準公務員的な立場ですが、混乱を避けるために公務員ではなく、民間に属するものとします。
・公務員獣医師は、産業獣医師とは別の職業であるものとします。

産業獣医師、公務員獣医師が足りないのは、獣医大学の卒業生の多くが、産業動物に関わらず、小動物を相手にする街の動物病院に流れてしまうからだと言われています。

本当でしょうか?

それを知るには、それぞれの現場の比較(就業条件など)を行なう必要があると考えました。連載開始から4回(1話~4話)に渡って、街の動物病院を検証したのはそれが理由です。

今回と次回では、産業獣医師(上記の定義からすると、産業動物臨床獣医師)と、街の動物病院を対比させて考えてみたいと思います。
(公務員獣医師については、後の連載で触れることになりますので、一旦脇に置く事にします)

それではまず、産業獣医師という仕事をまずは掘り下げてみようと思います。

【目次】

産業獣医師について調べてみる

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我々一般人が産業獣医師という言葉を聞いて想起するのは、大型動物(牛、馬、豚など)を担当する獣医師の姿です。当然ながら、街の動物病院とは、診察する対象が大きく違うために、その手法も異なります。

下記は産業獣医師を実際に取材した記事から、引用したものです。
分かりやすく書かれたものを選びました。

熊本県の動物病院に勤める堤 千佐子さん(27歳)は、牛専門の獣医師として働き始めて3年目。ひとりで診療車を100km近く走らせて往診し、朝から晩まで農家から引っ張りだこの毎日です。病気の治療だけでなく、人工受精や出産の手助けなどさまざまな仕事を行います。
堤さんにとって夏の終わりは特に忙しい時期。季節の変わり目で体調を崩す牛が増える中、点滴や注射の治療に追われます。更に、3年目の今年は、手術への挑戦も待っています。

出典:平成若者仕事図鑑 - NHKオンライン 

病気になった牛の治療はもとより、病気の早期発見や予防に加えて、生産性を上げるための健康管理や飼料設計も私たちの重要な仕事です。

ご覧のように、動物病院では患者である犬や猫は、飼い主が連れてやっていますが、産業獣医師は自ら相手先へ往診します。手術等で補助が必要な時以外は、医療機器一式を積んだ診療車を自分で運転し、一人で現場に赴くことになります。
また、上記から分かるように、医療の面だけでなく、畜産農家運営の経営コンサル的なことまでが産業獣医師の肩にかかっているわけです。
 

産業獣医師は3Kなのか?

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筆者の周辺に聞取りをしたところ、一般の方が産業獣医師に持つ印象は、下記の2つであるように感じました。

① 知らない(そもそも関心を持った事がない)
② 3K(きつい、きたない、きけん)の職業である

筆者も含めて、かつてはほとんどの方が①に属していたと思われますが、加計学園問題の発覚以降は、②が知られてきたという印象です。

産業獣医師の数が足りていないとする派の理由の1つに、仕事内容に較べ、待遇が悪いという意見がありますが、本当に3Kであればそれを希望する人は少なくて当然のようにも思えます。

ここからは、その3Kの中身について触れて行こうと思います。

 

どのように働いているのか?

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まずは、産業獣医の一日を調べて見ました。分かりやすい記述を見つけたので、下記にそれを引用します。

産業獣医師の勤務(モデルケース:勤続3年目25歳)

ある一日

出典:平成若者仕事図鑑 - NHKオンライン

このモデルケースの女性は、動物病院勤務で牛専門との事。土曜日は午前のみ仕事。日曜は休みだそうです。

色々な事例を調べて見ると、勤務先(動物病院、農業共済組合など)によって労働環境は異なるようで、上記のケースはかなり条件が良い方で、多くの場合、産業獣医師はキツイという印象でした。

このキツイに関しては、主観的なものもあると思われます。詳しくは、下記で触れたいと思います。

 

きついと言われているが

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体力的にきつい

まずもっとも単純な話ですが、街の動物病院と違い、患者を待っているのではなく、往診しなければならないことが挙げられます。畜産農家は広い面積に点在するため、移動距離はかなりのものになると思われます。

そして、大型の動物を助手無しで、1人で診察をするわけですから、力仕事も多く、体力的にもきついものであろうことが想像がつきます。

仕事の幅が広くてきつい

そして、単に動物を診察/治療するだけでなく、畜産農家の経営の相談にも乗るわけですから、そのための勉強の時間も必要でしょう。

動物医療の専門知識+マネージメントの専門知識が必要になるのです。

仕事の精度が求められてきつい

農家の家畜は保険や保証の対象となるために、カルテも公的機関への提出を前提とした、きちんとしたものを書かなければなりません。同じカルテを書くのでも、動物病院とは求められるものが違うわけです。

農業共済組合に所属する産業獣医師はこれらに加えて、そのカルテの審査業務もあります。これは現場で不正が行なわれないようにするためです。組織が大きい場合は、事務方専門の獣医師もいるようです。

これらの全てが求められるので、総合的にきつい

これらのことを全て行うため、産業獣医師は非常に忙しい仕事のようです。筆者が調べたところ、休みは月2日程度で、夜勤明けの連勤も常態化しているというケース(現場の体験談)も多く見受けました。

産業獣医師は勤務先によって、内容が大きくことなるもののようです。
上記のモデルケースのような、休みがきちんととれる勤務体系は、むしろレアなのかもしれません。

 

きたないと言われているが

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 職場がきたない

産業動物が飼育されている牛舎、豚舎は、どんなに清潔を保とうとしても限界がありますので、程度の差はあるでしょうが、糞尿で汚れた場所と言って良いでしょう。また足場はその糞尿や、それを洗い流した水で濡れている場合も多いと思われます。

つまり職場自体が一般的な認識で言う、”きたない”場所なわけです。

仕事がきたない

更に、産業動物の中でも重要な位置付けの牛では、”直腸検査”というとても”重要な診察方法”があります。これは肛門から腕を差し入れて子宮や卵巣、および手を触れる事のできる臓器を直接触診することで行われます。

(指先を入れるのではありません。肩まで腕を差し入れるのです)

妊娠の判断や経過観察では必ず行われるものなので、必要ならやるというのではなく、日常的にそれは行われているわけです。

尊い行為であると言う精神面を脇におき、客観的に汚いか汚くないかといえば、これは汚い仕事であると言えるでしょう。

 

きけんだと言われているが

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直接的な危険

調べて見ると、危険は大きく分けて2つあるように感じました。1つ目は直接的なもので、場合によっては命の危険です。

最も簡単に言うと、大型動物を相手にしているので、蹴られた、踏まれた、挟まれたというもの。看護師を同行させず、一人で診察に赴くので、万が一の事故があった場合に迅速な対応ができないことも有りえます。

下記はその例です。

以前、牛に腹を蹴られて内臓破裂を起こし緊急手術をした農家もいました、またお産の時に興奮した牛に突かれて骨折をしたり、和牛の角が胸にささり死亡したり、
牛の横に立った時に膝を蹴られて靭帯が切れて2ヶ月間入院したり。

・牛は草食動物で警戒心が強く、視力が弱いため、暗い牛舎で人が事故に遭いやすい。
・牛がおびえると、足で蹴ってきたり体を押し付けてきたりするなど、極端な排除行動をする。

間接的な危険

意外に気付かない視点ですが、産業獣医師は日本国内における防疫の最前線にいる存在です。防疫というのは、外来感染症を水際で食い止める役割のことです。

人獣共通感染症(動物から人に感染する病気)は幾つもあり、鳥インフルエンザや、口蹄疫、BSE(狂牛病)など、発症した場合に致死率が高いものも存在します。

病気に罹った家畜をまず最初に発見するのは畜産農家で、次にそれを現場で診察するのが産業獣医です。見るからにそれと分かる重篤な症状を呈していない限り、防護服を着て診察することも少ないはずです。特に真夏はそうでしょう。

また、大規模農家は家畜の飼育密度が高いため、集団感染に発展しやすく、感染動物数が多い中で活動する産業獣医師は、感染の可能性が高いと思われます。

防疫の役割を明示的に負うのは公務員獣医師の役割ですが、実際には人獣共通感染症の最前線(最も危険な場所)にいるのは、産業獣医師であるということを、忘れてならないでしょう。

 

とりあえず、今回のまとめ

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さて、産業獣医師の業務についてここまで書いてきましたが、これだけでも街の動物病院とは大きな違いがあることがお分かりだと思います。

実を言うと、ここに書いたこと以外に、街の動物病院と産業獣医師には大きな違いがあります。それは対象の動物の違いよりも、もっと根源的なものです。

動物の命と、どう向き合うかという問いにもつながってきます。

次回はその違いに触れた上で、両者の違いを具体的に比較してみたいと思います。

 

――犬猫の飼い主が見た、加計学園問題・つづく――

(ライター)高栖匡躬

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