虹の橋の猫 ―別れって何? 永遠って何?―

泣き疲れて眠る灰色の仔猫を見守りながら、歌うたいの猫と黒い仔猫と白い仔猫は、歌い続けていました。
激しかった雨は全てを洗い終わったかのように、今は、霧雨になっています。
どこかに飛び跳ねて行ったカエルが戻ってくると、灰色の仔猫の上にも、美しい虹が架かりました。
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虹がかかると、灰色の仔猫は、ゆっくりと目を覚ましました。
灰色の仔猫が顔を上げた時、首の鈴が鳴り、耳の奥で声がしました。
仔猫は、ハッとして、すぐに耳をふさごうとしました。
でも、聞こえてきたのは恐ろしい怒鳴り声ではありませんでした。
灰色の仔猫の耳に聞こえてくるのは、穏やかで優しい、幾つもの声でした。
声は暖かく語りかけ、優しく手を差し伸べて、灰色の仔猫をいたわるように包み込んでくれました。
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歌うたいの猫は歌うのをやめると、灰色の仔猫に言いました。
「ほら、地上には、きみのことを心配している人たちが、こんなにもいるよ。地上で、きみに出会うことはなかったけれど、傷ついた子たちを案じている人たちが、こんなにもいるよ。きみだって鈴を持っているし、虹だって架かったんだもの、その人たちの声が聞こえてくるはずだよ」
灰色の猫は、さっきの黒い仔猫と白い仔猫と同じように不思議そうに、歌うたいの猫を見ました。
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歌うたいの猫は、言いました。
「この子たちのおうちの人たちだって、ぼくのおかあさんだって、きみのことを知ったら、絶対に、ぼくたちと同じように、大切に、大切にしてくれるよ。きみのこと、心から愛してくれるよ。きみが耳をふさいでいると、その人たちが悲しむよ。地上できみと出会えなくて、助けてあげられなかったっていう後悔で、その人たちは悲しんでしまうよ」
黒い仔猫と白い仔猫も言いました。
「うん!そうだよ。地上のみんなに聞こえるように、歌おうよ!いっしょに、みんなで歌おうよ!」
「あたしたち、みんな、もう、苦しくもなくて、痛くもなくて、元気だよって歌いましょうよ!」
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それでも、灰色の仔猫は不安そうでした。
不用意に歌えば、たちまち穏やかな声は消え、恐ろしい罵声に変わる気がしたからです。
地上にいた時、灰色の仔猫は、何度、油断して怖くて苦しい目にあったことでしょう。
不安を察したカエルが、灰色の仔猫の頭に、また飛び乗りました。
灰色の仔猫の鈴が揺れて、澄みきった音を立てました。
美しい音で鳴る鈴には、一点の曇りもなく、他の仔猫たちの鈴と同じように輝いていました。
いくら揺れても音を立てなかったくすんだ鈴は、希望の鈴に、よみがえることができたのです。
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歌うたいの猫は、言いました。
「地上の重荷は、みんな、地上の船着き場においてきたんだもの。虹の橋では、苦しいことも、つらいことも、なんにもないよ。今の君は、毛皮だって、ピカピカだし、病気でもないし、怪我だってしてないでしょ?」
「あっ、ほんとだ!やったー!」
でも、先に、歓声をあげたのは灰色の仔猫ではなく、黒い仔猫の方でした――
――歌うたいの猫(9/10)/虹の橋の猫(16話)・つづく――
作:水玉猫
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――第2章のはじまり(第8話)です――
――この物語の第1話です――
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保護猫のお話です
活動家に保護された猫、夕(ユウ)。
幸せに暮らしていた夕は、ある日リンパ腫の診断をうけてしまいました。
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。