犬派の僕が猫の多頭飼いを始めた理由

ブログタイプのエッセイ作品で、面白いことが起きた時だけの不定期更新となります。
どうぞお楽しみください。
猫の多頭飼いをしてみたい|多頭飼いは初めてだけれど、大丈夫だろうか?|経験者の体験談を読んでみたい
重要なお知らせって?
『重要なお知らせです』
というハットリからの連絡が入ったのが2019年7月18日午後15時半。
『2匹です』
のメッセージに、ぼくは真っ白になった。
一匹なら増えてもいい。
お世話も、経済的な負担も問題にはならない。
だけど二匹はちょっと待て、である。
お世話も、経済的な負担も二倍になる。
これは由々しき問題だった。
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だってぼくの家にはすでに16歳を超えた老犬のひなさんがいる。
彼女は腎臓を患っていて、毎日薬を服用している。
一月の病院代は一万円ほど。
彼女と、もう一匹の先住猫のライの食費やトイレシーツなどの雑費を合わせると、そこそこの金額になる。
たかが二万円と思うかもしれないが、彼らの突発的な事故や病気の治療費を考えれば、貯蓄だって必要となる。
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動物の夜間病院にかかるとしよう。
ものすごい金額になる――らしい。
深夜帯の診察になるから、時間割増になるのだろう。
そういった諸々に思いを巡らせると、どうにも腰が引けた。
とはいえ、どうして朝は一匹だったのが午後になって二匹になったのかは気になるところ、だ。
二匹になった理由は何だ?
あらためてハットリに理由を尋ねる。
『さっきわざわざ現場へ(保護した職員さんが)来て告知された。わけわかんなくて(聞いてみたら)、『白いほうだけですよね?』って(言われた)。『へ?』ってなって(いる俺に)、『黒いほうは保健所へ連絡していいですか?』って。(職員さんが言った)』
おいおいおい。
ちょっと待てよ!
そこで『ん?』とぼくの頭の中でなにかが引っかかった。
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――そう言えば。
朝、ハットリから送られてきた写真をあらためて見てみる。
――ああっっっっ!
白い子の下に黒いものが映っている。
最初に見たときはタオルかなにかだと思っていた。
だけど、よく見れば白い子と同じくらいのサイズだし、なんだかもふもふしていらっしゃる。
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――ううっ……でもなあ。
二匹いることは理解した。
でも、実際問題は。
『二匹はムリだろ。でも兄弟なら二匹いっぺん(に飼うべき)だよな』
と返事をする。
『ひなさん、ライ。プラス二匹なんて、ひとりじゃ抱えきれんよ』
自信がない。
二匹のところに一匹増えるなら、なんとかなりそうな気がしていたけれど、二匹を育て上げる自信はまったくないのだ。
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『一匹ならとは伝えておいたけど』
ハットリの返信にぼくは頭を抱えた。
どうしたらいいのだろう。
どうすべきなのだろう。
心ではわかっている。
『んでも、選べんよ。一匹救って、一匹見捨てるとか』
どちらの命も選べない。
だって兄弟だし。
同じ命なんだし。
抵抗してみたぼく
『(ハットリの)会社でなんとかならんの?』
ハットリの勤める会社の会長さんは大の猫好きである。
会社の周りの野良猫を我が子のように可愛がっている。
それこそ、道路で轢かれてしまった子だって、バラバラの体を全部集めて会社の敷地内に埋葬してやるくらいだ。
『(なんとも)ならん』
猫が増えすぎている。
妊娠している猫もいる。
これから生まれてくる命がいくらだっているのだ。
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『いつまでが期限?』
『明日。すべては救えんのだよ。明日には保健所が来る』
明日までしか命の期限がない。
どうする?
どうしたらいい?
『今日(うちに)連れてくるの?』
とりあえずハットリの意向を訊いてみる。
彼が今日引き取るのか、明日引き取るのかで、ぼくも動かねばならない。
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『いや。準備してないし。牛乳飲ませたらしいよ。飲んだかどうかは知らんけど。ダメだよね?』
『牛乳なんてあかんに決まっとる!』
牛乳という単語を見ただけで、ぼくは背中が寒くなった。
子猫に牛乳は強すぎる。
お腹を壊して寿命を縮ませかねないことも、小学校のときに経験済みだ。
どう考えても命の猶予はない。
猫の飼育を知らない職員さんに預ける時間が長ければ、子猫の命に関わってもくる。
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二匹が元気なうちになんとかしなければ。
だけど、ぼくにできるだろうか。
ぼくでいいのだろうか。
だって、ぼくは決していい飼い主とは言えない。
二年前に猫を拾っただけの素人飼い主であることは変わらないのだ。
それに半年前には、その子に大怪我をさせてしまっている。
そんなぼくが二匹を育てていいものだろうか。
不安――、どうしたらいい?
ハットリのメッセージがちらりと目に入る。
『すべては救えない』
彼はさらりとそんなことを書いてよこした。
運命なら仕方ないじゃない?的な意味も込めてなのは、長年つきあってきているからわかる。
とても正論だ。
命の重みはよくよく理解している。
ひとつの命を救うことのたいへんさは二年前に嫌というくらい経験もしている。
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一匹を救って、一匹を見捨てるべきだ。
だけど――
『わかった。腹くくる。そのかわり、おまえも腹くくれ。二匹引き取る』
『俺は反対ですけど? 無理して二匹はよくないんでは? 保健所もすぐには殺さないでしょ?』
そう返してきたハットリに、ぼくは返事を送らなかった。
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とにかく命の期限を延ばす。
その上で引き取り先を探そう。
一匹はぼくとして、二匹目の貰い手をなんとか探さねば――
こうして、ひとまず二匹を引き取ることに決めたぼくは里親さんを探す行動に出る。
だけど、ぼくはまたしても忘れていた。
愛情という感情のパワーのすごさというものを、すっかり忘れ去っていたのだった。
今のねこさんの様子は?
――ねこさん、増えました・つづく――
作:紫藤 咲
▶ 作者の一言
▶ 紫藤 咲:猫の記事 ご紹介
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――次話――
本当に2匹も増えて大丈夫?
「やはり里親さんを探そう」
ぼくは会社で猫好きさんに声を掛けた。
――前話――
運命ってあるのだろうか?
だとしたら、今回がきっとそうだろう。
きっかけは、1枚の画像――、子猫が写っていた。
『もらう?』友人のハットリ君が訊いてきた。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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犬派の僕が猫と暮らす理由
運命の日――
ぼくは猫を拾った。
犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
「ぼくらの物語はこの日から始まった」
猫を拾ったら読む話
『猫を拾った』をテーマにした、エッセイのセレクションです。
猫を飼うノウハウ、ハウツーをまとめた記事はネット上に沢山あるのですが、飼育経験の全くなかった方にとっては、そのような記事を読めば読むほど、「大丈夫かな?」と不安になるはずです。
猫未体験、猫初心者の方に是非読んでいただきたいです。
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