虹の橋の猫 ―別れって何? 永遠って何?―
歌うたいの猫の歌に混じって、かすかに聞こえる懐かしい何か――
それは、今にも雨音の中に、消えてしまいそうでした。
黒い仔猫と白い仔猫は、その何かを聞こうとして、さらに、耳を澄ませました。
でも、灰色の仔猫は、ひとり陰に隠れ、耳をふさいだままでいました。
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黒い仔猫と白い仔猫は、あまりにもその何かに集中していたので、お互いの存在をすっかり忘れてしまっていました。
黒い仔猫は、もっと聞こうと、首を伸ばしました。
同時に、白い仔猫も、精いっぱい背伸びをしました。
黒い仔猫と白い仔猫は、ぶつかってしまい、ふたりの首の鈴が鳴りました。
澄んだ鈴の音が、歌うたいの猫の歌声と重なりました。
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すると、どうでしょう。
それぞれの地上のおうちの懐かしい声が、耳の奥から、聞こえてくるではありませんか。
いつものように、猫の名を呼ぶ声。
猫がしたしぐさに、あたたかく笑う声。
懐かしい地上の声は、黒い仔猫と白い仔猫を暖かく包みこみ、優しく撫でてくれるようでした。
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鈴が鳴り止むと、地上からの声は聞こえなくなりました。
歌うたいの猫は、言いました。
「ほら、きみたちだって、地上から大好きなみんなの声を持ってきているじゃないか」
「ほんとだね!」
黒い仔猫が、顔を輝かせて言いました。
「歌うたいの猫さん、また、歌ってね。そしたら、ぼく、今みたいに、耳を澄まして、おうちの人の声を聞くからさ!」
歌うたいの猫は、言いました。
「きみたちも歌えばいいんだよ。きみたちの鈴の音に合わせて」
「鈴?」
黒い仔猫と白い仔猫は、自分の首についている鈴を見ました。
歌うたいの猫は、言いました。
「その鈴の音が、きみたちが地上から持ってきた一番大切なものなんだよ。その鈴の音の中に、地上から持ってきた一番大切なものが入っているんだ」
「それが、おうちのみんなの声なのね!」
白い仔猫が、笑顔で言いました。それから、首をかしげました。
「だけど、おうちのみんなにも、あたしの声が聞こえるのかしら?」
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歌うたいの猫は、答えました。
「聞こえるといいね。ぼくは、ぼくのおかあさんの歌に合わせて、ぼくの声がおかあさんにも聞こえるように、毎日、歌うんだ。ぼくは、元気だよって」
黒い仔猫は、言いました。
「ぼくも、毎日、歌おう!」
白い仔猫も、言いました。
「あたしも、毎日、歌う!」
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陰に隠れていた灰色の仔猫の目から、突然、涙が溢れ出してきました。
灰色の仔猫はしばらく嗚咽を堪えていましたが、堪えきれなくなって、わっと突っぷして大声で泣き出してしまいました――
――歌うたいの猫(7/10)/虹の橋の猫(14話)・つづく――
作:水玉猫
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――第2章のはじまり(第8話)です――
――この物語の第1話です――
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保護猫のお話です
活動家に保護された猫、夕(ユウ)。
幸せに暮らしていた夕は、ある日リンパ腫の診断をうけてしまいました。
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。