猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

【猫の保護/肺炎/医師への不信感】もしかして医療ミス? ~犬派の僕が猫と暮らす理由|ひとつの命をつなぐこと(4/10)~

犬派の僕が猫と暮らす理由f:id:masami_takasu:20181122174348j:plain撮影&文:紫藤 咲

家に帰る道中で、ハットリくんにねこさんが肺炎で入院したことを報告をした。

おそらくそうなるだろうと、彼は予想していたらしい。
「仕方ない」そう言った。

「こればっかりはもう、あいつの生きる力に賭けるしかない。あいつが生きたいと思う力が強ければ、きっと戻って来るさ。それを信じるしかない」

おそらく彼は彼なりに、意気消沈したぼくを励まそうとしていてくれたのだと思う。
でも、ぼくは一生懸命話してくれる彼に、返す言葉を見つけられずにいた。なにを聞いてもどう答えていいのかわからなかった。

信じるしかないと言われても、わかっているとしか答えられなかった。悔しくて。ただ悔しくて。恥ずかしながら、ぼくは運転しながら泣いてしまっていた。

「無力でさ。なんにもできなくてさ。悔しいよ」

ぼくはなにもできなかった。肺炎で苦しむねこさんをなでてやることしか、傍にいてやることしかできない。治してやりたくても知識も技術もない。できることは医者につれていき、治療を受けさせることだけだ。

預けてしまえばそれこそ、戻ってこられる元気が出るまでひたすら待ち続けるしかないのだ。

無力感に打ちひしがれていた。
これほどまでになにもできない自分をただ呪うことしかできなかった。

「まあ、元気出せ。とにかく信じようぜ」
ぼくは「うん」とだけ答え、通話を終えた。

 家に帰っても、なにもやる気にならなかった。食欲もわいてこない。ひなさんはそんなぼくの気持ちを察してか、ずっと傍にいてくれた。
テレビも観なかった。もちろんのことながら、ごはんが喉を通るはずもない。

二時間くらいした頃だろうか? ハットリくんから再び電話が掛かってきた。
けれど、彼の様子は先ほど電話したときとは打って変わっていた。声に力がなくなっていた。

 

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「なにしてる?」
弱々しい問いかけから会話が始まった。「さっきおまえと話していて、やっぱり気持ちが落ち着かなくてな」

彼にとっても知らない子ではない。むしろ、第二の保護者だ。遊びに来れば、ねこ可愛がりという言葉がぴったりと当てはまるほどには、うちのねこさんを溺愛していた。
たくさん抱っこしていた。いっぱいくすぐっていた。

そんなねこさん大好きなハットリくんは「いろいろ調べてみた」と続けた。

「ネットでさ。どんなふうに治療するのかとか、助かるのかとか、とにかく調べてみたんだ」

そう言われ、ぼくは急いでパソコンの前に座った。
そう、このときのぼくはねこさんが実際、どんな治療を受けることになるのかも知らなかった。

ハットリくんが言うように『ねこ、肺炎、治療』というキーワードで検索する。するとどういった治療をするのか、すごく簡単に調べることができた。

酸素室に入り、呼吸をしやすくする。ネブライザーという装置を使って、薬を含ませた空気を吸わせる――そんな内容だった。ちなみに酸素室とネブライザーを使うと、かなりな高額治療になるらしい。

レンタルならば一か月で一万五千円。入院するより格安に治療できるようなことも一緒に書かれていた。

「酸素室かあ。レンタルもできるってすごいなあ」
「最悪さ。酸素室レンタルして、家で看てやるってこともできそうだよな」
「でも日中いるわけじゃないし、点滴治療ができないよ」
「まあ、通院となると、やっぱり大変になるよな。でも治療費はどうするんだ?」
「それはもう、いくらになってもかまわない。あの子が助かるなら二十万出すよ」

彼が入院して、ぼくは心の底からそう思った。
命には代えられない。お金の問題ではないのだ。

だって、そうだろう? 
お金なら働けばいい。ぼく自身が健康なら、いくらだって稼ぐことができる。
でも、あの子の命を救えるのは今、このときしかないのだ。

「なあ。もうひとつ、思ったんだけどさ。一回目に注射打ってもらったときは元気になったのに、二度目に具合悪くなっているだろう? それにさ、おまえ、言っていただろ? びっくりするぐらい注射の薬の量が増えたって。これ、副作用じゃないのか?」

風邪から悪化した肺炎ではなくて――
その一言に、ぼくは息を飲んだ。そんなことがあるのだろうか。
疑いながらも、ぼくの脳裏にはあの太い注射がしっかりと蘇った。

「先生に限って、そんな医療ミスみたいなことをするわけないだろう?」
「わからんぞ。先生だってもうそれなりに年だろう? 人間はミスをする生き物だ。俺は会ったことがないから、おまえみたいに心底は信じられん。でも、どう考えてもおかしすぎる。注射を打つ前は元気だったんならなおさらだ」
「やめてくれ。先生を疑いたくない」

悔しさから来た言葉だと、このときだってわかっていた。それでもぼくらは言い合いになった。それくらい、ねこさんのことが心配で、心配でたまらなかった。ぼくら二人とも、である。

「とにかく、俺は医療ミスだと思う」
「ぼくは先生を信じる」
「セカンドオピニオンできる医者を探す」
「勝手にしてくれ。ぼくは先生に任せたんだから!」

自分たちの子供が危機的状況になったとしたら、きっとこうなるものなのだろう。
結局、最後の最後まで、ぼくらの意見がかち合うことはなかった。
険悪ムードの中で、入院一日目の夜は更けていく。

緊急の電話が掛かってこないかという不安と、医療ミスなのだろうかという疑心に駆られたぼくはその日、ほとんど眠れなかった。

そうしてまた、入院2日目の朝を迎えることになったのである。

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顔を上向きにして寝ることが少なかったねこさんの、
この頃唯一の寝姿

 

(余談)
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――ひとつの命をつなぐこと(4/10)つづく――

作:紫藤 咲
 

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