虹の橋の猫 ―別れって何? 永遠って何?―
灰色の仔猫より先に歓声をあげた黒い仔猫は、大喜びで、飛び跳ねています。
「ヤッホー!ぼく、もう、ちっとも、苦しくないよ!ぼくの病気も、全部、船着き場に置いてきたんだ!ヤッホー!ヤッホー!」
黒い仔猫は、地上ではとても重い病気に罹って、何年もの間ずっと苦しみ続けていたのです。
それが、やっと苦しみから解放され身軽になって、嬉しくてたまらないのでしょう。
黒い仔猫の喜びように、はじめは呆気にとられていた灰色の仔猫でしたが、だんだんと嬉しさがこみ上げてきました。
だって、地上で野良猫だった時と違って、もう、おなかも空いていないし、どこも痛くはないのですから。
そして、何より嬉しいのは、怒鳴り声におびえて逃げたり隠れたりせずにすむことでした。
虹の橋では、灰色の仔猫に、悪意を向けてくるものは誰一人としていないのです。
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黒い仔猫があまりに元気に飛び跳ねるので、葉っぱの屋根に溜まっていた雨粒が辺り一面に飛び散りました。
白い仔猫は、それを避けようとして、ふと、葉っぱの外の水たまりを見ました。
水たまりには、真っ白で見るからに健康そうな仔猫が映っていました。
白い仔猫は、それを一目見るなり、驚いてしまいました。
「うそ!あたし、仔猫になっている!」
白い仔猫は、地上では、ほぼ寝たきりのおばあさん猫だったのです。
目も見えなくなり、オムツもしていました。
なのに、今は、健康な仔猫に還(かえ)っているのです。
「あれっ?ぼくも仔猫になってるよ!」
白い仔猫の横から、水たまりをのぞき込んだ黒い仔猫が言いました。
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歌うたいの猫は、仔猫たちに言いました。
「そうだよ。虹の橋では、楽しい時、幸せな時の姿で暮らせるんだよ」
それを聞くと、白い仔猫は喜ぶより先に、不安な顔になりました。
「だけど、仔猫になったあたしを見て、地上のみんなは、あたしだとわかるのかしら」
歌うたいの猫は、言いました。
「もちろんさ。涙の雨に架かった虹は、心と心をつなぐ虹だもの。一度、架かれば、二度と消えない。だから、どんな姿になっていたって、どんなに遠く離れていたって、すぐにわかるさ」
黒い仔猫が、面白そうに言いました。
「じゃあ、もし、おうちのおとうさんが、これからたくさん長生きして、おじいさんになってしまっても、ちゃんと、ぼくのおとうさんだって、わかるね」
「じゃあ、もし、おうちのおかあさんが、おばあさんになっても、わかるのね。おねえさんやおにいさんが、おばあさんやおじいさんになっても、わかるのね」
白い仔猫も、地上のみんながおばあさんやおじいさんになった姿を想像して、クスクス笑いだしました。
灰色の仔猫も、みんなに負けじと、うれしそうに言いました。
「じゃあ、もし、ぼくが、みんなのおうちの人たちに初めて会っても、わかるよね」
「もちろん!」
歌うたいの猫と黒い仔猫と白い仔猫は、声をそろえて言いました。
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それから、みんなは、みんなの鈴の音に合わせて歌いました。
雨はキラキラした光になって、大きな虹になりました。
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虹の橋のたもとの街に住む猫たちは、毎日、歌を歌います
青い小鳥も、飛んできました
犬やウサギもやってきて、猫といっしょに歌います。
遠い遠いところに住むみんなに聞こえるように。
遠い遠いところに住むみんなの声を聞くために。
青い小鳥といっしょに、毎日、歌を歌います。
――歌うたいの猫(10/10)/虹の橋の猫(17話)――
――エピローグへとつづく――
作:水玉猫
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――次話――
――前話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――第2章のはじまり(第8話)です――
――この物語の第1話です――
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保護猫のお話です
活動家に保護された猫、夕(ユウ)。
幸せに暮らしていた夕は、ある日リンパ腫の診断をうけてしまいました。
虹の橋の記事です
良く知られた虹の橋。しかし意外に知られていないことがあります。