猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【猫の保護】どうしてこうなるの? ~ねこさん拾いました|ひとつの命を拾うこと(6/10) 

ねこさん、拾いました
f:id:masami_takasu:20180808111712j:plain撮影&文:紫藤 咲

次の日の朝を迎え、段ボールのねこさんを見たぼくは衝撃を受けることになった。

――なんで? どうしてこうなるの!?
昨日はかろうじて開いていた左目が、目ヤニでくっついてしまい、完全に閉じてしまっていたのである。見た目はもう、独眼竜政宗そのものなのだ。

ちなみにこの時点で、鼻のまわりまで黒い塊みたいなものが付着していて、とにかく汚い顔になってしまっていた。

目は開かない。鼻まわりは汚れている。段ボールの端っこでちょこんとお座りしたまま動かない。

目薬は一日三回点眼しないといけないが、目が開いていないのに点眼薬を入れることが可能なのか? ひとまず、点眼薬を注してみる。当然のことながら目の中に入ることなく、ツツツ……と表面を流れ落ちていくだけ。

――意味ないやーん。

目をこじ開けようと思ったところで、目ヤニは固くなってしまって、にっちもさっちもいかない。
どうしたものか悩んだぼくは、猫アドバイザーであるハットリくんに連絡をした。

「目ヤニはちゃんと取ってやらないと、目が見えなくなるからな。ぬるま湯で目ヤニを溶かせ。大丈夫だって。思ったよりも頑丈なんだからさあ。怖がらずに拭いてやれよ」

そう言われても、ねこさんはぼくの中で宇宙人そのものである。小さすぎて力加減が本当にわからない。強い力で拭いてしまっては、摩擦で余計に悪化させかねないのではないか? というか、この目ヤニ、そんなことで簡単に取れるのか?

しかし、とらねばならないだろう。ハットリくんの言うとおり、このまま目が開けられない状態が続いてしまったら、視力に問題が出てくるに違いない。なにより、片目は不便だ。

ぼくは意を決してお湯を沸かす。手で触るにはちょっと熱い程度でなければ、タオルはすぐに冷めてしまうし、洗面器のお湯はとにかく冷めやすい。ハンドタオルもなるべく柔らかいものを選び、レッツチャレンジ。

ありがたいことに、ねこさんの動きはすこぶる鈍い。掴んでも抵抗しないし、逃げやしない。今ならわかるが、この時点ですでにあまりよくない状態であるのだが、当時のぼくは気づかない。それより、なにより、まずは目ヤニをなんとかすることが、ぼくの最大のミッションになっていたのである。

ホカホカのタオルで目ヤニを拭くが、とにかく頑固。そう簡単に取れないのである。おっかなびっくりタオルを当てているから余計に取れない。しかし、そんなおぼつかない手つきであるのに、ねこさんは無抵抗。

目ヤニはさっぱり取れない。

――ふーむ。もうちょっと強めに拭くか。

タオルをホカホカにして再度チャレンジ。拭くのではなく、溶かすようにと、ホカホカタオルを目の上にしばらくあてがい、そこからキュッと目頭から目尻に向かって、丁寧に拭いていく。固まっていた目ヤニが動き、塊がタオルにつく。この時点で目が半分開く。

 

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――よし! やった!

バカである。本当にぼくはバカである。ひとまず目が開いたので、目ヤニとりは終了。ねこさんを段ボールに戻す。目の周りにはまだ赤黒い目ヤニが貼りつき、鼻のまわりにも同じような塊がついている。

――この塊取れるの?

そう思って、鼻のまわりをちょっとだけ拭いてみるが、ひげの根元にこびりついた塊を取ると同時に、ひげそのものまで抜いてしまいそうだった。怖くて断念する。
しかし、どうして鼻のまわりに赤黒いガビガビがついてしまっているのだろうか。

目ヤニがついた――とは考えにくいが、原因がわからない。それでも目は開けられた。ひとまずミッションコンプリートということで、ぼくは次のステップに進むことにした。

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今度はしっかり目の中に薬を落とす。気になって掻かないように、ティッシュで軽く押さえるように、垂れた薬をふき取ってやる。

第一関門クリアの後は第二関門である、ごはんだ。とにかく食べてくれないことには治るものも治らない。昨夜は残してしまい、充分に食べたとは言いきれない。まずは完食を目指し、ミルクを昨日の半分の量に調節する。

勢いよくガッツリ食べてくれる――ことはなかったが、なんとか全量摂取できた。しかし、こちらとしてはもう少し食べさせたい。そこで缶詰を少し温め、与えてみる。が、やっぱり食べない。

「まだ食べるのがへたくそだから、最初のうちは口を開けさせて、上あごにくっつけるように食べさせてみるといいよ」
と、獣医さんの指示を思い出し、二口ほど、口の中に入れる。入れたものについては食べる。でも、どうにも嫌がる。無理に食べさせると、ごはんそのものに対して悪い印象を持ち、食べなくなる危険性を考え、断念し、次の関門に進む。排泄だ。

実はお世話の中で、排泄させるのが一番苦手だった。それこそ、目ヤニとりよりも加減がわからないのだ。どれくらいの時間、刺激すればいいのか。どの程度の力でやれば不快な気持ちにならないのか。

ティッシュの感触はどうしたって母猫の舌のようにはいかない。一歩間違えて、傷つけるようなことがあったら、取り返しがつかないのだ。

あいかわらずのたどたどしい手つきで排泄チャレンジ。ティッシュを濡らし、刺激してやる。少しだけおしっこが出る。ティッシュがちょっと汚れたくらい。それでも出るだけいい。

おしっこがまったく出ないようなら、獣医さんに駆け込む気でいた。ぼくと一緒にいて12時間以上経っている。排泄できなくなれば、命が危機に晒されることを知っていたからこそ、少しでも出してくれたことにホッとした。しかし――

――思っていたかんじと随分違うなあ。

お腹が空いているだろうと思っていた。ミルクを前にすれば、がっついて飲むとも考えていた。しかし、ねこさんに食べたがる素振りは微塵もない。

どうしたらもっと食べさせることができるだろうか。工夫が足りないのだろうか。悩みが尽きない。しかし、最も悩ましい問題と、ぼくは対峙せねばならなかった。そう、ひなさんだ。

彼女に慣れてもらわねばならない。そこで、ねこさんを彼女の生活スペース内に連れて行く。

「ワンワンワンワンワンッ!」
相変わらずほえられる。ねこさんは段ボールの中で微動だにしない。仕方なし、リビングの隅っこに置いたカラーボックスの一番上にスペースを作り、そこに段ボールを入れてみる。ビックリするほど、ぴったりハマる。

声と気配に慣れてもらおう――そう、思ったのだが、とんでもなかった。
ひなさんがカラーボックスに手をかけ、段ボールを落とそうとする。

――ひぃっっっ!
ねこさん、別室に撤収。 

――はあぁぁぁ。こんな大変なのか……

「お世話の大変さ」を改めて思い知って、ぐったりしてしまった。
この日、何度かひなさんとの接触を試みたものの、とにかくほえる、鼻で転がすを繰り返され、距離は少しも縮まらなかった。 

ねこさんは鳴かない、動かない(お腹を触るとちょっとかじったり、手を出したりする程度)、食べない(指で与えると、どうにか食べる)の三拍子。そのうえ、ノミが死なない。うじゃうじゃしている。

開始早々、ぼくとねこさんとの共同生活は暗礁に乗り上げまくっていた。しかしこの後、さらに追い打ちをかける事態が待ち受けていようとは思いもしなかったのであった。

(余談)

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――ひとつの命を拾うこと(6/10)つづく――

作:紫藤 咲
 

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