猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

楽しかった日々のおわり ~みゅうさんとのふたり暮らし(後編)~

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撮影&文:miao

わたしの申し出で、みゅうさんの治療は点滴になり、みゅうさんは最後の注射をうってもらいました。

その日の夜のことです――
数時間出掛けて帰った部屋に、みゅうさんがいません。呼んでも出てこない。
押し入れが10cmほど空いています。

「こんなところを自分で開けて入るなんて?」
真っ暗な押し入れの隅で、まあるくなっているみゅうさん。
「何でこんなとこにいたの?」
いつものように抱き上げると、今迄聞いたことのない鳴き声をあげました。

それは、わたしの中でたぶん生まれて初めての、緊急事態の警報でした。
心臓がバクバクでした。
病院に電話しますがつながりません。

――22時――
当時は夜間診療の病院は少なく、片っ端から電話しました。
やっと応答してくれたところは自宅兼病院で、状態や事情を説明すると「今から灯りをつけて待っているので、すぐに連れてきて下さい」と言ってくれました。
毛布でくるんだみゅうさんを抱き、タクシーを拾い行き先を告げると、察した運転手さんは、近道を跳ばしてくれました。

「早く着いて。お願い」
確実にわたしは、不安の真っ只中でした。
しかし私はその時でさえ、「もうすぐ着くからね。大丈夫。絶対助けるから」と、みゅうさんに声を掛けていました。

いつか来るかもしれないと、思った日――
まさか、それが今日であるはずない――、と……

病院に着くと、先生は言いました。
「低体温すぎて、処置をするにはまず体温を上げなくてはなりません」

大きな注射を1本打って数分――、失禁――
暴れだしたみゅうさんがわたしの手を深く噛みました。全く痛みを感じなかった。
何が起きているのか、理解できないままのわたし――
先生はわたしからみゅうさんを離し、広い診察台に移しました。

「お願いです! わたしより、みゅうさんを助けてください!」
流血する手を処置しようとする先生に、そう言っている間のことでした。

もがき苦しみ、恐ろしい叫び声を上げて、みゅうさんは絶命したのです。
――目を見開き、大きくお口を開けたままで。

全てが短い時間でした。
想像もできなかった恐ろしい光景。

「なんで目を開けて寝るの? 眠るときは、目もお口も閉じなくちゃ」
放心状態の中、みゅうさんをいつもの可愛いお顔に戻し、それから腕に抱いて――

そこで――、しばらく時間が止まりました。

 

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どれくらいそうしていたでしょう。
よく覚えてないのですが、先生は静かに黙って待っていてくれました。
日付が変わっていることを知り、わたしはお礼と支払いをして帰りました。

数日後、最期に立ち合ってくれた先生から、「あれから気がかりで」と、電話がありました。症状からして肺水腫ではなかったかと。
「その説明はなかったかな? 疑いのある病名は聞かなかった?」
それまでの経緯を話すと、先生はやさしく解りやすく、病気の説明をしてくれました。

そして――
みゅうさんの壮絶な最期は、信頼を裏切ったわたしの深い罪と罰になりました。

楽しかった日々は突然に終わりました。
愛する存在を目の前で失うのは初めてでした。
死が、静かに訪れるものばかりではないことを知りました。

ごめんなさい。みゅうさん。

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この後わたしは、数年苦しみます。当然でした。
病院に委ねれば大丈夫という、お粗末で浅い知識。
情報が少ない時代とはいえ、わたしは呆れるほど軽薄に、猫と暮らしていたのかもしれないと――

短かったけれど、6年はわたしにとって宝物です。
それと同時に、愛しさと共に込み上げる後悔と懺悔。

いつまでも忘れられない、あの最期に怯えながらも、償いを求め、猫と暮らす幸福に焦がれる自分がいる。
そんな日々――
そして葛藤しながら、流れていく時間。

「できるならやり直したい」
「もう間違いを繰り返さない」
「もし、また会えたら、今度はもっともっと長く一緒にいようね」
それが、わたしの願いでした。

それから4年後、わたしはalexと出会うことになります。
運命と輪廻を確信したあの日のことは、『alexがうちのこになるまで』として、改めて書きたいと思います。

 

――みゅうさんとのふたり暮らし(後編)・おしまい――

文:miao

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