猫宅・44の物語 23話
今回のお話は:五月(いつき)
今回は、五月(いつき)とのお別れの話です。
ある日の朝 猫宅に行くと、台所の入り口の所に見た事も無いような赤い血の海がありました。最初私は、また誰かが喧嘩したんだな程度にしか思いませんでした。
だけどよく見るとその中には何やら固形物が・・・
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ただ事ではないと思った私は、直ぐにその場所の写メを採りました。何故なら獣医さんにその状況を説明しにくいと思ったからです。そして写メを撮り終えた私は、すぐに辺りを見回しました。まずはどの子が嘔吐したのかを見分けなければなりません。そして急いで、病院に連れて行く必要があります。
しかしどの子を見ても、そんな素振りはありません。
仕方がないので私はその嘔吐物をひと先ず袋に入れて、血の海になった場所の掃除をし始めました。その時です――、 五月が嘔吐をし始めました。
(その時の様子は、特別に悶え苦しむという風ではありません。猫は普通に毛玉を嘔吐しますが、その時と同じような感じだったと思います)
これで嘔吐をしたのが五月であることがが判明しました。
私は急いで、他の子達の朝ごはんの用意を済ませると、すぐに五月を病院へ連れて行く準備をしました。
あれは暮れも押し迫る、2019年12月26日の事でした。
病院に着くと、私は先生に、写メと嘔吐物を見せました。
先生は《これは何?》と怪訝な表情をし、ハサミを取り出すと、細長いその物に切り込みを入れ始めました。
やがて先生は「これは腸がはがれて口から出てきたものです」と仰いました。そして五月をキャリーケースから出して、診察台へ――
一通り診察を終えた先生は、五月を預かりますと仰いました。そして2~3日様子を見ますとも。
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これが五月の嘔吐物です
小さくしてあります
参考にされたい方は
拡大してご覧ください
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私達親子は、五月をお正月が明けるまで入院させる事を望みました。何故ならもし万が一五月に何かあった場合に、直ぐに病院へ連れて行くことが不可能だったからです。
娘が仕事の関係上休みが取れなくて、私一人では対応が難しいと思ったのです。
その後――
正月明けの5日の日だったように思うのですが、先生から電話が入りました。
五月を退院させるとのことでした。
夕方お迎えに行ったときに、私は五月の病名を告げられました。
『猫伝染性コロナウィルス』
ということでした。
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この病気はキングの時の様な、直ぐに命にかかわるものではないようです。しかし先生からは、この先闘病生活が始まると、日々の変化に気を付けて生活を送る様にと言われました。
治療は、病院に居る間は点滴等をしていたと思いますが、帰宅後は飲み薬が処方されているだけで、それ以外にはこれと言うものはありませんでした。
それからの五月は静かに暮らしていました。元々おっとりした子で走り回るようなタイプではなかったので、私にはそれが通常通りの姿なのか、病気で幾らか元気がなくなっているのかは分かりませんでした。
それからも五月は、何度か嘔吐を繰り返しました。しかしそんなに頻繁にではありません。忘れかけた頃にまたという感じです。見た目としては猫風邪の少し重いくらいの状態です。
嘔吐の前も、特に大げさな前兆はありませんでした。猫を飼っていらっしゃる方なら誰でも経験がある、人間がしゃっくりをする時のような感じです。
しかし嘔吐物は以前のような固形物はなく、血を吐くような症状になっていきました。
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そんな闘病の日が続くうちに、五月の体調に変化が現れました。
ご飯を食べる量が減っていったのです。理由は口内炎が出来ていたからでした。
口内炎は猫風邪にはつきものなので、何度も経験があります。人間でも口内炎が出来ると痛いように、猫もそれが口の中にも出来てしまうと痛いのです。中には少しご飯が当たっただけで、痛くて食べるのを止めてしまう子がいるくらいです。
それでも五月は、痛いだろうに頑張って食べてくれていました。
ウエットフードが好きではない五月の為に、私は色々なフードを買ってきました。食べてくれるのを期待しながら――
しかしそれでも五月は食べる事が少なくなって、元々痩せて小さな身体が、余計小さくなっていきました。
いよいよ五月が食べなくなってしまった日、私は獣医さんに電話をかけました。
「五月がご飯を食べなくなりました」と――
そして先生には、延命治療はしませんとお伝えしました。
五月を苦しめるだけだからです。
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私は五月の症状が悪くなるたびに、先に旅立っていった五月の兄弟のいちごに、『未だ連れに来ないで』と、お願いをしていました。
しかしそんな五月とも、とうとうお別れの日が来ました。
――2021年2月3日――
その日の夜、猫宅に向かった私達親子は、あれっと不審に思いました。いつもなら玄関の戸が開く音がすると、1番に迎えに来てくれるのが五月です。しかしその姿が無いのです。
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五月は多分、遠くからでも私の足音が分かるのだと思います。時々爆睡しているときもありますが、そんな時もしばらくすると慌てて階段を下りて来ます。
――しかしこの夜、五月はいつものように姿を現しませんでした。
いつも寝ている2階の部屋の、こたつの下を覗いても居ません。
誰かに寄り添いながら穏やかに過ごしている窓辺にも。
それからも親子で部屋中探しまわったのですが、五月の姿は見えずでした。
私たちが最後に覗いた所は、お台所の端にある机の下です。
――そこに五月はいました。
しかしもう息はありませんでした。
まるで眠っているようでした。
五月は私達が居ない時に亡くなっていたのです。思えば兄弟のいちごの時もそうでしたし、母猫のムーもそうでした。
一人寂しく去っていったのか?
それとも、息を引き取るまでは仲間が寄り添っていてくれてたのか?
どちらにしても、それを五月が選んだのでしょう。
5歳と9ヵ月、小さな五月はお空へとお散歩に出かけて行きました。
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五月(いつき)が去った猫宅。
とら、茶々、華、雪、天、月、あずき、空、みっけ、てっぺい、真白、ぱんだ、小麦、風子、キキ、ララ、四月、ミント、 オレオ、ラテ、モカ、ココア、チョコ、こぱん、バニラ、うさぎ、空(そら)、ポッキー、六月(ムック)、カール・チェリー・ナッツ・みかん・あんず・きなこ、かんな、やさい、いろは、鈴、チーズ。
そして麦が脱走し、今は外猫生活をしています。
猫宅は42ニャンから、40ニャンになりました。
――五月(いつき)へ――
今頃は美味しいご飯を沢山食べている事でしょう。
いちごやムー(お母さん)には会えましたか?
猫宅のみんなは相変わらず元気に走り回っていますよ。
今度生まれ変わったら元気な体で生まれて来るんだよ。
五月はどんな時でも、尻尾をピーンと立てて歩く子でした。
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猫コロナウィルスによって発症する病気は、『猫腸コロナウイルス感染症』と『FIP(猫伝染性腹膜炎)』の2つです。多くの場合は無症状です。
(感染してもほとんどの場合が無症状か軽い嘔吐、下痢程度で、自然に改善します)
これらの病気については、下記の記事で解説しています。
FIPの完治は可能か?|1/2
猫の病気、FIP(猫伝染性腹膜炎)はご存知ですか?
発症すると100%助からないと言われながら、ネット上には完治例が散見されます。
『本当に治るのか?』
そんな質問も複数寄せられました。
そこで2人の医療関係者の協力を得て、FIPを追いました。
FIPの完治は可能か?|2/2
FIPの記事で軽視されがちなのが、確定診断の難しさ。
臨床で(生存のまま)確定するのはまず不可能。
つまり、誤診の可能性もあるのです。
誤った治療では、副作用のリスクも――
”確定”に的を絞ると、”治らない”、”完治”に違う側面が見えてきます。
――猫宅のお話をしましょう|23話・つづく――
作:女神
▶女神:全作品のご案内
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――次話――
猫宅のお話|その24
44の物語、今回は天使―sのお話。
猫宅とは別に、自宅にもご飯をもらいにくる猫達がいます。中にはお母さんになる子も。
「お客さん」と呼んでいたその子は、避妊手術の前に妊娠してしまいました。
しかし子猫は可哀そうな結果に。
その2か月後のこと――
――前話――
44の物語、今回は新入りのチーズのお話。
突如自宅に現れた白い子猫。
ものおじせず、外猫くまの周りをちょろちょろし始めて、くまのご飯を横から食べてしまいました。
黙ってご飯を譲るボス猫くま。驚きでした!
その子猫が――
次は猫宅に現れたのでした。
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――この連載の1話目です――
44匹の猫が住む家、その名も『猫宅』
それは、保護した猫たちを住まわせるために借りた家。
猫には1匹ずつに物語がありますね。
これは最初の1匹、とらのお話。
さて、44の物語、完成するでしょうか?
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猫宅のまとめ読みです