猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【猫の保護】切り札投入~ひとつの命をつなぐこと(9/10)~

ねこさん、拾いました
f:id:masami_takasu:20181213095254j:plain撮影&文:紫藤 咲

ねこさんが入院して四日目こと、ぼくはついに切り札を投入した。
そう、ひなさんである。

実はひなさん自身もねこさんが入院してからは、少しばかり不安感が強くなってしまっていた。ねこさんと一緒のときには、出掛けようとしても『わたしも行く』なんていうアピールをあまりしなかったのに、ねこさんが入院してからは『わたしも連れて行って』というようになった。

彼が来る前の一人だったときのように――いや、それよりも強いアピールだったかもしれない。

仕事が終わってから、ひなさんを連れて獣医さんへ向かう。
いつものように獣医さんは混みあっていて、座るところすらない状況だった。彼女は自分が診察を受けるのかと、ぶるぶる震えて落ち着かない。

受付で『面会です』と伝えてから、震えるひなさんを抱っこして待っていた。しばらくすると、青いカゴに入ったねこさんがやってくる。

カゴの傍にひなさんを座らせると、ねこさんの様子を見た。

――えっ!?

かなり驚かされた。

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これまでと彼の様子が違うのだ。 

――あれ?

「みゃあ」

鳴いている。
さらにすごいことに、出たいとカゴの柵の間から手を出したり、ねこパンチしたりしたのだ。

「鳴いてる……なんで? この間まで鳴かなかったのに……」

ぼくはそんな言葉をずっと繰り返し口にしていた。するとひとりの女性が近寄ってきた。彼女はぼくに「一緒に見せてもらってもいいかしら?」と声を掛けた。

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「はい」
「ずいぶん小さいですね。でも、とてもかわいらしいですね」
「肺炎で入院しているんです。ずっと鳴かなかったし、こんな動きもしなかったんです。でも、今日はすごく元気そうで。こんな姿、初めて見るんです。こんなに鳴いているのも初めてなんです。もう、どうしたのかわからなくて」

知らない女性にもかかわらず、ぼくはやたらと早口でそんなことを語っていた。それくらい興奮していたし、考えもまとまらなかった。
状況を正しく理解できなくて、パニックになっていたのかもしれない。

「よかったですね。早く退院できるといいですね」

女性はニッコリとぼくに笑いかけてくれた。ぼくは力強くうなずいた。希望という光が芽生えてきたのかもしれないと、そう思った。

傍に座るひなさんはちらっとねこさんの様子は見たものの、気が気じゃない様子で舌を出していた。ねこさんはそんなひなさんをわかっているのか、何度も、何度も見ていた。

どうしてこういう状況になったのかを知りたくて、ぼくは先生の話を聞くことにした。ずいぶん待った。待っている間もずっと、ねこさんは外に出してほしそうに鳴いた。手を出した。あろうことか、カゴの中をうろうろした。

――きっとよくなってきているんだ!

そう思って、期待に胸を膨らませた。先生と対面する。しかし膨らんだ胸は返ってきた言葉に一瞬でへこむことになった。

「今日は元気だけど、土曜の夜は突いても動かなかったよ。正直、もうダメだと思ったよ」

――え? 土曜の夜? 動かなかった?

「あの……すごく痩せたと思うんですけど……」

ねこさんはガリガリに痩せていた。
横になると、あばらがハッキリわかるくらいに痩せこけていた。

顔だってシャープになり、骨と皮だけだ。左目は大きく開いてきてはいるが、鼻の周りは相変わらず黒い塊がべったりとくっついていて、汚いままだった。

 

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「そりゃ、自力で食べられないからね。点滴だけなら痩せるよ。無理やり食べさせてはいるけど」

先生の答えはひどく淡々としたものだった。ずいぶん冷たい言い方に聞こえた。

「あの……血液検査とか……しないんでしょうか?」
「検査できるだけの血液が採れないでしょ」
「はあ……」

このときのぼくは、先生に対する信頼感が半々になっていた。毎日ハットリくんに先生の見立てが悪かっただの、初めに連れて行った段階で血液検査をしなかった先生の落ち度だの、医療ミスだの言われ続けたのが要因だった。

ゆえに生まれた疑問を口にしてみたのだが、それが悪かったのかもしれない。先生を苛立たせた可能性がある。

先生はさらに続けた。
「死ぬか生きるか賭けるなら、死ぬほうに賭けたほうがいいと思う」

 ――え? 
死ぬ確率のほうがずっと高いの? 
こんなに元気になっているのに?

「元気に見えるかもしれないけど、この子に使える最大の量の抗生物質を今は入れているの。副作用も出るかもしれないけど、死ぬよりはいいと思ってね。それくらいひどい状態だからね」

入院する前の彼の体重は350グラム。けれど現状は、きっとそれよりもずっと少なくなってしまっている。自力で食べることもできず、皮下点滴だけでどうにか生きながらえている現実を突きつけられて、それ以上、ぼくはなにも言えなかった。

「とにかく、今はこの子の状態に合う薬を探しているかんじだから。助かるとは本当に言えない」

元気に動き回っているのに、たくさん鳴いているのに、それでも先生は死ぬ確率が高いと言い続けた。

診察室を出るぼくは、今まで以上に落胆していた。希望が見えてきたと思ったのに、ふりだしに戻ってしまった。いや、もっと悪い。彼の生存率はこれまでにないくらい最悪のような気がしたからだ。

 

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――戻ってこい!

そう願わずにはいられなかった。
出たいと。出してほしいと。そう鳴いた彼は、きっとひなさんが来たこともわかったはずだ。

ぼくらは一人じゃないから。一人で戦っていないから。そう届いていると信じて、ぼくは獣医さんを後にした。

次の日は休診日。次に会えるのは二日後。

それでも――!

生きることをあきらめさせないために、次の日ぼくは、とある行動に出る。
きっとそのことも彼が助かるための大きな要因のひとつになったのだと思う。

希望をつなげるための強い思い――その力がどれほど大きなものであるかを目の当たりにするのは、それから二日後のことだったのだから。

 

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※ねこさんは本当にガリガリだったのだが、それでも鳴いて必死に帰りたいと伝えているように思えたのです。

(余談)
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――ひとつの命をつなぐこと(9/10)つづく――

作:紫藤 咲
 

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週刊Withdog&Withcat
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――本クールの第1話目(1/10)です――

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