文:miyakonokaori (本記事は2013年に執筆されたものです)
今日からはじまる抗がん剤プロトコールのため、猫さんを朝イチで病院へ。
これから抗がん剤投与日は、朝に病院へ行き、血液検査。
それで問題なければ抗がん剤を投与し、時間をかけて点滴も打ってもらい、
夜にお迎えというスケジュールになります。
まず、猫さんの病理検査の結果を記した紙をいただきました。
結果は、祈りは届かず「低分化型」。
進行の早い、悪性度の強いほうでした。
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7歳での発症なので、きっと低分化型だろうなと予想はしていたので、
「やっぱりきやがったか!」という思い。
確定したことで、いよいよ「UW25 プロトコール」がはじまります。
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UW25 プロトコール
ウィスコンシン大学で考案された、リンパ腫に対する現在最も標準的とされるプロトコール。複数の抗がん剤を組み合わせ、初めの 2 ヶ月は毎週、その後の 4 ヶ月は 2 週に 1 回の治療を行います。全部で 6 か月間の治療期間となり、その後はリンパ腫の再燃がみられるまで無治療で経過観察となります。(抜粋)
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最初に投与するのは「ビンクリスチン」という薬剤。
その前に、血液検査をして、抗がん剤投与に耐えうる体であるかをチェックします。
今回の血液検査の結果は下記でした。
(カッコ)が猫の基準値です。
WBC【白血球数】 369 (55~195)
RBC【赤血球数】 546 (550~1000)
ヘモグロビン 9.7 (8~14)
血小板数 54.0 (30~80)
総蛋白 3.6 (5.4~7.8)
分葉核好中球 21156 (2500~12500)
リンパ球 12792 (1500~7000)
たった5日でこんなに白血球が増えているとは……
そして、当初はステージⅢからⅣでは、と言われていましたが、このリンパ球の数を見ると、どうやら骨髄にも侵食しているようだ、とのことで「ステージⅤ」との所見に。
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……参った。
この5日でここまでになっているということは、もう先は長くないんだろうな……
これでまた抗がん剤を打って苦しめるのだとしたら、
いっそ何もしないという選択もありかもしれない。
そう思った私は、
「もし、このまま抗がん剤をしなかったら、どれぐらい生きられますか」
と訊いてみました。
(実際は、こんなにハッキリ訊く勇気はなかったので、そう伝わるようにやんわりと、ですが)
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返ってきたのは、「一ヵ月か二ヵ月…ぐらいかもしれません」という答えでした。
なんでかなぁー。
健康な猫だったというのもあるけれど、
たぶん、17、8年ぐらいは生きてくれるんだろうと思い込んでいたので、
いきなり一ヵ月って言われても……
もう…なんでかなぁー、としか思えない。
抗がん剤を投与できるかどうかは、血液中の「分葉核好中球」の数値が、
2500を下回っていなければ大丈夫とのこと。
なので、今日からはじめられることは確定しました。
「ちなみに抗がん剤を打つと、どれぐらい生きられますか」
(これまた実際は、ハッキリ訊く勇気はなかったので、そう伝わるようにやんわりと訊いたんですが)
そう訊くと、先生はこう紙に書きました。
「中央生存期間 4.5ヵ月~5ヵ月」
その文字を見ながら
「そうか、つまり抗がん剤を投与しても、平均これぐらい。うちの猫はステージⅤだから、きっとこれよりもっと予後はよくないんだろうな」
と、ぼんやりと考えました。
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「数字としては厳しいものになっていますが、リンパ腫は抗がん剤によく反応してくれるので、穏やかに過ごせる子も多いんです。この子は体力も気力もあるので、きっと頑張れると思います。
もし副作用が強く出すぎてかわいそうで見ていられないようなら、そのときにまたご相談しませんか。こちらもなるべく、副作用がでないように尽力します」
その先生の一言で、私たちは「お願いします」と言うことができました。
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この日は、はじめての入院。
一日点滴をして状態を整えてから、明日の朝、抗がん剤を入れるとのこと。
その後も、様子を見つつ、栄養剤など点滴するので、夜に迎えに来てください、と言われました。
タクシーを待っているとき、Aちゃんがポツリと言いました。
「年を越せるといいね」
その言葉に「…そうだね」と返すことしかできませんでした。
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猫さんを預けて、我々は帰宅。
この7年間で、猫がいない、はじめての夜です。
もっと不安になるだろうと思っていましたが、信頼できる病院に預けられたからか、
この夜は久しぶりに落ち着いた時間を過ごせました。
滞っていた原稿を進め、ゆっくりと眠り――
猫の前では絶対に不安な様子は見せまい、と心に決めました。
――備考1――
ソーニャの飼い主:miyakonokaoriさんからの情報
ずっと治療にあたっていただいた江古田の森ペットクリニックのサイトに、うちのソーニャの症例が出ていたと思います。 内科症例の低分化型リンパ腫の猫がうちの子です。 もし何かのご参考になれば…
リンクはこちら:低分化型リンパ腫の猫の症例 - 江古田の森ペットクリニック
――備考2――
UW25プロトコールで用いられる薬剤
①ドキソルビシン
②ビンクリスチン
③シクロホスファミド(サイクロフォスファミド)
④プレドニゾロン
④はステロイド剤です。
それぞれの薬剤は、記事に登場した回に簡単な解説を記載しています。
――備考3――
リンパ腫の治療に用いる抗がん剤(概要)
①ドキソルビシン
リンパ腫に対して最も強力な抗がん剤です。副作用の頻度は高くありません
が、嘔吐や下痢および白血球減少が起こります。注射薬であり、投与には 1 時
間程度かかります。
②ビンクリスチン
リンパ腫に対して、中等度の効果がある注射の抗がん剤です
③シクロホスファミド(サイクロフォスファミド)(エンドキサン)
リンパ腫に対して、弱い効果のある抗がん剤です。注射と錠剤の両方がある
ため、通院が大変な患者様には内服で処方することも可能です。
④プレドニゾロン
抗がん剤ではなく免疫を抑えたり炎症を鎮める薬剤ですが、リンパ腫の細胞
は本薬剤に反応するため、リンパ腫の治療においては抗がん剤として用いられ
ます。ただし、効果はあまり長続きしませんので、通常は治療の初期にのみ用
いられます。
⑤L-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ)
リンパ腫の細胞が必要とする栄養素を分解する酵素薬です。リンパ腫以外の
細胞には無毒ですので、他の抗がん剤で見られるような副作用が起こりません。
ただし、効果はあまり長続きしませんので、通常は治療の初期など、リンパ腫
で弱った体力を回復させる時期にのみ用いられます。
出典:犬と猫のリンパ腫:北海道大学動物医療センター外科/腫瘍診療科
――備考4――
プロトコールの具体的な運用例はこちらに
――用語――
プロトコールとは
――【リンパ腫】1クール目(2/13)・つづく――
文:miyakonokaori
――次話――
――前話――
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――リンパ腫に関して(犬猫共通記事)――
リンパ腫は飼い主さんが気付くことが多いのです。
時々体を触ってあげてください。
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この記事は、まとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、週刊Withdog&Withcat【2018.3.4版】に掲載されています。
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――この連載の1話目です――
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――出典――
※本記事は著作者の許可を得て、下記のブログを元に再構成されたものです。