猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【猫の保護】物語はここから始まった ~ねこさん拾いました|ひとつの命を拾うこと(1/10)~

ねこさん、拾いました
f:id:masami_takasu:20180712195011j:plain撮影&文:紫藤 咲

平成二十九年六月十六日、金曜日。
この日は、ぼくにとっても、ねこさんにとっても運命の一日だった。
そうだ。ぼくらの物語はこの日から始まった。

三百五十グラム、ビール缶一本分の体重の、小さな白い子猫。
アクアマリンの透き通るような瞳をした彼は恐ろしく汚かった。爪は伸び放題の出っぱなし。目ヤニはベタベタで、鼻周りも茶色くガビガビしていた。

見た目エイリアン。お世辞にも「かわいい」とは言い難かった。

そんなどこにでもいそうな野良の子猫が、まさか『生きることを諦めていた』なんて、誰が想像できただろう。

だけど、ぼくは彼を引き取った。成り行きとはいえ、「ひとつの命」を拾うことが、どんなに大きな選択であったのかを、ぼくはこの後すぐに知ることになる。

さて、命の重みを考えさせられた、ぼくと彼の三か月間をお話ししよう。
ぼくとライの、長い物語の始まりを――

 

f:id:masami_takasu:20180712200734j:plain

ねこさんを拾った日、ぼくはいつものように仕事を終えて帰路についていた。いつもの道を、いつものように、のらりくらりと歩いていたわけだ。

片手にはスマホ。歩きスマホはもちろん、大変危険とわかっていながらも、SNSをのんびり覗きながら、今日も一日疲れたなぁ、なに食べようかなあといつもの調子でいたわけで。

そんな変わり映えのない帰り道、ふと見れば道端に、三人ほどのおばちゃんたちがいる。どうやら、なにかを相談しているらしい。
通り過ぎようと思えば、簡単にできた。しかし、どういうわけか、そのときに限って、ぼくは足をとめた。

目に入ったのは段ボールと、そこらへんをうろうろする謎の白い物体。

ぼくの通う道は大通りではなくて、ちょっと小道の閑静な住宅街。
近所には保育園もあり、普段はお迎えのお母さんたちの車でごちゃごちゃとする。迎えの車が来るわけだから、往来はそこそこ激しくなるわけだ。

その日は残業もなく、定時で上がっていたため、わりと早い時間帯(それでも六時半はまわっていた)だった。
六月ということもあり、まだまだ完全には日が沈んでいない。
おばちゃんたちは、うろうろする白い物体を心配そうに見つめている。
近づいて白い物体を確認すると、小さいねこさんだった。

「ほぇー、猫だ。子猫だ。ちっちぇえなあ」
そう思いながら段ボールを見る。
親なし。兄弟なし。「もしや、これは」と思ったときに、車がやってくるのを見つけたぼくは、思わず、その白いねこさんを抱きあげた。

周りにいるおばちゃんに話を聞くと、捨てられていたらしい。
ふむふむ、捨てられたのかと段ボールを見る。ねこさんの近くに置いてあった段ボールには『みかん』の文字がはっきりと印刷されている。

「みかんの段ボールに猫捨てるって……漫画かよっ!」
これがぼくの正直な感想だった。

このご時世に捨て猫がいるっていうこと自体がアメージング。
ぼくが小学生だった頃は、よく見かけた。野良猫も野良犬も、捨て猫も捨て犬も、なんだか日常的だった。でも、段ボール入りは初めての経験。とにかくびっくりした。

おばちゃんたちは困り顔。訊けば、近所の保育園に通うママさんたちも園内に声を掛けて、預かってくれる人がいないかと探しているらしい。

ねこさんは手のひらサイズだった。とにかく小さくて軽い。
生まれてどれくらいかはわからなかったが、とにかく小さいし、ほっそい足でよたよたと歩く姿は不安定そのもの。

左目は目ヤニがべったりで、とにかく汚い。
目の大きさが違ってしまっているし、目ヤニの出ている左目は赤く腫れている。爪はとがっていて、シャキーン状態。

 

f:id:masami_takasu:20180712195055j:plain

白いボディーに耳と尻尾がクリームで、ちょっと珍しい色合い。

目はマリンブルーでとても魅力的。

なのに、半端なく汚い。片目が半分開いていないせいで不細工。これじゃ、絶対に貰い手はなさそうだと、申し訳ないがぼくは思ってしまった。

「誰か拾ってくれそうな人に心あたりないかしら?」
おばちゃんに訊かれる。
ぼくは、手の中にいるねこさんを見る。

段ボールの中にいたときは、ミーミー鳴いて、段ボールの外に必死に出ようとしていたらしい。
母猫を探していたのだろうか? 戻ってくるのだろうか? 

しかし、この子に似た大人の猫は、近所で見たことがないという。

「心当たりと言えば、なくはないんですけど……」
このとき、ぼくは一人の人間を当て込んだ。
ぼくの一番の理解者と言っても過言でない友人Aだ。彼なら、この状況を聞けば飼ってくれそうな気がした。

なぜなら、彼の会社では野良猫に餌をやり、去勢をし、何匹も飼っているというからだ。一匹くらい増えてもかまやしないと言うんじゃないかと思ったのである。

とりあえず友人Aに連絡を試みる。
――だが、どういうわけか、この日に限って連絡がつかない。

仕事は終わっている時間のはずなのに、だ。
写メと一緒に、メッセージもいくつか送り、着信も死ぬほど残してやったが、結局30分経っても連絡なし。いつもならすぐに連絡がつくはずなのに、面白いほど繋がらない。

今、思えば、これも神様の采配ってやつなんだろうけど。

おばちゃんたちは困り果てている。
このままだと、車に轢かれてしまうか、カラスの餌になってしまうだろうと言う。

――おいおいおいっ、まじかよー。

このとき、ぼくの脳裏に、小学生の頃に救えなかった「小さな命」のことがフィードバックする。その子はもっと小さかった。
青い目で、アメリカンショートヘアのような柄と色をした子猫だった。同じように目ヤニがべったりで、片目は開けられなかった。

そんな子猫をどうにか助けてやりたくて、ぼくは猫嫌いの父親に『最後まで面倒を看る。責任もって飼うから』と涙ながらに訴えた。
だけど、父親を説得できず、結局は元いた場所に返すことになった。

お腹が空いて、ミーミー鳴く子猫がかわいそうで、人間用の牛乳を与えた。
喜んで飲んでいた。だけど、人間の飲む牛乳が子猫には強すぎるなんて、当時のぼくは知りもしなかった。

結果、その子猫の死期を、ぼくが早めてしまった。
動かなくなって、固くなって、冷たくなってしまった子猫を裏庭に埋めるときは、本当につらかった。無力感にさいなまれた。ごめんなって、泣きながら何度も謝っていた。

その子とリンクしたのだ。

 

f:id:masami_takasu:20180712195730j:plain

「あの……友人がいいっていうかもしれないし、他にも手はありそうなんで、今日のところはぼくが連れて帰ります。もし、よかったら、継続してボランティアさんとか、探してもらえますかね?」

ぼくの提案におばちゃんたちはホッとした顔になった。
おばちゃんたちの周囲には、預かってもいいけど、やっぱりちょっとねと思う人ばかりみたいだった。

でも、全力で見つける約束はしてくれたから、一応、連絡先の交換をして、ぼくはねこさんを段ボールに戻した。

「数日間だと思うけど、お願いしますね。こちらも頑張って探してみますから。本当に優しい人がいてくれてよかったわ」

なんてことを言われながら、ぼくは家へと帰るのだけど――
このときはまだ、この白いちっこいのがパートナーになるなんて……
というか、パートナーにするなんて気もさらさらないまま、きっと貰い手はすぐに見つかるから、預かっても数日かなぁ……
なんて簡単な気持ちでいた。

だけど、実はそんな簡単なことでないことを、ぼくはこの後すぐに思い知らされることになったのだった。

※最後の2枚の写真は、ねこさんを拾ったときに友人に送ったもの。帰りがけにねこさんを覗きに来た中学生に、撮影の手伝いをしてもらいました。

 

『ねこさん拾いました』について

ある日ぼくは、猫を拾いました。
体重は僅かに350g。ビール缶一本分です。

ぼくは猫を飼ったことが無く、猫の初心者である以前に、全くの飼育未経験者でした。そんなぼくが、猫を飼い始めた記録がこのエッセイです。

彼は生きることを諦めていました。そう、ぼくに出会うまでは――
彼が生きたいと思ってくれた瞬間が、いつだったのかはわからないけれど、確かにあったはずです。

猫の未経験者のぼくが超初心者に変わり、初心者に昇格して、やがて普通の飼い主に変わっていく経過と、1匹の猫が生き抜こうと決めて、いまもぼくのそばにいてくれるようになる経過。そんな日々をつづった物語です。

”はじめて” 猫を拾った方へ――
そして、これから ”はじめて” 猫を拾う方へ――
多くの方に、猫の保護について知っていただければ幸いです。
猫の保護は、未経験でも大丈夫です。愛さえあれば。

そして――
今、生きることを諦めているすべての人に希望を託して、この物語を贈ります。
生きることは大変なことだけど、それでも生きるってすばらしいことだから――
――紫藤 咲――

――ひとつの命を拾うこと(1/10)つづく――

作:紫藤 咲
 

――次話です――

――おすすめの記事です――

――作者の執筆記事です――