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【FIV発覚】二人の試練の時、避妊手術前の検査 ~二人に舞い降りたものは何?(4/11)~

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私の空、マナ 14話
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撮影&文|あおい空
 

避妊手術前の検査で、待合室でも待つ私とマナ。
やがて順番が来て、診察室に呼ばれました。

マナの体重は2.7kg(下の写真)。
初めて診てもらった日に、医師からは『7月半ば以降に産まれた子だろう』と言われていましたので、月齢は6か月ということになります。

 

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医師によれば、ネコはかなり幼い時から妊娠する可能性もあり、発情すると手術のリスクが上がるということでした。そしてアパートに住んでいるならば、発情期はご近所に鳴き声などで迷惑になることもあるということも言われました。

確かにネットで検索すると、避妊手術の適齢時期は月齢6ヶ月~8ヶ月とありますし、避妊しなければ、かかりやすい病気があることも知りました。

なので私は「とにかく避妊手術をしなければ」と思いました。

血液を採るために、マナの背中(確か背中だったと思います)に注射針が差されました。マナが暴れても良いように、首にはエリザベスカラーが。
私は初めてエリザベスカラーを着けたマナを見て、とても可愛いと思いました。
「本当に似合っているよマナ」
「大人しいねマナ」
私はそんなマナを自慢に思う、親バカな飼い主でした。

※扉と下の写真は、エリザベスカラーを付けたマナ

 

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医師は何故かこの日は寡黙でした。普段から口数の少ない方ですが、この日は寡黙さの頂点かと思うほど。

血液を採る前、私は医師に、箱に入れたマナの乳歯を誇らしげに見せたのですが、ほんの一瞬チラリと見た程度であとは無視。少しは興味を示してくれるものと思っていたのに、期待外れでした。

むしろその寡黙で真剣な様子が、私にまとわりついている、あの妙な胸騒ぎや、悪い予感が倍化させます。

「検査結果がわかるまで待合室でお待ち下さい」
そう看護師さんに言われ、キャリーバッグを傍らに置いた私は、マナを抱いて椅子に座っていました。

やがてカウンターの奥から「あっ、出た」と言う看護師さんの声が聞こえました。
私にはそれが、何のことかわかりませんでした。避妊前にどんな検査があるのかも知らない若葉マークの飼い主です。

でもそれが、マナの血液検査に関するなのだとは直感しました。

しばらして、また診察室に呼ばれました。検査結果の説明を受けるためです。

猫エイズウイルス感染症(FIV)と猫白血病ウイルス感染症(FeLV)のキット、そして説明の書かれた紙が私の目の前に置かれました。

医師は口を開くなりこう言いました。
「マナちゃんは猫エイズです」

確かに説明のための紙の写真とマナの検査キットの青い点の模様は猫エイズウィルス感染症のものと一致していました。

 

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その時私は悟ったのです。
いつも動物病院に向かう時に感じる胸騒ぎや、悪い予感は、今この時のことを暗示していたのだと。マナを見て「何か違う」と感じ取った、アパートの隣の隣の部屋の方の言葉も思い出されました。

猫エイズ?
私には分かりませんでした。
拾ったときには小さな子猫。うちにきてからは完全室内飼い。
なぜマナが…

「400g だったマナが?なぜですか?」
私は医師に言葉をぶつけました。
納得がいきませんでした。もう半泣きでした。

しかし、泣き崩れそうな心とは裏腹に、私は持ちこたえました。
私はこれまで、人前で泣いたことがないのです。亡くなった母への思いが、いつも私を支えてくれました。

私は中学2年生の春に父を亡くしました。それからは、父を愛して愛していた母が、私と兄を育ててくれました。だから私は母に、決して泣き言を言ったり、甘えたりしませんでした。仕事を終えてから家で食事の支度をする母の、疲れた背中をいつも見ていたからです。料理は教わったのではなく、見て覚えました。母と一緒にいたくて、いつも台所に立つ母の横にいたからです。

私達兄妹にとって、父親でもなければならなかった母。だから母親ではなくなった母。まるで友達のようでした。母に心配はかけられないと、母が亡くなるまで、そんなふうに生きてきたのです。

でも――
ショックは隠せませんでした。
私は喉までこみあげる嗚咽と、溢れそうな涙をいつものように必死に飲み込みながら、
冷静に医師の言葉を待ちました。

 

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「母親から伝染したかもしれませんが、何とも言えません。避妊手術はどうしますか?」と医師は言いました。

これだけは聞いておかなければと、私は言葉を絞り出しました。
「先生の医師としての長い経験の中で、エイズの子ネコの避妊手術をして、何かあったことはありますか?」
すると医師は、私の目を見て答えました。
「避妊手術というよりも、手術がストレスの引き金となって3日後に亡くなった子ネコもいます」

もう、もう、もう混乱です。
その時点から頭が真っ白になりました。

そして、その後に言われた言葉――
「もし、○○さんがマナちゃんを拾っていなかったなら、今までマナちゃんは生きていなかったかもしれない」

――それってどういうこと?
命を拾ったようなものなのだから、危険でも手術をしなさいということ?
それとも、折角拾った命なのだから、大切にしなさいということ?

「どうされますか?決めるのは飼い主さんです。一応予定どおり1週間後の1月27日の土曜日のつもりでいますので」
その医師の言葉に、私は「わかりました」とだけ言って受付でお金を支払いました。

私は診察室でずっと抱きしめていたマナをキャリーバッグにいれると、それを担いで、雪の歩道を歩きました、

頭は真っ白――
私は、声も出さずに――
堪えきれず流れる涙を、拭きもせず――
アパートへの道をたどりました。

さて、私がどんな決断を下したか?
次回はそのお話をしたいと思います。

 

――二人に舞い降りたものは何?(4/10)つづく――

作:あおい空
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構成:高栖匡躬、樫村慧

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週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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