犬派の僕が猫と暮らす理由撮影&文:紫藤 咲
ねこさんの体重を増やすことに躍起になっていた一方で、実に由々しき問題が勃発していた。この頃、ねこさんは本当に食べ物を口にする量が少なかった。
食べられるだけの量を見積もって作っているはずなのに、毎回、半分以上残してしまっていたのだ。
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「くぅ~ん」
この残り物を欲しがる方がうちにはいた。そう、ひなさんである。
現在、15歳のひなさん(この話は1年前なので、当時は14歳)。食欲旺盛。食に対しての異常な執着から、認知症もある様子。
高齢になってから、ずいぶん五感が鈍くなってきたのだが、猫用フードは犬用に比べて、匂いがはるかに強いらしく、敏感に反応なさる。お魚系のウェットタイプのフードは特に匂いが強いので、ひなさんの鼻を刺激しまくってくれた。
こういう条件に、さらに別の4つの要因が加わって、問題はより大きなものへとなっていった。
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まず一つ目。ぼくが根っからの貧乏性であること。
そのせいで、ぼくは食べ物を残すということが基本的にできない。出された食事はたとえ米一粒とて残すなという教育の元に育ったせいだ。
外食するとしよう。キャパ以上だとわかっていながら、目の前に置かれたものは残さず頂く。机の上の皿をきれいにせずにはおけないのだ。
食べた後、気持ち悪くなって吐きそうになっても、極限状態まで吐けない。さらにつけ加えると、捨てることもできない。もったいないという気持ちと、申し訳ない気持ちが入り混じってしまい、どうしても踏ん切りがつかなくて無理して口に入れてしまうのだ。
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次に二つ目。ねこさんの食べる回数だ。
ぼくが打ち出した『なにがなんでも太らせよう大作戦』では、一度にたくさんの量を食べさせるよりも、食事の回数を増やして1日に食べる全体量を増やそうとしていた。
日に5回も6回も食事チャレンジをしていたから、残る割合は少なかった。しかし、塵も積もればなんとやらで、回数が増えれば残る量は比例的に増えてしまうのだ。
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三つ目はひなさんが老犬であるということだ。
お年寄りなので、若い頃に比べればずいぶんと運動量も基礎代謝量も落ちている。実際のところ、彼女のフードは13歳以上のローカロリーフードだし、食べる量をきちんと守っているからこそ、5kgをキープできている状態だ。
胴長のダックスは体重を増やしすぎてしまうと椎間板ヘルニアになりやすくなる。そうならないために、彼女の体重管理はずっとシビアにやってきていた。ここで増やすわけにはいかなかったのだ。
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最後の四つ目。高カロリーな子猫用のフードをねこさんが食べていたことだ。
運動量が豊富かつ、成長期である子猫用フードはとにかく栄養価が高いのだ。
さらに状況を深刻化させることになったのは回復期用のフードを食べることになったこと。これは一般的な子猫用フードより、さらにカロリーが高かったからだ。
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以上をすべて踏まえてみよう。
ぼくは残すことが嫌いな貧乏性で、ひなさんは異常な食欲を持ったお年寄り犬。
さらに高カロリーフードで、一日に何回も残されることになる。
この残り物処理をしていたのがひなさんだったのだ。
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ねこさんの体重が増えないのに、ひなさんの体重がめきめき増える。
体を触ると、ねこさんはあばらがわかりそうなくらいにガリガリで、骨と皮しかないのに対し、ひなさんはみっちりと密度の濃い豊満ボディーに変化していったのである。
――違う! おまえが太っちゃいかんのだ、ひな!
彼女の体に触れ、その変化に恐れおののいたぼくは、ねこさんの体重増加を計る一方で、ひなさんのダイエットも頭に入れなければならなくなったのだ。
こんな状況にした原因は言われなくてもわかる。ぼくだ。ぼくが悪い。
だが、どうしても食べ物を捨てられない。こればかりは生活歴の問題であり、ぼくの隅々までしみこんでしまっている以上、もはや変えようがないのである。
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しかし、どうしても太らせるわけにはいかなくて、彼女自身のごはんをギリギリまで減らすことにした。通常、半カップ与えていたところを、さらに半分に減らす。
その上で、ねこさんの残り物を与える。
この方法は功をなし、増え続けることなく、一応5キロを過ぎたくらいを維持することが可能になった。
それにしても、もう少し気づくのが遅かったら、不健康なデブ犬まっしぐらになるところだった。
食事に対して、もっと責任感を持たなければ――
と考えさせられたのは間違いない。
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こうやって、いろんな方面で一進一退を繰り返す。
かわいい2匹の同居人たちとの毎日は、いまにも壊れそうな小舟で大荒れの海へ突っ込んでいくみたいに、順調にはいかなかったのであった。
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ひなさん
嫌なことをされたり、言われたりすると
彼女は必ず大きく欠伸をするのです
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(余談)
――ひとつの命をはぐくむこと(8/11)つづく――
作:紫藤 咲
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――次話――
エリザベスカラーを付けて帰宅したねこさん。
僅か50ℊだが、体と比較すると大きくて重い。
ねこさんは辛そうで、うつむいてばかりいる。
ときには、首を支えてやらねばならぬほどに。
ご飯もたべにくい。
しかし、そのカラーが奇跡を起こすことになろうとは
――前話――
ねこさんとの生活も一週間。
運命的な出会いに感謝するぼく。
友人ハットリは、”もしも”ねこさんが体を壊したらどうする訊いてくる。
「うーん、どうかなあ」
そんな談笑だった。
だが――
その時既に、ねこさんには命の危機が迫っていたのだ。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――本クールの第1話目(1/11)です――
先住犬ひなさんと、ねこさんのお近づきチャレンジの再開
しかし、吠えまくるひなさん。
――上手く行かない。
引き離そうとするぼくに、ハットリ君が言う。
「まぁ、待て。ちょっと見てみようぜ」
ひなさんと、ねこさんは、家族になれるのか?
そして彼は、遂に”運命の一言”を、ぼくに告げるのでした。
――本連載の第1話です――
運命の日――
ぼくは猫を拾った。
犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
はじまりは、里親探しから。
――当然、未経験。
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