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【猫の保護/実話エッセイ】上手くいった、トイレトレーニング ~犬派の僕が猫と暮らす理由|ひとつの命をはぐくむこと(5/11)

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犬派の僕が猫と暮らす理由
f:id:masami_takasu:20180906170941j:plain撮影&文:紫藤 咲

ねこさんとの共同生活も五日目あたりになってくると、自立で排泄することができるようになっていた。こうなると早急にトイレを用意しなければならない。

決められた場所ではなく自由に排泄させていては、後々困る事態になりかねないからだ。

まだマンション(ケージ)を発注している段階で、家に届いていない頃のことだ。
ひなさんにいたずらされるかもしれない危険性の中でのトイレセッティングに踏み切らないといけないのはわかってはいても、なかなか踏ん切りがつかなかった。
とはいえ、もはやそんな悠長なことを言っていられる状況ではなかった。

排泄タイミングがわからなかった。知らないうちにフローリングやカーペットでおしっこやうんちをされてしまうこともたびたび起こっていた。
その度に拭いたり、消臭スプレーしたり、洗濯したりが続く。

やっても、やっても追いつかなくなっていくのだ。ゆえに、苦渋の決断ではあったが、トイレを設置することにしたのだった。

トイレ本体の価格は実に安かった。容器とお試し砂とシーツが入って980円。
砂とシーツは予備を購入していたけれど、本体だけ買えばトイレセッティングが苦もなくできてしまうなんて、初心者のぼくからしてみたら、なんともステキなセット売りだった。

本当にお得だと思ったし、猫用アイテムって良心的だなと思ったのも確かだ。犬の場合はトイレシーツがついているトイレなんて見たことがない気がする。

フラットタイプで箱入りではない、現品そのまま売りをよく見かける。逆に言うと、シーツとセットで売っているところは見たことがないのだ。
もちろん、オスの場合は足をあげておしっこをするから、壁つきタイプも売っている。それでも『シーツ入ってます』的なものがあったかどうかは定かではない。

余談だが、雌の場合はフラットタイプのほうが使いやすい。体が大きい子、胴体が長いダックスのような犬種の場合はトイレからおしりが出てしまうこともあるからだ。

さて、セッティングが完了したトイレを、試しにテレビ台の前に置いてみる。ひなさんはなんだ、これ? な顔をしたけれど、特に砂を掘って遊ぶようなことはしなかった。想定していたよりも興味を示さない彼女の様子にひとまずは安堵。早速ねこさんをトイレの中に置いてみたのだが――

ねこさん、トイレの砂の上で固まる。

文字通り、置いただけの状態になってしまった。動かない。じっとしている。
砂の感触が嫌なのか、動いても手を上げる。

砂地はフローリングに比べて凸凹が強いため安定感に欠けるらしく、床以上に上手く歩けない。ゆえに、じっと固まることしかできなくなってしまっていたのである。

さらに、だ。

見ているこちらがかわいそうに思えるくらい、うつむいている。
砂をじっと見つめ、しょぼくれた顔をしたままなのだ。
抵抗できない子をいじめているような罪悪感さえ覚えるほど、彼は悲しげな顔をしたのだ。

こんな風に
挿絵(By みてみん)

なぜ、こんな状態になってしまうのか。
それはねこさんの身体の大きさや状態に対して、砂の粒が大きかったからだ。

ゼオライトとシリコンという素材で作られた抗菌、消臭に優れたタイプの砂の粒の大きさは一センチくらい。固まるタイプの紙砂よりも大きい。
さらに飛び散らないタイプなのでそこそこの重みがあるらしい。

踏みしめても潰れない硬さがあるので、でこぼこ感は強い。元気でしっかり歩ける状態であるならば、なんの問題もなかっただろうが、残念なことに彼は小さくて、弱っている状態。

硬い砂を掻きわける力はこのときのねこさんにはなかった。砂を掘るなんて行為はできるはずもなかった。

固まるねこさん
挿絵(By みてみん)

――悪かった。ぼくが悪かった。だから、そんな顔しないでおくれ。

いたたまれなくなり、ねこさんとトイレとのファーストコンタクトを終了した。
それでも数回トライして、なんとかトイレに慣れ、排泄する場所であることは覚えてもらえた。

ただ、砂の上っ面をなでるくらいで、しっかり掘り起こすことはできなかったのだ。

猫らしいトイレの使い方はできないまでも慣れることには成功した。そうなると、今度は次の課題が見えてくる。タイミングだ。

実は購入したトイレ、なかなかの高さがあった。ねこさんの脚力では足場がないかぎり、すんなりと飛び込めないのだ。
床から12、13cmくらいの高さでも、ねこさんにとっては高かった。

となると、こちらで誘導するか、彼がトイレに入れるように足場を作ってやらなければいけない。

購入したトイレには砂を掘るとき、周囲に飛び散らないような工夫がなされている。砂飛び防止のフードだ。まずはこれを外す。

トイレを設置してから二日ほどはぼくがトイレに入れて、排泄させた。
出ているかはよくわからなかったが、しっぽをピーンと緊張させて、全身に力を入れて座り込んだ姿勢を見る限りは、ちゃんとできていたのだと思う。

もちろん、トイレでできなかったこともある。
けれど、犬と比べればずっと楽だった。
トイレですることを数回で覚えてくれたからだ。

実はひなさんのトイレトレーニングに失敗しているぼくには、ねこさんが本当にトイレを覚えてくれるのだろうかという不安があった。
ひなさんはぼくの号令がないとトイレに行けない子になってしまったのだ。

自主的に行けるときもあるけれど、年をとってからはトイレの枠内ですることが困難になってきている。

どうしたら自分でトイレに行けるようになるのかと、彼女の若い頃に獣医さんに相談してみたところ

「号令で行けるほうが貴重だから、今のままでいいんじゃないかな」
で、終わってしまった。結局、十五歳になった現在でも、号令忘れをすると粗相してしまい、いまだに苦労している。

 

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とはいえ、彼女は決しておバカではない。

例えば、ぼくが出掛けようと支度をしているとしよう。ぼくが出掛けるということは、彼女は留守番をしなければならないということになる。一緒にお出掛けできない。ひとりぼっち。いつ帰って来るかもわからない。さみしさと不満を、うんち爆弾という手を使って示す。

しかも、だ。

ぼくの進路かつ、見えにくい場所に確実にトラップを仕掛けてくる。
急いでいるぼくはまんまと彼女の罠に引っ掛かり、あのなんとも言えない感触に悶絶するのである。

悪いことだと知ってやっている彼女は、物陰に隠れてぼくの様子をうかがっている。いや、躾が悪いと言われればそれまでの話だが、このトラップ、実に巧妙で、何度引っかかったかわからない。

絶対に作為的である。明らかに狙ってやっているとしか思えないタイミングと経路は秀逸であるとしか言いようがない。

話がそれたので本題に戻るとしよう。

ひなさんの躾失敗例もある以上、ねこさんに覚えてもらうのは必然事項となっていた。もしも覚えられなかったら、ぼくは彼らの粗相を一日中、拭いて回らないといけなくなってしまうからだ。

ゆえに、ねこさんが自力でトイレに行き、うんちをしたければ『にゃーん』と、か細いながらも鳴いてくれることも、ほんの数回で覚えてくれたことも、非常にありがたかった。

おかげで猫って楽ね、躾しなくていいのね(いや、誘導して、多少なりのしつけはしたが、犬ほど根気は必要としない)と、猫の飼いやすさを実感できるいい機会になった。

こうして、トイレに関する諸問題をなんとか解決したぼくとねこさん。
元気な状態であれば、難なくクリアできる問題も、弱っている状態では、そんな簡単にはいかない。

その子の身体の大きさ、足腰の強さなどを考慮しながらトイレ本体、砂の形状を選ばねばならないのだと教えてもらった日々であった。

(余談)
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――ひとつの命をはぐくむこと(5/11)つづく――

作:紫藤 咲
 

――次話――

――前話――

まとめ読み|猫さん拾いました ③
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――本クールの第1話目(1/11)です――

先住犬ひなさんと、ねこさんのお近づきチャレンジの再開
しかし、吠えまくるひなさん。
――上手く行かない。

引き離そうとするぼくに、ハットリ君が言う。
「まぁ、待て。ちょっと見てみようぜ」
ひなさんと、ねこさんは、家族になれるのか?
そして彼は、遂に”運命の一言”を、ぼくに告げるのでした。

――本連載の第1話です――

運命の日――
ぼくは猫を拾った。

犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
はじまりは、里親探しから。

――当然、未経験。
「ぼくらの物語はこの日から始まった」

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