虹の橋の猫 ―愛と絆と永遠の物語―
船着き場に浮かんでいる渡し船は、どれもが虹の橋行きでした。
猫はすぐに自分の乗る船がわかり、待っていた切符を、渡し守に見せました。
渡し守は切符を確認してから、猫の荷物を見て言いました。
「舟には、大きな荷物は積めないよ。持っていくものを一つ決めたら、あとのものは、みんな船着き場に置いていきなさい」
猫は持病を持っていましたから、真っ先に痛みや苦しみを荷物から出しました。
歳も取っていましたから、老いも、船着き場に置いていくことにしました。
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重荷がずいぶんと減り、猫はだいぶ身軽になりました。
あとは、たくさんの思い出の中から何を持って行こうかと、考えました。
でも、いくら考えても、一つに決めることができません。
猫にとっては、どれもみな掛け替えのない、大切なおかあさんとの思い出だったからです。
渡し守は、いつまでも迷っている猫を急かそうともせず、舟に寄りかかって歌を口ずさんでいました。
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いつの間にか、猫のかたわらに、さっきの仔猫が立っていました。
どうやら、猫の後をこっそりついてきたようなのです。
仔猫は、猫のあげたおもちゃを大切そうに持っていました。
猫は、この仔猫も、これから船に乗るのかと思いました。
でも、仔猫は、地上の荷物は何も持っていませんでしたし、船の切符も持っていませんでした。
たぶん、仔猫は生まれ変わって地上で暮らすために、猫とは反対に虹の橋から渡って来たばかりなのでしょう。
それで、これからの地上での生涯が不安なあまり、親切にしてくれた猫の後について船着き場に戻って来てしまったのです。
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猫は思いました。
ーーもしかしたら、これから自分の乗る船に乗って、この仔猫は、はるばる虹の橋からやって来たのかもしれない。それなら、自分の地上での思い出を、みんな、この仔猫に託すのが良いのかもしれない。
この仔猫なら、猫のたくさんの思い出を大切に受け継いでくれるだろうし、何より、これから地上で暮らしていく仔猫の道しるべにもなってくれるでしょう。
「あっ、雨」
仔猫が言いました。
船着き場に雨が降り始めています。
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「そろそろ、船を出すよ」
渡し守は歌うのをやめて、船に乗るように、猫をうながしました。
猫は仔猫が雨宿りできるところまで連れて行きたかったので、渡し守に「もう少し待ってください」と言おうとしました。
でも、仔猫の姿は、どこにもありません。
猫は驚いて、渡し守を見ました。
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渡し守は、また、言いました。
「さあ、船を出すよ」
猫は船に乗ろうとして、気がつきました。
体が、すっかり軽くなっているのです。
まるで、降る雨が猫の雉白もようの体を優しく洗ってくれているようでした。
渡し守はまた歌い始め、船が少しだけ揺れていました。
――銀の鈴/虹の橋の猫(第2話)・つづく――
作:水玉猫
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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