猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【はじめての猫】奇跡の一日 ~ねこさん拾いました|ひとつの命をはぐくむこと(10/11)~

ねこさん、拾いました
f:id:masami_takasu:20180913094235j:plain撮影&文:紫藤 咲

ねこさんと暮らすようになって、物が多く、雑然としていた室内をキレイに片付けなければいけなくなった。

ただでさえ動きが鈍いねこさんが少しでも楽になるようにと、不要な家具を一気にどーんっと粗大ごみとして出すことにしたのである。

そのため、ねこさんがパラボラアンテナ状態になった翌日、ぼくは朝の四時半に起床しなければならなくなった。仕事に出かける前に粗大ごみを捨てにいかねばならなかったし、なにより、ねこさんの状態が気がかりだったからだ。

大丈夫だろうか。彼は眠れただろうか。昨日よりも元気がなかったらどうしようと思いながら、恐る恐るねこさんの居室を覗く。すると、想像もしていなかった現象がぼくを待ち受けていたのである。

「にゃーん」
ねこさんが鳴いたのだ。
マンションの閉じられた扉の前で――である。

扉の前でちんまりと座ったねこさんがぼくを見て鳴いたことに、ぼくは一瞬、誰の声? となった。
もちろん、ねこさん以外にありえないのだが、にわかには信じがたかったのだ。

マンションに近づくと、ねこさんはぼくを見て、また「にゃーん」と鳴いた。

「出してほしいの?」
「にゃーん」

――うそーん、なにこれ、可愛すぎなんですけど!
初体験だった。コミュニケーションを取ることができたのが初なのである。パラボラアンテナ状態なのに、この日は見違えるように元気に見えた。

思い切って扉を開けると、ねこさんがスタッと出てきた。今までにないくらい、しっかりした足取りで。

さらに驚いたことは、ひなさんの後をついてきたことだ。
残念なのは、ぼくではなく、ひなさんであるという点なのだが、それはいい。譲ろう。

彼が今までにないくらい元気になって、ちょこちょこ動いていることが奇跡なのだから――

ぼくの後をついてくるひなさんの後ろを、ねこさんがついてくる。
想像したら、なんとほほえましい情景だろうか。親亀の上に子亀、子亀の上に孫亀みたいな状態だった。

彼らはぼくに従って台所へやって来た。目的はもちろん、ごはんだ。しかし、こんなことも初めてだった。

ねこさんは今まで一度も台所に来たことなどない。それなのに、この日は台所に来て、ぼくに向かって「にゃーん」と鳴いて、ごはんが欲しいとアピールしたのだ。

嬉しくなったぼくは早速ごはんを作った。ひなさんにあげた後で、ねこさんにあげる。がっついて食べる。

――ああ、これが元気がある本当の姿なんだ!

かなり嬉しかった。
彼は介助なしで皿のごはんを食べきり、満足そうにしたのである。

だが、喜んでいられるのもつかの間のことだった。ぼくは仕事に行かねばならない。それにゴミも出しに行かなければならなかった。

 

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ごはんを食べて落ち着いたねこさんをひなさんに任せて、ぼくはゴミを片手に玄関に向かった。すると、ぼくを追いかけてひなさんがついてくる。もちろん、彼もついてきたのである。

――どこ行くの?

可愛い目がぼくをじっと見つめている。なんだろう、この気持ちは……心の奥底からじんわり温かな気持ちが滲んでくるのだ。

ぼくをじっと見つめる彼らに「すぐ戻ってくるよ」と言い残し、ぼくはゴミを片づけに行った。手早く粗大ごみを出し、ウキウキしながら戻った。

もしかして、玄関で座って待っていてくれるかなあ――なんて期待を膨らませてたが、さすがにいなかった。

しかし、がっかりすることはなかった。むしろ、喜ぶ事態が待ち受けていた。
ソファーに座ったぼくの隣にやってきたねこさんの背中をゆっくりと撫でると――

ゴロゴロゴロ……

座ったままの状態で、ねこさんは目をつむって喉を鳴らした。
ぼくが撫でるのが気持ちよかったのか、撫でている間はずっとそんな状態だった。

――うへえぇっ! めちゃくちゃ、かわいいやないかーい!

抱きしめたくなったけれど、パラボラアンテナ状態の彼に頬ずりはできないので諦めた。とにかく気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らしている彼の背中を何度も撫でた。

信じられない奇跡の連続に、ぼくは朝からハイテンションになった。
会社に行くのもルンルンだった。抗生物質が効いたのだろう。

きっと、このままよくなるぞ! よくなって、またゴロゴロ気持ちよさそうにしてくれるぞ! あの食べっぷりだったら、体重だって絶対に増えていく! これで目も治ってくれば問題はなくなる!

そう確信していたのに――

獣医さんに二度目の抗生剤を打ってもらえる。
朝の奇跡の出来事が、また続く。
と思っていたのに――
想像していた事態へとは転がらなかった。

その日の夕方、二度目の抗生剤を打ってもらったあと、彼の様子は朝とはまったく違うものへと変わってしまう。

これが最後の命の灯だったのではないかと考えさせられるような過酷な道へと進んでいくのである。

(余談)
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――ひとつの命をはぐくむこと(10/11)つづく――

作:紫藤 咲
 

――次話――

――前話――

まとめ読み|猫さん拾いました ④
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週刊Withdog&Withcat
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