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【保護|ブログ】フラッシュバックする苦い思い出 ~ねこさん、増えました(12話)~【保護猫の多頭飼い】

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犬派の僕が猫の多頭飼いを始めた理由
犬派の僕が猫の多頭飼いを始めた理由

撮影&文|紫藤 咲
 
この作品は

ブログタイプのエッセイ作品で、面白いことが起きた時だけの不定期更新となります。
どうぞお楽しみください。

こんな方に:
猫の多頭飼いをしてみたい|多頭飼いは初めてだけれど、大丈夫だろうか?|経験者の体験談を読んでみたい

 今も心の傷 - まさか

平成30年9月27日木曜日、午後6時30分頃に起こった事件に、今もぼくは少なからず苦しんでいる。

今回はその日の出来事をより詳しくお話ししようと思う。

 

この日、ぼくはいつものように仕事を終えて帰宅をした。
片手にバッグを持ち、逆側の手にはスマホ。
友人と通話をしながら玄関を開けると、扉の前にライが寝そべっていた。

当時、ライは廊下に置いてある空のダンボール箱の中へ入っては、ダンボールを食いちぎってリノベーションをするようなことをして遊ぶのがマイブームだった。
リビングにダンボールを置くと場所をとってしまうため、廊下にダンボールを置いておく。

リビングと廊下のしきりの扉を常にあけっぱなしにしておくと、好きなときにダンボールに入ってちぎって遊ぶを繰り返す。

ぼくはそんな彼を見るのが楽しみになっていて、留守番のときでもリビングに閉じ込めておくことはしなかった。

またそうしたクセがついていたせいもあって、彼は廊下で寝そべることが多くなっていた。ぼくが帰ってくるのと同時に、やれやれと立ち上がって近づいてくるのがいつもの日課に――

だから玄関のたたきに彼が寝ているなんて、まして玄関の扉を背にしているなんて少しも想定もしていなかった。

廊下にいるものだと思い込んでいたからだ。

 

 フラッシュバック - ライのダイブ

この日もそうだ。

片手に買い物袋を持ちながら、スマホで友人と電話を掛けながら扉を開ける。

足元にライがいた。
ぼくは少し驚いた。

――なんでここに?
そう思って彼を見た。
目が合ったのは一瞬だ。

「あっ!」
と叫んだときにはライは玄関のわずかな隙間をすり抜けて、マンションの廊下へ猛ダッシュしていた。

「ちーた!(ライの愛称)」

慌てて荷物もスマホも玄関のたたきに投げ出して、逃げた彼を追った。
玄関をすぐ出たところに階段があることが一番心配だった。
そこから下へ降りたら外に出てしまう!

逃げられれば俊敏な彼に追いつく自信もない。

焦ったぼくは「ちーた!」と大声を上げながら、彼を追いかける。
彼は、階段を下りずにまっすぐ廊下のつき当たりを目指して走っていた。
名前を呼ばれて振り返った彼と目が合う。
足をとめた彼を急いで捕まえようと、ぼくは一目散に走った。

「ちーた!」

彼はびっくりした顔で廊下の突き当たりまで走る。
小さい頃にも一度逃げ出した彼を、突き当たりで捕まえた経験があるぼくは、今度も捕まえられると思っていた。
必死に彼を追った。
すると危機感を覚えた彼が飛んだのだ。
廊下のつき当たりの壁に軽やかに乗る。
そして振り返る。

「ちーた!」

あと1メートルで彼に追いつく。
ぼくは歩みをとめなかった。

「ちーた!」

彼の名を呼んで手を伸ばす。彼が驚いて前を見る。
そして……

「ダメ! ちーた! 」

彼が飛んだ。
15㎝ほどのわずかなすきまに身を潜らせて、そのまま飛んだのだ。
暗闇に向かって――

手を伸ばした。彼を掴もうと必死で。
でも間に合わなかった。
手が空を掴んで、彼の姿は虚空へと消えていった。

 

――ウソだウソだウソだ!

急いで踵を返して、ぼくは階段へ向かった。

4階から飛んだ。
大きな物音はしていない。
鳴き声もしない。
だけど、だけど、だけど。
12mほどもある高さから飛んで、生きていられるわけがない!

――いやだいやだいやだ! ちーた!

今思えば、追わなければよかったのだ。
猫が逃げても絶対に追ってはいけないことをこのときのぼくは知らなかった。
無知すぎた。
後で考えれば、仮に階段を下りたとしても扉が閉まっているから、簡単には外へ出られない。
もちろん猫のジャンプ力を持ってすれば、壁など軽々と乗り越えられるだろうから出てしまわない可能性はゼロではない。

それでも怪我を負わせるような事態にはならなかったはずだ。

運が良ければ彼を捕まえられただろう。
好物を持っていき、戻って来るように声掛けしながら遠くで待っていれば、時間は掛かるかもしれないが家の中に連れ戻せた可能性のほうがずっと高かったのだ。

だけどぼくはパニックになっていて、彼を追ってしまった。
追いかけてしまった。
しかも、ものすごい形相で……

追いつめてしまったのだ。

長い長い階段を下りた先、一階にたどり着いたときには彼の姿はなかった。
血痕もない。

――どこにいった!?

「ちーた!」

名前を呼んで必死に探した。
裏の公園の草むらを掻き分けた。
駐車場の下を屈んで覗きこんだ。

だけどいない。
彼の姿がない。

――どうしたら……どうしたら……

10分くらい探したと思う。
ぼくは一旦家に戻ることにした。
だけど鍵もスマホも部屋に置き去りにしたままだった。
部屋にも戻れない。
彼もいない。

ますますぼくはパニックになった。

「ちーた! ちーた!」

大声で叫びながら、同じことを繰り返す。
そこへ同じマンションに住む人が帰ってきた。
事情を話してエントランスの鍵を開けてもらったぼくは急いで部屋へ戻って、鍵とスマホを手に取った。

急いで電話を掛ける。
ライが逃げ出す前に話していた友人ハットリに――

『見つかったのか?』
「いや、見つからない。見つけられない。もうムリだ。きっとどこかへ逃げてしまったんだ」
『あきらめるな! 生きているなら近くにいるだろう! 車の下も全部見ろ! しっかりしろよ!』
「わかった。もう一度探してみる」

ハットリの叱責を受けて再びライを探す。
落ちた場所へ戻って、駐車場に停めてある車の下をもう一度見る。

――え!

先ほど探さなかった公園とは逆側の駐車場の車の下でじっとうずくまるライと、だ。

「ちーた!」

急いで駆け寄る。
ライはじっとしたまま動かない。
手を伸ばせば掴める場所にいる。
なんとか彼を車の下から引きずり出して抱っこする。

 

――生きてる!

彼の心臓は動いていた。
鳴かない。
足は片方ぶらんとさがってはいるけれど、血だらけでもない。
呼吸も荒くない。
大丈夫。
これならばなんとかなる!

「助けるから。ぼくが絶対に助けるから」

生きていてくれたことにホッとしながら、彼をぎゅうっと抱きしめて部屋に戻ったぼくはすぐにかかりつけの獣医さんに連絡した。

「お願いです。うちの子を助けてください! これを聞いたらすぐに連絡ください。お願いします!」

時間外であったので、そう留守電にメッセージを残す。
片足をひきずったあと、じっと動かなくなってしまった彼を助手席に乗せて、すぐにぼくは獣医さんへと向かったのだった。

 

 怪我をした当時のライ

 

 

――ねこさん、増えました・つづく――

作:紫藤 咲
 ▶ 作者の一言
 ▶ 紫藤 咲:猫の記事 ご紹介

――次話――

本作は不定期で、その時の様子をほぼリアルタイムでお送りする、ブログタイプのエッセイです。

――前話――

思い返せば、平穏だった日々が一変した日がある。
平成30年9月27日木曜日、午後6時30分頃
大切な家族、先住猫のライが、マンションの4階から飛んだのだ。
どこに飛んだかって?
外に――
虚空に向けて――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――本作の第1話目です――

運命ってあるのだろうか?
だとしたら、今回がきっとそうだろう。
きっかけは、1枚の画像――、子猫が写っていた。
『もらう?』友人のハットリ君が訊いてきた。

 犬派の僕が猫と暮らす理由

運命の日――
ぼくは猫を拾った。

犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
「ぼくらの物語はこの日から始まった」

 猫を拾ったら読む話

『猫を拾った』をテーマにした、エッセイのセレクションです。
猫を飼うノウハウ、ハウツーをまとめた記事はネット上に沢山あるのですが、飼育経験の全くなかった方にとっては、そのような記事を読めば読むほど、「大丈夫かな?」と不安になるはずです。
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