私の空、マナ!撮影&文:あおい空
夏の終わりの夕暮れに、私の淋しさは頂点に達した――
というのは前回書いた通りです。それから数日後のことでした。
急に子ネコの鳴き声がする。思いっきり部屋の中まで聞こえてきます。
どうやら、アパートの後ろの家の塀の中です。
ここで暮らして二年がたつけれど、野良ネコも飼いネコも殆ど見たことがありません。
一体どうしたんだろう?
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この三日間は雨が降り続いています。さすがに気になって外に見に行きました。
私が仕事から帰るのはもう薄暗くなった時間ですから、それからすぐに日が落ちて、辺りは真っ暗になります。闇の中で塀の中を覗いても、子ネコの姿は見えません。
必死の鳴き声だけが聞こえてきます。
探し回って分かったことは、どうやら私の部屋のベランダが、子ネコがいる場所に一番近い位置にあるということだけ。
子ネコは相変わらず鳴いています。
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――翌朝になり――
目が覚めると、子ネコの鳴き声が聞こえません。
ずっと大きな声で鳴き通しだったのに〜
「どこ行ったかな」私は外に出て探しました。
すると――
いました! 今までいた家の塀の中から出て、隣りのお宅の庭に!
とっさに捕まえて、抱っこしてアパートの部屋の中へ。
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洗濯カゴにフリースを敷き、そこに入れてあげると、子ネコは安心したのか眠ってしまいました。
この日は金曜日。平日でしたが、私は会社に電話をして「子ネコ拾って病院に連れて行くため休みます」と言って、お休みをもらいました。
そして動物病院の開院時間を待って、自転車で連れて行きました。
子ネコの体重は400グラム。
小さな小さな、女の子でした。
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部屋に帰った私のネコさん。
なんと私のアパートは、この5月に大家さんの鶴の一声で、ネコ一匹限定で同居可になったばかり。その4か月後に子ネコを拾うとは、なんという不思議でしょう?!
こんな幸運に恵まれて、この日から一人暮らしだった私と、子ネコさんとの生活が始まったのでした。
もちろん土日はどこにも行かず、ネコさんと一緒に過ごしました。
さみしかった生活は一変です。
私にとっては狭いつまらないアパートの部屋ですが、子ネコにすれば興味津々です。
何でもオモチャにしてしまう才能は、初めて子ネコと暮らす私には新鮮でした。
ネコって偉いなあ。ボールペンも、スマホにぶら下がっているマスコットも…すべてをオモチャに変える魔法使いのようです。
それに比べて、自分は何てつまらない人間だったのだろう……
そんな風に反省しました。
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とはいえ、そんな楽しい休日も、あっという間に過ぎていきます。
月曜日からは仕事があり、ネコさんは一日お留守番をしなければいけないという現実がすぐに目の前にある訳で……
大丈夫かな?
ミルクとカリカリはまだ半分半分だしな……
朝と夜はミルクあげるとしても、お昼はどうする?
などなど課題蓄積なわけです。
そしてどんな心配があるにしても、自活している私はとにかく仕事を休むわけにはいきません。
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――月曜日の朝――
カリカリと水を茶碗に入れると、私は何度か部屋の中の子ネコを確認し、それから戸を閉めました。――でもやはり気になる。
戸を開けて、子ネコを確認して、戸を閉めてはまた開けて。
何度もそれを繰り返し、ようやく私は会社に向かいました。
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会社に着いてからも、「どうしてるかな、一人で大丈夫かな、さみしくないかな」と考えてばかり。「早く帰ってあげなくちゃ」と気がきではありません。
そんな私は、今までの私とは違います。
終業のチャイムが鳴ったら直ぐに帰ろうと、書類を整理し明日の仕事の段取りを頭に入れながら、帰る準備に必死です。
金曜日に、子ネコを拾ったことを上司に電話していたのが幸いしました。
上司はその日の業務報告に目を通すと、サッサと帰してくれたのです。
さすがです、上司! 社員をよく観察し管理するのが、良い上司の役目です。
「1分でも早く帰らなくては!」
そんな私の日々が、こうして始まりました。
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マナが3日3晩鳴いていた
アパートの後ろの家の塀の中です
今もあの時と変わっていません
奥に隠れられると、絶対捕まえられないし、
どんな子猫なのかもわかりませんでした。
――二人出会いは突然に(2/10)つづく――
作:あおい空
▶あおい空:記事のご紹介
構成:高栖匡躬、樫村慧
――次話――
――前話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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