撮影&文:miao
~うちの子がうちにくるまで No.1-2~
愛猫を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。
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「あのね、猫を飼ってもいい?」
わたしは彼に聞いてみた。
――それからの会話――
「うちにはもう猫がいるんだけどな」 (はいはい、知ってます)
「役に立たなくていい方の猫は、ダメ?」
「仲間が欲しいんだ?」 (ちゃんと聞いてない)
「お誕生日にベンガルが来るの」
「来るって何?もう決まってんの?」
寝耳に水って表情。そして、「ダメって言ったらどうするの?」と――
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一瞬の後、はっと何かを閃いた顔。
「あぁ、そっか、親父さんだろ…ったく。あの猫ねぇ、まあいいか」
頷く彼。そして――
「猫で無くしたもんは猫でうめろってことだよ。おまえも、ちゃんと解って面倒見ろよ」
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この言葉には深い意味があった。
また猫を飼えばいい――
それは簡単で、――とても難しいことだったから。
くちが悪い彼だけど、なんで俺が猫を2匹も……と、ブツブツ言いながら、
ベンガル猫クラブを手に取り読んでいた。
それから、ふたりでぬかりなくお迎えの用意をした。
自由が丘にあるペットグッズ専門店には、見たことのないような輸入品まで揃っていた。お取り寄せのキャットタワー以外は、必要なものから、あったら便利なものまで全部揃えられた。
首輪はoliverの、黒白のりぼんのついたやわらかな黒革にしたのだけど「おとこのくせに」と、しばらくからかわれることになってしまったね。
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期待と不安がいったりきたり。
当日直前まで、まだ葛藤があった。
どんな子だろう?
ちゃんと可愛がれるかな?
わたしを好きになってくれなかったらどうしよう。
そして――、何よりも、もう決してあんな死に方はさせたくない。
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その日のalexは、ブリーダーさんのところから飛行機で空を飛び、長時間車に揺られる初めての長旅。
alexを乗せた父の車が到着したのは、日が沈む時間になった。
緑色の大きなバスケットには、いかにもプレゼント用の水色のリボンが結ばれていた。
後部座席のバスケットの隣に座り、ゆっくりと蓋を開けると、大きな耳をぴんと立てた仔猫がわたしを見あげてた。
それから――、はっきりと「にゃあ」とひとこと鳴いた。
その瞬間、その一瞬が全てだった。
まっすぐわたしを見つめる、ちいさなお顔の大きな瞳に、こころの奥で求めてやまなかった全てを感じた。
「おかえり」
思わず言葉にしていた。
君は――、何者でもない――、わたしのこ――
涙が落ちた。
抱き上げたからだは軽くてやわらかく、ふわふわの毛は今までに触れたことのない手触りだった。
わたしの脇に顔を埋めてしがみついたようだった。
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「なんてかわいいの!ありがとう、パパ。ありがとう」
「泣くほど喜んでもらえてよかったよ。大事にしてやりなさい」
父もなぜか、もらい泣きしていた。
彼も想像以上のかわいさにKOされたらしく、まんざらでもない顔で「チビだなぁ、早く大きくなれよ」と、撫でた。
人見知りしないこのようだ。
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部屋に着いて、まずお水をあげて、それからごはんの準備をした。
お腹がすいてたまらなかったのか、ブリーダーさんにいただいたドライフードをふやかす間、びっくりするくらい「ぎゃあぎゃあ」と催促鳴きして、足にまとわり爪を立てて、あげたごはんをがっついてキレイにたいらげた。
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とりあえず、環境の変化に慣れてもらおう。
きっといつもと違う場所を色々探索するだろうから、トイレの場所を教えたら、黙って様子を見ていようということになった。
ごはんを食べ終えたalexがまだ頼りない毛繕いのしぐさをした後、一直線に走ってきたかと思ったら、ソファによじ登り、わたしの膝に乗るとそのまま体をまるめて寝てしまった。
あまりにも違和感のないその行動は、昨日もその前の日も「ぼくはここにいた」みたいだった。
「こいつ、すごいヤツかもな」
わたしたちは静かに笑った。
膝の上で、安心しきったように甘えて眠る、やわらかくてあたたかいちいさな命。
ささやかな確信はもう揺るぎないものに変わっていた。
運命に感謝した。
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ねぇalex、実はね、君とは初めましてだけれど、初めましてじゃないんだ。
「またわたしを選んでくれてありがとう」
今度はもっと大切にする。
もっともっとずっと永く、一緒にいようね。
何があっても全力で守るよ。
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あの日の願いと決意は、19年間叶えられた。
alexは本当に驚くほど、最初からうちのこだった。
生まれたときからここで暮らしてたと錯覚させてくれるほどだった。
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おしゃべりでやんちゃでいたずら好きで。
いつも視界に入っていないと気がすまないあまえんぼさん。
わたしとalexは、本当になかよしだったよね。
――ALEXがうちの子になったのは(後編)・おわり――
~うちの子がうちにくるまで No.1-2~
猫の名前:ALEX
犬種:ベンガル
飼主:miao
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~犬や猫と暮らすあなたへ~
『うちで飼えるかな?』
『きちんと面倒を見られるかな?』
犬や猫を、”はじめて”飼う時、ほとんどの方はこう思ったことでしょう。平均年齢でいえば15年も生きる小さな命を預かるのだから当然ですね。その葛藤を乗り越えて、我々は犬や猫と暮らします。
毎日が楽しいですか?
――きっと楽しいですよね。
だって、犬を飼うこと、猫を飼うことは、喜びに満ちていることだから。
どうか忘れないでほしいのです。その楽しさを手に入れる前に、我々はものすごく大きな決心をしたのだということを。
そして、どうか自信を持ってほしいのです。
その決心が、ずっと我々を支え続けてくれるのだと。
いつか、その子を送るときが来たとしても。
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――うちの子がうちにくるまで、次話――
猫-2-1|みみ子
犬猫で最大時11匹。
今や多頭飼いが当たり前のお宅に、最初の1匹としてやってきた子猫のお話。
犬猫の飼い方を全く知らない作者。
動物病院に、そして次に本屋に――
てきぱきと進める作者は、当時現役の看護師さんでした。
――うちの子がうちにくるまで、前話――
猫-1-1|ALEX
先代猫みゅうさんとの別れ。 そして猫のいない生活を送る作者。
やがて、新しい猫との出会いの時がきます。
――仔猫がやってくる! それも、とびきりカワイイ猫が!
しかし、その猫は――
新しい猫ではなくて、運命の子でした。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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