犬派の僕が猫と暮らす理由
撮影&文:紫藤 咲
貰い手が見つかるまでとはいえ、やはり一緒に生活する以上、ねこさんが不快な思いをせずに過ごすことができる環境を最低限、整えねばならないだろうと思った。
日中、仕事で家を空けてしまうから、常には目を配ることができない。
そうなると段ボールの中に置き去りにして出掛けるのは不安が大きかった。
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人間用の器を使うのも、ねこさんの体の大きさや構造などを考えると、決していいとは言えないのではないだろうか。それに獣医さんに行ったときに他の犬猫との接触でストレスを与えることになるかもしれない。
なにより、先住犬のひなさんとはまだ仲良く一緒のスペースで生活は困難だ。次々に思い浮かぶ問題を解決するには、どう考えても彼が落ち着いていられる居場所の確保が必要だった。
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そこで近くのペットショップに買い物に出かけた。
ねこさんがいつまでいるかはわからない。もしも長期で預かることになるのだとしたら、多少は歩き回れる場所があってもいいのではないかと、ケージの購入を考える。
安いのがあればいいなと思いながら、ペットショップのケージ売り場に向かう。
しかし、犬しか飼ってこなかったぼくは、ねこ用のケージを前にして、かなり驚くことになった。
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――二階建て? 三階建てまであるのかよっ!?
猫を飼うことになって初めて知ったのは、これだった。犬のケージは一階だけの平屋建てばかりだ。だが、猫のケージは二階や三階があるマンションタイプなのである。
犬と違い、たしかに猫は高いところまでジャンプできる。犬のように平地を駆け回るよりも、高いところにぴょんぴょん飛び乗っていくイメージも強い。性質上、平屋タイプでは物足りない――のかもしれない。
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犬と猫のケージの違いに驚かされながら、金額を確認する。お値段はピンきり。しかし、五千円以内で買えるケージなんてものはない。予算的なむずかしさに、ケージの購入を諦める。
結局、ペットショップでは哺乳瓶だけを購入した。哺乳瓶を使えば、もっと体に取り込むミルクの量を増やせるかもしれないと考えてのことだ。
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しかし、どうにも物足りなさがついて回る。なにかいいアイテムはないものかと考えを巡らせ、ホームセンターならペットショップよりも格安の物が売っているかもしれないと、足をのばしてみることにした。
普段、犬用品しか見ていないからなのだが、昔に比べて、猫用グッズはずいぶんと充実したように思う。いや、むしろ犬用品よりもスペース広いんじゃないの?な感じさえ受けた。
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ケージの種類も様々。爪とぎはフラットな物以外に、アップダウンがついているものや、遊び心ある形の物が売っている。さらに遊び道具やトイレの砂のバリエーションの豊富さには驚きっぱなしだ。
なかでもトイレの進化には非常に驚かされた。
一年という、本当に短い期間ではあるが、昔、猫を飼っていたことがあった。そのときは、トイレは臭いというイメージがとにかく強かった。砂を敷き詰めても、固まる砂であっても、おしっこがトイレの下へ流れてしまう。底に溜まった尿がひどく臭ったし、固まったおしっこの砂をビニール袋にまとめて捨てていたため、袋の中がとにかく臭くてたまらなかった。
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親に言われてしぶしぶやってはいたものの、猫のトイレを掃除するのが嫌で仕方なかった。とはいえ「猫に触りたければ、ちゃんと世話をしろ」と言われてしまっては、仕方ない。やらざるをえないのだが、それにしたって、拷問級の臭さだった。
猫の尿は独特な強いアンモニア臭がする。これは、大人になった今だって苦手である。しかし昨今、匂いという部分は劇的に改良されているようだった。
トイレの下におしっこを吸収するシーツを敷けば臭わない。シーツの交換は一週間に一度でOKというではないか。
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砂を敷き詰めるトイレの器の下の部分に、シーツを挿入できるトレーのようなものが作られていて、衛生さが強調されている。トイレ本体も、砂もシーツも高額ではない。紙でできている砂もあり、トイレにそのまま流せるタイプまで登場している。
猫ブームによってなのか、ここまで改良されていることに、本当に驚かされた。というか、このトイレシステム考えた人、頭いいなと唸ってしまった。
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しかし、このときのぼくは、ねこさんが自力で排泄できる状況ではないと判断し、トイレの購入も見送った。爪とぎも獣医さんで爪切りをしたばかりなので見送り。
購入する物を吟味しながら、ぼくが最終的に目にしたのは、キャリーケースだった。見たことがある猫用のケースがずらりと並んでいた。編みカゴに窓がついた、獣医さんに現れる大半のねこさんが入っているテッパンものの隣に、見慣れない形の物を発見する。
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三つしかなかったのだが、とにかく斬新だった。一言で表すと、カプセルホテルだ。上と横から入れることが可能で、未来の宇宙船的な印象を受けた。表の扉を上にしまいこめば、部屋のように使うことも可能だという、そのキャリーケースに胸を打ち抜かれてしまったのである。
――これだ! この、誰も持っていなさそうなところもいい!
お値段も三千四百円と実にお手頃価格。そして、手にしてみても、なんだか、とってもお洒落。仮にねこさんが貰われていったとしても、ひなさんが動けなくなったときにも利用できそうだと、ぼくはそのキャリーケースに決めた。
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平らなタイプの食器と、陶器製の水入れも同時に購入。また、キャリーケースの下に敷くようにメッシュタイプのマットを購入。しめて五千円。思ったよりも大きな出費ではなかったことに、少しばかりホッとする。
けれど、やはり心残りはあるわけで……こうやって、猫用グッズを見て回り、実際購入してみると、本当に誰かの手に渡してしまってもいいものかと、脳裏によぎってしまうのだ。
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「ねこケージかあ……」
かなり後ろ髪を引かれながら、ぼくは家に戻る。しかし、それから二日後、このホームセンターを再び訪れたぼくは、もはや迷うことなく二階建てケージを注文するのであった。
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(余談)
――ひとつの命を拾うこと(7/10)つづく――
作:紫藤 咲
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