虹の橋の猫 ―愛と絆と永遠の物語―
その人は、窓の方に振り返りました。
窓から、死んだ猫が、のぞいているような気がしたのです。
雉白もようの猫が虹の橋に旅立ってから、もう、どれくらいの月日が過ぎたのでしょう。今でも、家のどこからか、ひょっこり、猫が出てくる気がしてなりませんでした。
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でも、猫は、もう、どこにもいなくて、思い出すたびに悲しくてたまらなくなるのでした。
その悲しみは、みぞおちで硬く凝り固まって、ずしんずしんと重くなっていくのです。
それが、余計に悲しみをつらくするのでした。
枯れ果てたと思っていた涙が、また、あふれ出してきました。体中の水分が全て涙になって流れだしたと思っていたのに、それでもまだ涙は尽きることなくあふれ出してくるのです。
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涙の中で、知らず知らず、その人は、猫が好きだった歌を口ずさんでいました。
猫はその歌が大好きで、生きていた時は尻尾で拍子を取りながら、いっしょにミーミーと歌ったものでした。
この歌を口ずさむのも、本当に、どれだけぶりでしょう。
猫が旅立ってから、ずっと口ずさんだりはしませんでした。
だって、思い出すたびに、胸がつぶれそうになって、とても歌うことなど、できなかったからです。
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それなのに、今日に限って、自然に、歌が口をついて出てきたのです。
ふと、歌に合わせて鳴く猫の声が、窓の外で聞こえた気がしました。
どうせ、またいつもの空耳で、窓の外を見たって猫はいなくて、更につらくなるだけだと、その人は思いました。
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なくしたものは、二度と戻らない。
なくしたものとは、もう、二度と出会えない。
その人は窓に背を向けたまま、幾度となく自分に言い聞かせたことを、また繰り返していました。
――銀の鈴/虹の橋の猫(第4話)・つづく――
作:水玉猫
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――次話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この物語の第1話です――
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保護猫のお話です
家族の引っ越しで置き去りにされたクララは、野良猫の茶太郎と出会います。
やがて一緒に保護された2匹ですが――
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。