猫の話をしようか

Withcat 猫と飼い主の絆について

【殺処分数の推移】里親なんて、そう簡単にはみつかるわけがない ~拾った猫はどこにいく?(2/10)~

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紫藤、猫拾ったんだって?
(ハットリの見た、犬派の僕が猫と暮らす理由)

f:id:masami_takasu:20190204145843j:plain文:ハットリ

さて、前回は友人の紫藤が、会社からの帰り道で、捨てられた子猫を引き取ったことを書いた。しかも紫藤はその子猫を、俺に押し付けようとしていた。

猫のことを知らないやつは、猫好きは簡単に猫を引き受けるものだと思っている節があるが、世の中そう甘くはない。条件が揃っていて、容易に保護猫を引き受けられる。猫好きは、もうすでにそれを実行していて、家には2匹や3匹いたりするのだ。

つまり行くべきところには行き渡った感があり、さらにそれを上積みするのはそう簡単ではない。猫は飼えば飼ったで、食費もかかるし、トイレなどの消耗品も買わなければならない。病気になれば医者にも連れて行く。要するに金も手間もかかるのだ。

それ以外にも、アパートや借家住まいだと、動物を飼うことが許されていない場合が多い。

俺はと言うと、住んでいる賃貸マンションは一応管理組合の許可をとれば猫は飼えるが、部屋の中に猫の居住スペースを作るのが難しい。戸建てや家族向けの広いマンションにでも住んでいない限り、人間の居住スペースをやりくりするしかないわけだ。

何をおいても猫好きだという人たちは、もちろんそんな苦労はいとわないだろうが、そうでなければなかなか難しい。

俺がどうかと言えば、俺は猫は好きだ。
いや、言いなおそう。大好きだ。
しかし、今は猫よりも大事なものが沢山あるのだ。

車も好きだし、大型ディスプレイで映画を見るのも好きだ。何よりも今は仕事が楽しくて仕方がない。
車に掛ける費用(ガソリン代とか、洗車代とか、パーツ代)を切り詰め、猫に荒らされないように、DVDは棚に収めて、画面には保護シートをかけて、餌を与えるために仕事を早めに切り上げる生活が始まる。病気をしたら、休暇もとらないといけない。
それらのことは皆、経験したから知っていることだ。

因みに、猫の引き取り先を探すのが難しいのは、数字が証明している。環境省が平成30年に公開した、平成29年度の統計によると、年間で34,854匹の猫が殺処分をされている。最近は動物保護法というものがあり、捕獲した猫をすぐさま処分することはない。ある程度の期間保護して、里親を募集する。

動物愛護団体も必死になって譲渡先を探す。それでもその数は行き場が見つからずに殺処分されるのだ。興味のある人もいるだろうから、少しその数字をあげておこう。

平成1年には毎年10万頭弱の犬猫が殺処分されていたのが、平成29年には5万頭を切る(43,216)数字になっている。上に書いた34,854頭はその中に占める猫の数だ。
犬に比べて圧倒的に多いのは、捕獲数の少なさによるものだ。犬には野良はほとんどいないが、猫はその逆で、ほとんどが野良だからだ。

こんな数字まで上げて何を説明したいのかというと、これだけ努力をしても、なおもゼロにはならないということだし、これ以上に減らすのは難しいということだ。
行くべきところには、すでに行きわたっていることの証でもある。

 

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さて、紫藤の話に戻そう。
因みに上の写真は、紫藤が飼っている先住犬で、”ひな”という老犬だ。紫藤は家に犬がいるというのに、更に猫を引き取るという暴挙に出たわけだ。

普通ならば、先住の動物がいたら、上手く一緒にやっていけるかどうかを試すものだ。
里親制度で言うと、トライアルというやつだ。
それもせずに紫藤は子猫を連れ帰ったのだ。

もちろん一時預かりのつもりだったのだろうが、里親探しの難しさを知る俺ならば絶対にそんなことはしないだろう。

さて、俺はスマートフォンの着信履歴に、紫藤の名をみつけて「ウーム」と唸った。
さて、どうしたものか?――

実は昨日から着信があったことは知っていたが、こちらからは電話はしなかった。何故かというと、嫌な予感がしたからだ。

俺には霊感がある。だから危機には敏感に反応してしまうのだ。
第六感が俺に『電話はやめとけ』と今も言っている。

因みに俺の霊感は、そこらの自称”勘が良い””、”鼻が利く””というやつらとは格が違う。
いわゆる、見えてはいけないものまで見えてしまう系の、ホンマもののやつだ。
嫌いな言い方なので自称はしないのだが、霊能力者と説明すれば話が早い。
その霊能力者の中でも、おそらく能力は相当上の、イタコレベルにある。

迷いながら俺は、着信履歴に残る紫藤の名前をタップした。
電話が繋がればろくなことにはならないだろうとは思ったが、友人だからしかたがない。自分で言うのも何だが、俺は義理堅い男だなのだ。
まあ、なんとかなるだろうと思うしかなかった。

ベルが2回鳴ったところで、紫藤が電話に出た。
能天気な声で、『ああ、ハットリ?!』と言うやいなや、自分の要件を話し始めた。
『実は昨日、捨てられた子猫をみつけちゃってさ……』
紫藤はその子猫を、俺に預けたいと言って、受け渡しの方法を相談してきた。
もう端から、俺がその子猫を引き取ると思っているようだった。しかもその猫は、体調が悪いらしい。

「むり。引き取れるわけないじゃん」
即座に俺は答えた。その理由はこれまで書いてきた通りだ。
考えるまでもないことで、紫藤が話し終わった後、0.1秒もタイムラグはなかったはずだ。

『お前の実家、猫、三匹も飼ってたじゃん。もう一度どう?』
そう言って、紫藤は食い下がってきた。
「猫に家、いためつけられたから、もう二度とごめんだってさ」
これも本当だ。実家ではもう猫は飼わないと心に決めている。
『んじゃ。会社は?』
更にやつは食い下がってきた。俺の会社で猫を飼っていることを知っているからだ。
もちろん、そんなことをするつもりもないし、する義理もない。
『ただでさえ、野良猫が山ほどいて、まだ増えるし。間違ってひき殺したのだって何匹もいるし、会社の向かいは国道だから、何匹もトラックにひかれて死んでるぞ。そこに混ぜる気か?』
そう答えると、しばし紫藤は沈黙した。

沈黙を破ったのは俺の方だった。
「俺は飼えん」
と宣言してやった。「おまえが拾ったんだから、おまえが責任もって飼えばいいじゃん。”運命”ってやつだと俺は思うけど」

俺は”運命”というところを強調しながらやつに宣言をしてやった。
そうなのだ。命との関わりをもつということは、運命なのだ。
そう俺は思っている。運命に引き寄せられて出会ったもの同士ならば、運命に従って自分で決着をつけるしかない。

『とりあえず、相談してくる』
と紫藤は言った。どうやら、先住犬ひなの掛かりつけの獣医師にも相談をしているようだった。
「そうか。獣医さんに聞いたら、また連絡してくれよ」
そう答えた後で、「もしかしたら、病院行っても『安楽死』の可能性もあるだろうけどな」と付け加えた。

別に脅しでもなんでもない。
動物を預かるという事は、命を預かることでもある。
もしもその子猫の体調が、最早引き返せないほどに悪化していたら、自分で看取ってやるしかないのだ。運命とはそういうことだ。

『とにかく、行ってくる』
と、電話の向こうで紫藤は言った。
俺は「わかったよ」とだけ答えた。

もう二言三言付け加えようかと思ったがやめておいた。
これ以上言うと、やつはビビッてしまいかねないと思ったからだ。

俺の第六感は、尚も危険信号を発していた。

 

――ひとつの命を拾うこと(2/10)つづく――

作:ハットリ
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『犬派の僕が猫と暮らす理由』ではこうなります。
本作は、下記の作品と時間軸が同期しています。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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