猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【はじめての猫】これも愛。いや、違うでしょ!? ~ねこさん拾いました|ひとつの命をはぐくむこと(9/11)~

ねこさん、拾いました
f:id:masami_takasu:20180913091242j:plain撮影&文:紫藤 咲

パラボラアンテナ状態になって帰宅したねこさんは、首が重たいのか、うつむいていることが多くなった。350gの体重に対して、50gのプラスチック装置。体重の7分の1の重さが首に圧し掛かるのだから、そりゃ、重いに決まっている。

しかし、それでもなお、ぼくは彼の目がよくなることを優先したかった。

結膜炎の症状がなくなって、目がかゆくなくなれば彼も楽になるだろう。
かゆみや痛みがなくなれば、不快感から解放される。いやな感覚がなくなれば、気持ちにかかる負担も少なくなる。全力で風邪だけに向き合える。
そうすれば、メキメキ体力を回復し、元気に飛び回ることもできるようになるだろう――こう考えたのは親ごころゆえだ。

だから彼がトイレの本体にアクリル部分を擦りつけてとろうとしたり、ブルドーザーみたいにガリガリと砂を運んだりしても、首の隙間に手が入ってしまい、うにゃうにゃな困ってしまうようなことになったりしても、心を鬼にして、断固として外さなかった。

あまりにつらそうなときは抱っこしたり、首を支えたりして、なんとかやり過ごそうとしていた。

おそらく1kg以上あれば問題にならない重さなのだと思う。
しかし、ビール缶一本分に等しい体重しかなかった彼には、恐ろしく重い上にデカい代物だった。

顔の周りをぐるっと取り囲まれてしまった状態では、水を飲むのも、ごはんを食べるのも難しかった。アクリル板の縁が壁となり、器に当たってしまって、器に口を近づけることができなかったのだ。

それでもなんとかうまいこと、彼自身がやりくりして水を飲むことには成功していたが、ごはんはそうもいかなかった。毎回食べやすい角度にステンレス製の平皿を斜めに差し入れてやらなければ、食べることができなかった。

当然のことながら食べる意欲は低下し、食事をするだけで体力を消耗してしまう。途中で疲れて諦めてしまうから、指で与える。

そんなことを繰り返していたせいで、ぼくの指は常にねこさんのフードの匂いがしていた。

 

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指以外にも匂いがしみついたものがあった。アクリル板だ。

風邪のせいで食事中にもくしゃみをするから、せっかく口に入れたフードが飛び出して、アクリル板にくっついてしまう。くっついたままでは衛生上よくないのでウェットティッシュで拭き取るのだが、匂いだけはどうしても消すことができなかった。

だから彼を抱っこすると、顔周りはいつもフードの匂いにまみれていた。

この匂いに釣られたのがひなさんだ。
食欲魔神の彼女の目の前に、弱って動きの鈍くなったねこさんがいらっしゃる。彼からは食べ物のいい匂いが常にぷんぷんと漂ってくるわけで―― 

ぺろん。
ひなさんが、ねこさんのお顔を一舐めしたのである。

ずきゅーーーんっ!
ぼくのハートは即、撃ち抜かれた。

――なにこれ? 奇跡? これも愛だよね――――! って、ちがうだろ。
それは食べ物への執着であって、愛じゃない。
と、くだらないノリツッコミを一人でしてしまいたくなるくらいには、一歩も二歩も、彼らの距離が縮まったようにぼくには思えたのだ。

この匂いプンプンは、さらにひなさんの心を解いたのだと思う。
彼女がいつも寝ているベッドにねこさんが入って寝ても、彼女は怒らなかった。追い出しもしなかった。彼の鼻先を嗅いで、アクリル板を舐め、一緒に寝る。下手をすると踏んづける、お尻で。

 

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――いやさ、きみ。何kgよ? 
ねこさんの十倍以上の体重で踏んづけるって、パンダの赤ちゃんみたいにぺちゃんこになっちゃうじゃない。

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踏むのはダメだよ、踏むのは。
そう思いながらも、ぼくはニマニマ顔で彼らの寄り添う姿を見守っていた。

今になって思うのは、こうやって触れ合う機会があったからこそ、彼はひなさんを好きになったのではないだろうか? 
そしてひなさんも、彼の状態がよくなかったのを誰よりも強く察知していたに違いない。 

この頃、彼女は彼に対して、絶対に怒ることをしなかった。
どんなに近くに寄って来ようとも、自分の領域に踏み込まれようとも、立ち去ることもなければ、小突いたり、転がしたりもしなかった。

どちらかと言えば、静かに見守り、寄り添っていた。
彼女のこういった優しさが肌を通して伝わったからこそ、彼は生きることを選択しようと思ってくれたのかもしれない――

かくして、パラボラアンテナ状態となってしまったねこさんは、ラッピングカゴで作られたベッドに首を預けながら、苦しそうに一夜を明かすことになる。

けれど翌日、思いがけない奇跡が起こる。
それはぼくにとって、かけがえのない思い出深い一日となるのであった。

 

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ねこさんは、うまく眠ることができなかったため、かなり体力を消耗している様子だった。

(余談)
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――ひとつの命をはぐくむこと(9/11)つづく――

作:紫藤 咲
 

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