猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【猫の保護】死相が消えないな ~ひとつの命をつなぐこと(2/10)~

ねこさん、拾いました
f:id:masami_takasu:20181122104935j:plain撮影&文:紫藤 咲

ねこさんの具合がジワジワと悪くなっていく中で、二つの言葉がずっと頭にこびりついて離れなかった。

一つは『生きることを諦めている』というもの。これは本当にその後、なんども考えさせられることとなった言葉だ。

そして、もう一つ。
スピリチュアル男、ハットリくんはぼくにこんなことを言ったのだ。
「死相が消えないな」

 ――は? なに言った?

目ヤニと鼻水の塊だらけ。さらに拭くと汚れが溶けて茶色になる。そんな汚い顔をしたねこさんを抱きかかえた彼は、じっとねこさんの顔を見つめて、そうぽつりとこぼしたのだ。

「死相? 死ぬってこと?」

聞き返すぼくに、ハットリくんは「それはわからん」と返しながらも、神妙な面持ちで「うーん」と唸っていた。

ときどきだが、彼は死を予言する。寿命が見えるらしいのだ。
死が近づいている人には独特なオーラがあるようなのだが、霊感マイナス値のぼくにはまったく理解できない世界の話である。

とはいえ、親友の言うことだ。まったく信じていないわけでもない。
事実、ぼくの祖母の寿命も言い当てている。

ひなさんも寿命宣告されたけれど、彼女の場合はぼくのことが心配で離れられず、無理して寿命を延ばしているらしい。いや、だからって、それを度々言わないでくれよ……と思うが、このことに関してはできるだけ考えないようにしている。

あと数年というのはわかっている。覚悟もしている。しかし長生きしてほしいと願うのは、愛する家族を持つ者ならば当然のように思うことだろうから。

だからこそ、彼の発言は聞き捨てならなかった。
ねこさんを拾った当初から、彼には『死』の話をされている。

まあ、あれだ。仮にスピリチュアルな力がなかったとしても、ねこさんの様子や表情を見れば、誰もがハットリと同じことを考えてしまう状況でもあったのだけれど……

「生きることを諦めているって前に言ってたけど、今でもそうってこと?」
ぼくの質問にハットリくんは「それはわからん」と再び答えた。

なんともハッキリしない。
いや、ハッキリできなかったのだと今ならわかる。

「でも、死相がな。ずっと消えないんだよ」

だからなのだろうか? 彼はぼくに口酸っぱく獣医さんに相談して来いと言った。
何度も、何度もだ。

早めに対応して、どうにかして彼の運命を変えたかった――
これが本音だろう。ぼくがのんびりしているから、危機感を持たせるためだったのかもしれない。発破をかけてきたつもりだったのだ、彼としては。

しかしながら、懸念していた事態は現実のものになっていくのである。

 

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身体全体で大きく息をするねこさんは、マンション内のベッドでは寝なくなった。
あんなに好きだったもふもふタオルの上でも寝ようとせず、薄いカーペットの上に出てくる。そしてじっとその場から動かない。

寝苦しいのか、場所を移動する。でもベッドには絶対にいかない。
カーペットの上を数十センチ歩いて、その場でじっとする。
身体は熱く、呼吸は苦しそうでならなかった。

本当は丸くなるより身体を伸ばしたいのだろう。だが、パラボラアンテナが邪魔をする。力の入らない身体だから、歩いてもカラーの重みにふらつく。水を飲むのもやっとだったし、ごはんは口にほとんど入らない。

彼の身体状態は緊迫したものへと確実に変化していた。

この間、カラーを外してあげようかと何度思ったかわからない。それでも、目を引っ掻いてはますます大変になってしまうかもしれないと思って心を鬼にした。こんな状況にもかかわらず、だ。

今ならおそらく、誰になんと言われようと外すだろう。目も大切だけど、それよりも生きることのほうがずっと重要だと思うから。

獣医さんが休みであるその日は、本当に気が気でない状況だった。夜中に何度も起きて、彼の姿を確認した。まだ、生きている……と見るたびに安堵はしたけれど、ぐっすり眠ることなどできなかった。

夜間救急に彼を連れていこうかとも悩んだ。近くに動物の夜間救急があるのは知っていた。けれど、それも見送った。知らないところへ連れて行くよりもかかりつけ医に行ったほうがいいだろうと思ったからだ。翌日の仕事から帰った後になってしまうことを重々承知の上で、ぼくは選択した。

これも、さらに状況を悪化させたミスチョイスだったのかもしれない。

やっと仕事を終えて、連れて行ったその日も獣医さんはめちゃくちゃ混んでいた。
二時間近く待ち、やっと名前を呼ばれたときは心の底からホッとした。

――きっと大丈夫。この間まではすごく元気だったし、診てもらえれば、すぐに楽にしてやれる。元気になれるぞ!

診察台に彼を置き、状況を説明する。すぐにレントゲンを撮ることになった。
そして、レントゲンを撮り終え、再び診察室に戻ったぼくに告げられたのは衝撃的かつ恐ろしい一言だった。

「入院しないとまずい状況です」

けれどこの後、ぼくはもっと残酷な現実を突きつけられ、選択を迫られることになる。絶対に間違ってはいけない最大の選択が、ぼくを待ち受けているのであった。

(余談)
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――ひとつの命をつなぐこと(2/10)つづく――

作:紫藤 咲
 

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週刊Withdog&Withcat
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