虹の橋の猫 ―別れって何? 永遠って何?―
黒い仔猫が、静かに降り続ける雨を見ながら、つまらなそうに言いました。
「ここには、おもちゃも、なんにもないね。おうちで、おもちゃで遊ぶのは、とっても楽しかった。ネズミのおもちゃも、魚のおもちゃも、おねえちゃんが、おこずかいで買ってくれたんだ。おとうさんはね、キャットタワーだって、もっと大きなおもちゃだって、買ってくれたよ。お気に入りだったおもちゃはいっぱいあったのに。虹の橋行きの船に乗る時、みんな置いてきちゃったんだ」
白い仔猫も、不満そうに言いました。
「あたしもよ。『ひとつだけならいいよ』って、渡し守さんは言ったのに、あたしが選んでいると『それはダメ、これもダメ』って。だから、選べなくなっちゃって、あたしも、みんな、地上の船着き場に、置いてきちゃった」
●
歌うたいの猫は、言いました。
「虹の橋には、地上のものを、ひとつしか持ってこれないのはね、重い荷物を積むと、船が動かなくなって、虹の橋に着けないからだよ」
黒い仔猫が、たずねました。
「歌うたいの猫さんは、何か持ってきたの?」
歌うたいの猫は、うなずきました。
「うん。ぼくは、声を持ってきたよ」
白い仔猫は、びっくりしてたずねました。
「声?声って、なあに?」
歌うたいの猫は、言いました。
「声は、声さ。話したり、笑ったり、歌ったりする声。ぼくは、ぼくの大好きなおかあさんの歌声を、持ってきたんだ。きみたちだって、ちゃんと、持ってきているよ」
黒い仔猫と白い仔猫は、やっぱり、歌うたいの猫の言っていることがわかりません。
●
「耳を澄ませてごらん」
歌うたいの猫はそう言うと、また、鈴の音に合わせて歌い始めました。
黒い仔猫と白い仔猫は、耳を澄ませました。
降り続く雨の中、はじめは、歌うたいの猫の声しか聞こえませんでした。
それでも、ピンと両耳を立てていると、かすかに、何かが聞こえてくるようでした。
それは、聞こえたかと思ったら、また、すぐに小さくなり、そのまま消えていきそうです。
仔猫たちは息を詰め、なんとかして消えていく前に少しでもそれを聞こうとしました。
そのかすかに聞こえてくる何かは、とても懐かしく大切なものに思えたのです。
だけど、灰色の仔猫だけは、他の仔猫たちとは違って、何も聞くまいと、しっかり耳をふさいでいました――
――歌うたいの猫(6/10)/虹の橋の猫(13話)・つづく――
作:水玉猫
▶水玉猫:猫の作品
Follow @sa_ku_ra_n_bo
――次話――
――前話――
●
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
●
――第2章のはじまり(第8話)です――
――この物語の第1話です――
●
保護猫のお話です
家族の引っ越しで置き去りにされたクララは、野良猫の茶太郎と出会います。
やがて一緒に保護された2匹ですが――
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。