撮影&文:miyakonokaori
~うちの子がうちにくるまで No.7~
愛猫を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。
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我が家が猫さんをお迎えしたのは、2006年のことです。
ペット可の部屋に引っ越したこともあり、我々はペットを飼うための下見として、近所のペットショップを訪れました。
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当時は、犬を飼う気満々で、あとは犬種をどうするかにまで絞っていました。
私たちの憧れは、パリで見たフレンチブルドッグでしたが、早稲田に住んでいた頃、近所で飼われていた超デブのパグ・康彦ちゃんの愛らしさも忘れられず、フレンチブルドッグかパグか、そう思いながら、「とりあえず」という気持ちで店へ入ったのです。
パグ、いました。
こりゃあもうパグかなーと思って、ショーケースのパグを見ていると、Aちゃんの視線はいちばん上の、真ん中のショーケースに釘付け。
そこにいたのは、小さなぬいぐるみといっしょに眠っていた、ブルーの毛の子猫――
頑張って起きていようとするものの、睡魔には勝てず、コテッとぬいぐるみに頭をのせて眠る天使がいました。
「……かわいい。もうこの子しか見えない……」
Aちゃんが呟きましたが、はじめは冗談だと思っていました。
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というのも、Aちゃんはずっと「猫だけは駄目! ってか、無理!!」と言っていたので。
私は元々、猫を飼いたくて「猫がいい」と言っていたのですが、Aちゃんが猫アレルギーだというし、まあ犬でもいいかと考えて、すっかり犬モードだったので、猫を見ての「かわいい」発言に仰天したのです。
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私 「は!? かわいいけど……猫だよ?」
A 「そうなんだよね、猫なんだよね。でもかわいい……」
私 「かわいいけどさー……ロシアンブルーなんて考えたこともなかったからさー」
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そうなのです。
私はもし猫を飼うなら、エキゾチックショートヘアと決めていたのです。
映画「キャッツ・アンド・ドッグス」に出てくるエキゾの、のんきな手下役・キャリコがあまりにもかわいくて、顔のつぶれた子にしようと。
そもそも私は美形の子には興味がなく、飼うならブサイクと決めていたので、まさに「天使!!」という容貌の、この子を迎えることにピンとこなかったのです。
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そんな私の想いを置き去りにして、Aちゃんは
「ロシアンブルーの女の子か。ふふ…ソーニャ」
と、ぶつぶつショーケースの子に、勝手に名前までつけて話しかけています。
私 「えー、猫でいいんだったらキャリコがいい」
A 「猫がいいんじゃなくて、この子がいいの。ね、ソーニャ。ふふ…」
私 「マジかよ」(ここで天使が、コロリンと寝返りを打つ)
私・A 「!!!!!」←そのかわいさに撃たれた人たち
と、そこへ店員さんがやってきて、抜群のタイミングで「抱っこしてみますかー」。
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Aちゃんが「抱っこしてみて、痒くならなかったら、この子にする」と言いだし、抱っこ。
天使はあーんとあくびをして、Aちゃんの顔を覗きこみました。この顔がまた、悶絶するほどかわいい!!(そのときの写真も撮ったのですが、見つからず……無念。)
「痒くない! この子なら大丈夫!!」
と、Aちゃんが強く言ったのですが、かわいさと勢いにやられてそう思っただけかもしれないし、アレルギーが出てからでは遅いから、とりあえずひと晩考えよう、と、その日は帰宅。
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その夜も「痒くないもん。ソーニャがいいもん…」と呪文のように言うAちゃん。
「トトロいたもん」って言い張る子どもか!と、呆れつつ、まー、元々私は猫の方が良かったし、ロシアンは想定外だったけど、これもご縁だなと「いいよ、じゃああの子で」と、OKしました。
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翌日、Aちゃんがペットショップへ出向き、予約。
ケージやおトイレなど、必要なものを買い、いよいよお迎えとなったその日に事件が起こりました。
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いよいよお迎えに行くとなった日、一本の電話が入りました。
ペットショップからでした。
なんだろう、お迎えするに際して何か必要なものの連絡かなーと思っていたところ、「すみません! 猫ちゃんなんですが、おなかを壊してしまいました」とのこと。
お迎えに行く気満々だった我々ですが、「おなかが治るまでこちらで面倒をみます」とのことでしたので、治るのを待つことに。
そして、一週間後。
ようやく「もうすっかり元気になりました。面会できますよー」と連絡があったので、我々は、いそいそと天使に面会に行きました。
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ペットショップに到着すると、なんとなく店員さんが引きつった笑顔で迎えたような気がしたのですが、
「待っててくださいねー。猫ちゃん、二階にいますので、連れてきますねー」
と言われたので、おとなしく待っていました。
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ギャー!
私 「ん? なんか叫び声、聞こえなかった?」
A 「うん。した」
ギャヴェエエエオーーエーー!!
私 「ちょwww なんか叫び声、どんどん近づいてくるんだけど」
A 「すごいな、まさに『断末魔』っていうかw 一体、どんなすごい怪獣売ってるんだ、ここw」
私 「強烈すぎるwwww なにこれwwwwwwwww」
店 「Aさーん」
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その、店員さんからの呼びかけに振り返った私たちが見たものは、店員さんの腕にしっかりと抱かれている、グレーのちっこい悪魔……
そのちっこい悪魔は、大きな耳をしていて、その耳まで裂けんばかりの口をカッと開き、叫んだではありませんか!
ギャアゥゥォォオオオオオゥェエエーー!!
思わず目がになる私たち。
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私 「ま、まさか……」
A 「いや、まさかねw」
と、顔を合わせて、笑い合った私たちに、店員さんは無情にも言いました。
店 「お待たせしましたー。この子ですーー」
(カッと目を見開き)ギャオゥゥェエエエーーーィィィアアアアオオェーーー!!
私・A 「ギャーーーーーー!!」
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おかしい…
確か、一週間前に見たのは、もっと穏やかな顔をした天使だったはず…
私 「あの、この子でしたっけ」
店 「はいー。この子です」
私 「え、でも確かもっと…」
店 「おなか治ってよかったですぅー」
猫 「ギャウェェェェアアィゥゥウエエー!!」
私・A 「……」
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首をかしげながら帰った我々は、
私 「ほんとにあの猫だっけ?」
A 「いや、あの子だよ。ちょっと緊張していただけで、顔はあの子だった」
私 「ふぅん……まあ、そうだったかな」
A 「きっとお迎えして、しばらくすれば大人しくなるよ」
私 「まあ、そういうものかもねー」
と、無理やり納得させました。
翌日、「もうすっかり大丈夫です」のお墨付きをいただいたので、正式にお迎えに。
この日は私が仕事でいなかったので、Aちゃんがひとりでお迎えに行きました。
道すがら、
「ギェー(誘拐されるー)!」「グォギェーーー(殺されるー)!」
と叫びまくったため、通行人の視線を独り占めしたそうです。
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ようやく家に着いて、ペットショップでいっしょに寝ていたぬいぐるみをいっしょに、ケージの中へ。
私が帰宅したときも、ギェー! シャー! ヴェーーィ!!と、大騒ぎで、もう目なんて吊り上っちゃって、すごかったです。
まさに「ちっこい悪魔」としか形容できない…
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その悪魔を見ながら、我々は話し合いました。
「おかしい……ペットショップで最初に見たときは、間違いなく天使だったのに」
「これってさ、おなか壊したってのは嘘で、実は当初飼うはずだった天使は死んでしまって、かわりにこの悪魔が――」
「うわあああああ! もう言うな! それ以上は言うな!!」
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ギャウゥゥエエエエァァァアアアアーーーー
緊張しまくったせいか、子猫は眠る気配がなく、ケージにバスタオルをかけて暗くしても「ギャー!」。
大丈夫か、これ馴染める日がくるんだろうか……と、悩んでいたのですが、さすがは猫。三日目ぐらいには、すっかりペースを掴んでいました。
名前も正式に「ソーニャ」に決定。
ロシア猫ということで、ロシアの女の子名にしようと、『ワーニャおじさん』『罪と罰』の「ソーニャ」になりました。
そもそも、会った瞬間からAちゃんが「ソーニャ」と呼びかけていたので、あとは「ソーニャ以上にぴったりの名前はないか?」という選択になっていたのですがね。
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ペースを掴んだあとは、
顔つきも穏やかになり、悪魔から天使に
初対面のときも、このぬいぐるみと寝てたんだよね
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最初は、
「絶対、この子はロシアンブルーじゃなくて、そのへんから拾ってきた野良だ」
「間違いない、すり替えられた」
と言っていたのですが、離乳ミルクをぺちぺちと飲む姿を見たり、ちっこいうちからいっちょまえに威嚇する姿を見て、「もうなんでもいいや」と思いました(笑)
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思い出してみると、子猫の頃は、相当な問題児でした(笑)
バッグに入り込むのが好きで、しかも持ち手をガジガジ噛むのですが、それが高いブラント物のバッグ限定で、「なんで知ってるんだ!」と泣かされましたねー。
こうしてソーニャは、うちの子になったのでした。
――ソーニャがうちの子になったのは・おわり――
~うちの子がうちにくるまで No.7~
猫の名前:ソーニャ
猫種:ロシアンブルー
飼主:miyakonokaori
▶miyakonokaori:記事の一覧
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~犬や猫と暮らすあなたへ~
『うちで飼えるかな?』
『きちんと面倒を見られるかな?』
犬や猫を、”はじめて”飼う時、ほとんどの方はこう思ったことでしょう。平均年齢でいえば15年も生きる小さな命を預かるのだから当然ですね。その葛藤を乗り越えて、我々は犬や猫と暮らします。
毎日が楽しいですか?
――きっと楽しいですよね。
だって、犬を飼うこと、猫を飼うことは、喜びに満ちていることだから。
どうか忘れないでほしいのです。その楽しさを手に入れる前に、我々はものすごく大きな決心をしたのだということを。
そして、どうか自信を持ってほしいのです。
その決心が、ずっと我々を支え続けてくれるのだと。
いつか、その子を送るときが来たとしても。
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――うちの子がうちにくるまで、次話――
猫-8|ほっぷ
ずっと犬派でした。
大好きだった母子の犬を亡くし、もう犬は飼えないと思っていました。
「ねえ、ネコいらない?」
同僚の一言。
――猫も良いかな。
「ちいさくて、ふわふわ!」
こうして、ヤンチャな『ほっぷ』がうちに来ました。
――うちの子がうちにくるまで、前話――
猫-6|チェリー
ノルウェージャンのチェリーは、ちょっと変わった猫でした。
異食癖をもっていたのです。
危険だったので仕方なくケージ生活に。
しかし、本人はそれを楽しんだのかもしれません。
さてチェリーはどうやって、うちの子になったのか。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話――
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――出典――
※本記事は著作者の許可を得て、下記のブログを元に再構成されたものです。