猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

私がその廃屋で目撃したものは ~タロウの怪談(後編)~

f:id:masami_takasu:20180826084508j:plain文:奥村來未

私に問いかけられたタロウは、恥ずかしかったのだろうか?
それとも、鬱陶しかったのか?
クルッと背を向けると、私を無視して三毛猫とイチャつきだした。
「そうかあ。タロウは彼女に会いたくて飛び出したんだな」

これ以上薄暗い部屋に留まるのが怖かった私は、「きっといつもみたいに、気が済めば帰ってくるよね」と、勝手に結論付けて家に戻ることにした。

さて――、問題はそれからだった――
引き返すにしても、また来た道を戻らなくてはいけない。
入って来た時よりも陽は傾き、周囲は更に薄暗くなっていて、再び恐怖が襲った。
しかし、帰りは歩いてきた通りに帰ればいいだけだ。
私は足早に外に出ようとした。

 

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――グショッ――
靴下だけの足で、何か湿っぽいものを踏んだ。
恐怖と驚きと気持ち悪さに、声も上げずに尻もちをついた。
踏んだものに目を凝らすと、さっきの新聞だった。どうやら湿気ていたらしい。

「なぁんだ~もう……」
少しホッとして、親指と人差し指で新聞を持ち上げた。
すると、サササッと新聞の下から黒い影。
薄暗い部屋の中でも黒光りして、大きな大きなアイツ……
ゴキブリだった。

!!!!
尻もちをついたままで、私は後ろにズザザザザザ!と壁際まで下がった。
ゴキブリはまた、新聞の下へ潜っていった。
「早く出よう!」
そう思って何とか立ち上がろうした瞬間、何か部屋の空気が変わった気がして、暗闇に目を凝らした。

――視線の先には、壊れたブラウン管テレビ――
私が映っている。暑さと恐怖で汗だくの私。
私の後ろの方にも人形が映っている。男の子の人形だ。
不気味だな――
リアルで気持ち悪い。

そこでハッとした。
私の後ろは――、壁だ……
その瞬間、私はオシッコをチビりながら、声にならない声を喉からヒューヒュー出して、這いずりながらなんとか外に脱出した。

心拍数の上がる出来事の連続。
私はもうクタクタだった。
男の子? あれって何? 白いワンピースではないの?
走っているはずなのに、なかなか家に着かない。隣なのに――
無限の時間――

 

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次に私の目に映ったのは、玄関先にとまっている母親の愛車シビックだった。
その瞬間――
アレが何だったのかを考えるよりも、母の怒った顔が頭に浮かんだ。

恐い――
「どうか見つかりませんように」
ソロソロと玄関の戸を開けると、目の前に母が立っていた。
結局、怒られることになった。

理由はタロウを勝手に出したことではなく、靴下で外出したこと。
……盲点だった。
タロウはその日の夜に、なにくわぬ顔で帰って来た。

それからというもの、タロウは家族の隙を見ては、ちょくちょく脱走して廃屋に通うようになった。三毛猫も見かけることが多かったので、逢引していたんだろう。

しばらくして、三毛猫が自宅と廃屋の間にある物置で子供を産んだ。
その中にはタロウそっくりの白猫も居たが、父親がタロウでないことは確実だった。何故ならば、タロウは“玉無し”だったからだ。

雄猫はスプレーといって、オシッコをあちこちに霧状に吹きかけるのだそうで、タロウは一歳前に去勢されていた。

「タロウ、振られたね」
意地悪で私がそう言うと、タロウは明らかに不機嫌になった。
そのせいなのかどうかわからないが、タロウは私の見ている目の前で、三毛猫の子が産んだ子猫たちに、ちょっかいを出そうとした。

「シャー!」
すかさず三毛猫がタロウを攻撃。
タロウは横っ腹に小さな引っ掻き傷をこしらえて、尻尾を丸めて家に帰って行った。

タロウはその傷が化膿して、約二週間エリザベスカラーをつけるはめになった。
「タロウ、もう逃げ出しちゃだめだよ」
私の言葉に、タロウは「ニャウー」と鳴いた。

そうそう、幽霊の話だけれど……
それは――、また――、今度――

 

――タロウの怪談(後編)おしまい――

文:奥村來未

――前話です――

――このシリーズの1話目です――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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