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【猫の保護/肺炎】信じることの難しさ、命の重みを知る ~犬派の僕が猫と暮らす理由|ひとつの命をつなぐこと(10/10)~

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犬派の僕が猫と暮らす理由
f:id:masami_takasu:20181206124633j:plain撮影&文:紫藤 咲

ねこさんの状態がよくないこと。死ぬほうに賭けたほうがいいと言われたこと。それらをハットリくんに報告した。

なにせこの頃の彼は、先生に対する不信感が本当に強く、医療ミスだとか、後手後手すぎるだとかとたびたび不満を口にしていたからだ。

もちろん、そういった言葉が口を突いてしまう裏にはねこさんを思う気持ちでいっぱいだからだと理解しながらも、ぼくはとてもつらかった。先生と親友の板挟みになっていた。ぼくからしたら、どちらのことも悪く言いたくなかった。だって誰かひとりが悪いわけではないのだから。しかしハットリくんの気持ちは収まらなかった。

「だから何度も言ったんだ! 生きられる可能性をつぶしているのは人間だ! あいつを死に追いつめているのは人間の手だよ! もっと早くに治療していれば、こんなことにはならなかったんだ! 元が野良だから、どうでもいいって思ったんじゃないのか? だって普通ならさ。ちゃんと家の子として飼うって言ったら、検査をするって!」

彼の言うこともたしかだった。こうなる前に何度も、何度も言われた。早めに治療してやらないといけないと、拾ってきた当初から言われていた。ゆえに、どうしようもないくらい悔しくなるのだろう。

ぼくがあまりにのんびりしていたから。先生にもっと早めに調べてもらえていれば。ねこの飼い方の本を読んでいたら。やっていればよかったと後悔することばかりが浮かぶものの、過去は変えられない。なのに、ぼくらは言い合いつづけた。

「じゃあ、ぼくが悪いんだろう! ぼくがちゃんとしなかったから、結果、こういうことになったって責めるんだろう!」
「別にそんなこと言ってないだろう! おまえはちゃんと状態を報告していたのに、検査もしてくれない先生が悪いんじゃないか!」

言い争うたびに、ぼくらは共に疲弊していた。ねこさんの状態が悪ければ悪いほど、ヒートアップする。彼の気持ちをわかってはいても受けとめられない。だって育てているのはぼくだったから。

 

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責められるたびに、ぼくはとてもつらかった。親身になって世話をしていたのを誰よりも知っているはずなの彼に責められたからだ。

彼自身も誰かを攻撃せずにはいられなかったのだと思う。きっと助かるはずだと思う気持ちと、一向に好転しない状況にやりきれなさが募っては爆発していたのだろうから。

「そういうのは直接先生に言えよ! おまえの思っている不信を全部、先生に直接ぶつけたらいいじゃないか!」

こんな不毛なやりとりを繰り返すことが実に多かった。でも、もうやめたかった。ぼくたちが無力感に打ちひしがれたところで、よくなるわけでもない。むしろ、あの子がこの状態を知ったなら、どれほど悲しむかしれない。それにこういう言葉がある。

信じる者は救われる――と。

「なあ。もう先生を疑うのはやめないか? ぼくもやめる。先生は今、できることをやってくれている。それを信じなかったら、先生だって助けるのが嫌になるかもしれない。信じない患者の子を救いたいって思うか? ぼくなら思わない。でもね。おまえは知らないだろうけど、過去何匹も先生には助けてもらってる。だから、絶対に今回も助かるって、ぼくは信じる」

これまで何年も先生を信じてきた。特殊な体質の実家のわんこさんも先生だからこそ長生きできた。彼女は脂肪を分解する酵素が出ないという生まれながらの病気だった。毛色も通常の子よりも薄く、短命だと言われていた。子犬の頃、その病気に気づいてくれて、最新薬を投与してくれたのは他でもない先生だ。さらに勉強会にも積極的に参加して、中型犬にもかかわらず、十四年も生かしてくれたのだ。そんな先生のことをどうして信じずにいられるだろう。

「そうだな。確かにおまえの言うとおりかもな。信じなくちゃ……先生だって嫌になるよな。見捨てられるのは困るよな」

これ以降、先生を疑うことはやめた。とにかく助けてもらおう。
助からなかったとしても、やれることはやってもらったと思おう。
ぼくらはそう決めた。

「あいつの生きたいと思う気持ちを信じよう」
それがぼくらの出した結論だった。

 

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でも、ハットリくんの言うこともたしかなのだ。彼の命を縮める原因を積み上げたのは、人間側の責任も少なからずあるに違いない。先生の言うとおり、個体が元々持っている弱い因子が大きな原因だとしても、だ。

だからもう、同じことを繰り返してはいけないと、ぼくは強く思う。彼が元気になったなら、今度はもっと早く対応していこう。そして今度こそ、病気がひどくなる前に、自分にできることをひとつ、ひとつ、確実にやっていこうと――

「あいつの生きたいと思う気持ちが大きければ、絶対に戻ってくるんだからな。それに、トラックでひかれて頭蓋骨を骨折しても、今、元気で生きている猫もオレの会社の近くにはいるんだよ。そういうこともあるんだから、あいつの生きる力を信じなくちゃな」

不安をかき消すように、ぼくらはよくなる未来の話をした。それでも不安は消えてはくれない。でも、他にできることがなかった。瀕死でも助かる事例を話し合うこと以外に、できることがなかったのだ。

命をはぐくむことは生半可なことではない。
ごはんさえ与えていれば、すくすく育つものでもない。

言葉にできない子――人間の赤ちゃんにも同じことが言えると思うのだが、言葉で訴えることができない状況で、身体の異常をどの時点で気づくのか。どう対応していくのか。ぼくたちの一瞬の判断や行動がターニングポイントとなっていくのである。

このような命が瀕する状況を経験したからこそ言えるのだが、命は簡単につなぐことができないものだと学べたことはとても大きい。ゆえに、粗末にはできないのだ。

このたったひとつ、単純とも思えることに、どれほどの労力を必要とするのかを知ることができた。さらに言えば、他者の命のみならず、己の命の重みも知ることができたのだから。

そう。今こうして何気なく生きていること自体が、実はとても尊いことなのだ。
生きること――それが一番難しい。生きたくたって生きられない状況は山ほどある。

なんの山も谷もなく、穏やかに生きていることができる――
それは本当にしあわせなことなのだ。普段はそんなこと、これっぽっちも思うことがないだろうけれど。

翌日、ぼくはたったひとつの命をつなぐために、多くの力を借りることになる。多くの、そして、とても大きな力を――

――第3クールはここまで。次のクールに続きます――

★ ★ ★

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このイラストはここで載せている漫画をひとまとめにして掲載しているサイトの表紙絵になります。エッセイを読んで、ねこさん死んじゃうの?という質問をいただきました。死んでしまうと安心して読めないということですが、生きております。安心して続きをお待ちいただければと思います。また、文章あっての漫画ではありますが、漫画だけ読みたいよというニーズもあり、別サイトにて公開しております。第4クールまでのお楽しみにしていただければと思います。講談社漫画サイト『DAYS NEO』検索してみてください。

★ ★ ★

 

――ひとつの命をつなぐこと(7/10)つづく――

作:紫藤 咲
 

――次話|次章の第1話です――

第4クールスタートです。
ねこさん不在の寂しさを救ってくれたのがSNSでの交流だった。
そこで想うのが『引き寄せの法則』だ。
『強く願ったことが叶う法則』である。
みんなが祈ってくれたら、きっとその思いは――

――前話――

ねこさんの入院4日目、ぼくはついに切札を投入した。
犬のひなさんを、一緒に病院に連れていったのだ。
心配げにねこさんを見ているひなさん。
――あれ?
ねこさんが元気そう。
――何故?
医師に状況を訊ねるぼく。
しかし、返ってきた言葉は重かった。

まとめ読み|猫さん拾いました ⑥
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――本クールの第1話目(1/10)です――

友人から、エアコンが駄目だと聞かされたぼく。
猛暑でそれはない、うちには犬もいる。
そこで高めの28度設定に――
だが、盲点があった。
猫に有害な除湿をしてしまっていた。
そして、ねこさんの容態は悪化していく

――本連載の第1話です――

運命の日――
ぼくは猫を拾った。

犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
はじまりは、里親探しから。

――当然、未経験。
「ぼくらの物語はこの日から始まった」

 犬派の僕が猫の多頭飼いを始めた理由

運命ってあるのだろうか?
だとしたら、今回がきっとそうだろう。
きっかけは、1枚の画像――
子猫が写っていた。
『もらう?』
友人のハットリ君が訊いてきた。
――もしも、ぼくがもらわなければ?
『保健所行き』
ぼくの心臓はバクバクだった。

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【まとめ】ある日突然、猫を拾ったら?

捨て猫にはある日、突然遭遇するもののようです。
いざ遭遇してしまったら、どうしたら良いと思いますか? 
体験談をまとめました。

「助けてあげたいけど、うちで飼えるのかな?」
そう思う方々に「大丈夫だよ」と、背中を押してあげる体験談があるといいなと思ってこの記事を作成しました。

もちろん、ハッピーエンドのお話ばかりではありません。
しかし、色々なケースを知ることで、本当に安心ができると思うのです。
読んでみてください。
どの記事にも、愛情が溢れています。

――作者の執筆記事です――

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