犬派の僕が猫と暮らす理由撮影&文:紫藤 咲
しばらくお時間をいただきました。
今回から、『ねこさん、拾いました』の第3クールがスタートです。
猫さんを自分で飼うことに決心したぼく。
猫さんは快方に向かっているように思えたのですが、実はそうではありませんでした。
波乱の第3クールですが、お話を始める前に、まずは漫画でこれまでを振り返ってみます。
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【漫画で振り返るこれまでのお話】
(さて、ここから先が第3クールです)
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ある日のことだ。
ねこさんがパラボラアンテナ状態になったことを心配した友人から、ぼくはねこの飼い方についてのアドバイスを貰った。しかしその内容に、ぼくは驚愕することになった。
『夏生まれの子猫はエアコン厳禁なのは聞いてる? エアコンのない部屋で育ててあげてね』
――え? なんですと?
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寝耳に水である。そりゃ、当然だ。
ぼくの人生の中で、猫という生き物との濃密な接点はわずかしかない。さらに子猫なんて育ててきたこともない。彼に出会うまでは興味(まったくない訳ではなかったが、進んで学ぼうとする姿勢は皆無だった)もなかったから、そんなことも知らずにエアコンをかけ続けていたのである。
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しかしだ。かけずにはいられない。日中三十度を超える暑さが続いている真夏の日本で、エアコンをつけずにやりすごせる家庭はどれだけいるだろう。風通しのいい家ならまだなんとかなるかもしれない。しかし、そんな家はめったやたらにあるものでもない。
残念なことに、うちは風通しがすこぶる悪い。その上、ひなさんがいる。
彼女が熱中症にならないためには一日中、二十八度の設定でエアコンをフル稼働しなければならない。
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『室温二十八度設定でエアコンかけてるのはいいのかな?』
と、友人に質問する。すると、その温度ならいいという返事だった。
正直、ホッとした。しかし、無知ゆえの落とし穴が実はあったのである。除湿をしていたことだ。特にねこにとって除湿が有害であることということを知るのは彼が入院してからのことだ。
そう。百歩譲ってエアコンはいいにしても、除湿をしてしまっていたということが彼の容態を悪化させた要因の一つとなる。
さて、エアコンの設定温度はいいという結果は出た。これで問題なかろうと思っていた矢先、友人から『湯たんぽは?』という別の質問を受けることになった。
――は? 湯たんぽ? そんなものないってば!
ぼくは寝るとき、異常に体が熱くなる。よって湯たんぽは不要の産物だ。
寒い時期はひなさんという天然自然湯たんぽまである。これで通常の湯たんぽを使おうものならサウナ状態になることだろう。寝るどころの騒ぎではなくなる。汗だくになってうなされて、不眠に陥る未来しか見えない。
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『ないなら、ペットボトルにぬるま湯入れて、タオル巻いて入れてあげて』
――なるほど。それなら簡単に作れそうだ。
ねこさんはまったく元気がない。じっと丸まっている。具合の悪いときはぬくぬくしたくなるのもたしかにわかる。それに人肌は落ち着くものだ。
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早速、湯を沸かし、ペットボトルに入れ込んだ。タオルを巻き、ねこさんのベッドに入れてみる。しかしながら、ベッドの半分がペットボトルに占領されてしまう。入れたのはいいけれど、これ、安楽に寝られるの? と疑問符だけが増えていく。
そこへねこさんを置いてみる。だが、最初こそ寄り添って気持ちよさそうだったねこさんはすぐにそこから出てしまう。あろうことか、カーペットの上で丸くなってしまう。
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――なんでよ?
何度トライしても同じだった。ねこさんは湯たんぽを嫌がり、ベッドに入らない。
――いらないの?
仕方なく、ペットボトル湯たんぽ撤収。せっかくのアドバイスも、このときのねこさんには威力を発揮してはくれなかった。
そんなガッカリ気分なぼくは専用ベッドでのんびり眠るひなさんを発見する。
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――ここなら……いいんじゃない?
カーペットの上で丸くなるねこさんを、ひなさんの寝るベッドの中に入れてみる。
ひなさんはふんふんと彼の顔の臭いを嗅いだ後、くたっと眠る彼を抱えるように寝たのである。
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――なんて、愛のある光景!
しかし、一瞬で終わる。そんなもんである。それでもひなさんがねこさんが横になることを嫌がらなかっただけマシだ。
例のごとく、ヒップで身体を少し踏んづけはしたけれど、それでも追い出すような真似はしなかったのだ。呼吸の荒さは変わらなかったが、ねこさんはじっとそこで眠っていた。結局、長い時間寄りそうことはできなかった。だけど、ひなさんの温もりは少しくらいは伝わった気がする。
優しさ……そう、優しさ。
それが彼に届いたと実感することになる出来事は直近の未来に用意されていたのだから。きっと彼女の存在なくして、今の彼はあり得なかったのだから。
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このときのぼくたちはまったく実感がなかったけれど、自然に家族としての絆ができていたのだと思う。ちゃんと目に見えない部分で繋がっていたのだと思う。
だって、それがなければ彼は生きたい、生き続けたいと思ってくれなかったはずだから――
彼の元気がない間、ひなさんはとにかく彼に優しかったのです
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(余談)
――ひとつの命をつなぐこと(1/10)つづく――
作:紫藤 咲
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――次話――
霊感を持つ友人のハットリくんが言う。
「死相が消えないな」
その言葉通りに、悪化していくねこさん。
大好きなタオルの上で寝なくなった。
そして、じっとして動かない。
――前話(第2クール最終話)――
通院日、元気になったねこさんと病院へ。
そこでねこさんは、もっと元気になるはずだった。
3本打つ予定の抗生剤。その回目だった。
しかし、その注射はとても大きかった。
前の3倍くらいに。
そして、ねこさんは――
本クールの最終話です。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――本連載の第1話です――
運命の日――
ぼくは猫を拾った。
犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
はじまりは、里親探しから。
――当然、未経験。
「ぼくらの物語はこの日から始まった」
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