撮影&文:miao
わたしにとって、運命の子、alex。
alexと出会った日、わたしが最初に話しかけた言葉は、『おかえり』でした。
どうして『おかえり』なのか?
実は、alexがうちの子として帰って来る前に、ひとつの『さよなら』があったのです。
今日はその『おかえり』のお話の前に、『さよなら』のことを書こうと思います。
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今から随分昔です。
週末の二子玉川東急ハンズには、仔猫や仔犬がいました。
仔猫が複数いるゲージには500円と書かれてあり、今思えば保護猫譲渡のシステムだったのでしょう。男のこは青いリボン、女のこは赤いリボンをつけていました。
青いリボンの1番ちいさな男のこが、これからお話する、”みゅうさん”でした。
その日から、楽しいふたり暮らしが始まりました。
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基本室内飼いでしたが、徒歩8分のコンビニに行くときは一緒にお散歩。
途中、草の生える場所や塀に寄り道して、少し離れてしまっても「みゅうさん、先に行くよ」と言うと、慌てて走ってきます。
コンビニの自動ドアの前で、買い物が終わるのを待ち、帰り道を一緒に戻ります。
病院に行くときは自転車。毛布を敷いた自転車のかごに入れるとハンドルの真ん中に両手を置き、こちらを向いてちょこんと座ります。
脇を走る車の音にも動じないみゅうさん。今考えると恐ろしく危機管理に欠けるのですが、信頼度を140%感じてました。
わたしは若く無知で無謀で、これがあの頃の普通だったのです。
見渡せる未来は明るくて、ずっと続く楽しい猫暮らし。
何の不安も抱くことのない日々が、6年目を過ぎた頃のことです。引っ越したばかりの慣れない土地で、突然異変は起きました。
みゅうさんの呼吸がおかしい。口を開けて息をしている。
動物病院を絶対的なところと思い込んでいたわたしは、病院に連れていけば大丈夫と思っていました。
無限に拡がるネットワークなどない時代。
タウンページで近くの病院を探し自転車で下見をして、1番立派なところに電話をして診てもらうことにしました。
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いつものように、自転車のかごから、こちらを見つめるみゅうさん。
「初めてのお医者さんだから緊張するね。治してもらおうね」
わたしはそう話し掛けながら、自転車をこぎました。
その病院は、10分で到着できるところでした。
ガラスの向こうで、いつになく暴れるみゅうさんは、洗濯ネットに入れられ診察を受けました。
「レントゲンの結果、肺に影があります。今日は注射をしますので、明日も来て下さい」
とだけ、獣医師は言いました。
注射と点滴を繰り返す毎日――
食欲は変わらないものの、帰宅後の様子の違いがありました。
注射の日はぐったり。点滴の日は調子がいい。
点滴中のみゅうさんも、気持ち良さそうにおとなしかった。
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5日目になって、わたしはその事を獣医師に伝え、そして「点滴にして下さい」と願い出ました。
「では今日で注射は最後にしましょう。薬を出すので1日2回あげて、あさってまた来て下さい」と獣医師。
病気というものは、病院に通えば治るものだと思っていたわたしは、獣医師の言葉を素直に聞くだけで、何の問い掛けもしませんでした。
――みゅうさんとの暮らし(前編)・つづく――
文:miao
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――次話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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