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【逃げてしまった!】おままごと、ベランダに慣れたマナ ~二人に舞い降りたものは何?(10/11)~

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私の空、マナ 20話
  ベランダに出るようになったマナ

撮影&文|あおい空
 

マナと暮らして半年あまり、季節はどんどん春めいてきました。
動物が冬眠からさめるように、心浮かれて外に出たくなってくる季節。

私はアウトドア派――、というか、育った環境からかどうにもアウトドアを志向してしまう、田舎者。

それに対するは、びびりで外が恐くてどうしようもないマナ。

私の仕事は、月曜日~金曜日まで1日中ビルの中にるので、休みの日はその辺りだけでもいいからブラブラしたい。しかし、マナは外には出たくない。

一人で外に出ればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そうはいきません。
毎日ずっと留守番をさせているマナのことを考えると、かわいそうで出かけることなんて出来ないのです。

私は、何か良い方法はないかと、ずっと考えていました。
マナの欲求も、自分の欲求も満たされるような方法はないのかと――

ある日、ベランダで洗濯物を干しているときでした。
思いついたのです。それを!
「おままごとだ!」
そうです、おままごとです。小さな頃、畑にゴザを敷いて幼なじみの友達としたおままごと。外に出られないのなら、外の雰囲気を家の中に持ってくればいい。

「よっしゃ~!これだ」
と声を上げた私。
「マナ、すぐ帰ってくるから待っててね」と言うと、すぐに自転車を飛ばしました。向かったのは、近くの川の側にある、山道の入口。ここの山道の崖には、春の花の山野草が咲き、道端には石が落ちています。

私は花を積んで石を拾うと、一目散にアパートに戻りました。春の夕暮れが肌寒くなるのが早いので急がなければいけません。

 

ベランダデのピクニック

アパートにつくと、ベランダにピクニックシートを敷きました。車を持っていたときに陽射し避けに使っていたものを、代用したのです。そしていつもは椅子の上に敷いている座布団を並べます。これだと座っても痛くないはずです。

それから、摘んできたお花を瓶に差して、何個か持ってきた石を並べて自然のイメージを醸し出しました。

この頃のマナは月齢9ヶ月ですが、わりと奥手なのか、食が細くて小さかったと思います。ピクニックのおやつには興味がないようです。

でも、私がベランダに座ると、マナはオドオドしながらもそこに置いた花や石の匂いを嗅いだりして。

そうしているうちに、カラカラという音が聞こえました。お隣の人が、洗濯機を回すために出てきたのです。
マナは気配に気づいて、そそくさと部屋の中に入ってしまいました。

ゴーゴーと洗濯機が回り始めます。
実はこのアパートのベランダは各戸の間に仕切りがありますが、隙間からお隣が少し見えるのです。

私は、花や石を並べてベランダに座っています。
『これは、絶対変な人に思われるよ。こっちから先に、何か話しかけとこう』
そう思いました。
「こんにちは、天気が良いのでベランダで、日向ぼっこを兼ねておままごと遊びをしてました」
そう私は言いました。きっと顔は真っ赤か真っ青だったでしょうね。
本当に恥ずかしかったのです。

すると、思いもかけない言葉が返ってきました。

「いいですね、楽しそうですね」
お隣さんの口調からして、馬鹿にして言っているわけではないことがわかりました。本当に優しい人なんですよね、このお隣さんは。

職業柄、子供のことをよく理解していらっしゃるので、精神的子供である私の行動も、分かってくださったのかもしれません。何はともあれ、ホッと胸を撫で下ろした瞬間でした。

そしてこんな風にして、暫くの間ですが、一緒にベランダにいることができたマナと同居人です。

 

花のにおいをかぐマナ

そんな休日を過ごした翌週は肌寒く、おままごとはできません。
この頃から、天気の良い日はとにかく布団と洗濯物はベランダに干します。
マナは、おっかなびっくりですが外に興味を持ち出しました。
洗濯物を干す時には、マナが外へ出てしまうかと、台所と部屋の境の戸を閉めて台所で待ってもらいます。

ベランダから見える外の景色は、そんなに広いものではありません。でも私はマナに、そんな景色を見たり、吹く風の爽やかさを感じたりしてほしいという思うようになりました。元々が自然派のハチャメチャ人なだけに、春の陽気と共に芽生えたその気持ちは、なかなか抑えることができません。

晴れた休日の日のことです。私が窓を開けると、マナがベランダへの最初の一歩を踏み出しました。恐る恐るの一歩です。春に浮かれる私と違い、マナは慎重です。しばらく様子を見ていましたが、活発に動き回ることもなく、自分でベランダから外へ降りることはなさそうでした。

それからベランダは、マナの居場所の一つになりました。
実はこれは、私の油断の産物でした。
痛恨の事態が、この後に起きてしまうのです。

ある日マナは、ベランダの柵に手をかけて外を見ていました。
――いつものように。
当然のように、安心しきっている私。

しかしです――
そんな私の目の前で、マナがピョンとベランダの外に飛び降りてしまったのです。
突然のことでした。

さあ、大変です!
私の心臓はバクバクになり、焦りに焦りました。
ベランダの柵を飛び越えられない私は、急いで玄関から、外へ飛び出していきました。
しかし、そこにはマナの姿はありません。

「マナ、マナ」
私は小さな声で、マナを呼びました。ほんとうにささやくような声で。
今思うと何故でしょうね? マナが驚いて、逃げてしまうとでも思ったんでしょうね。
歩調まで、静かにゆっくりでした。

何回か呼びました。周囲も見渡しました。でも、やはり見当たりません。
『ああ、とうとうマナがいなくなった』
マナを拾った日に、自転車のカゴの袋からピョンと飛び出して薮の中に飛び込んでいったマナ。そのマナを探した日を思いだします。

あの日、あの時と同じく、私の心の中は騒いでいました。

どうなる?!
ベランダから初めて飛び出したマナと、心騒ぐ同居人――

 

 

――二人に舞い降りたものは何?(10/11)つづく――

作:あおい空
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構成:高栖匡躬、樫村慧

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週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――この章の1話目です――

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