「その日」がくるまで生きようず!
文:miyakonokaori (本記事は2014年に執筆されたものです)
朝方、雑音の混ざる呼吸をしている猫さんを、このまま看取るか病院へ連れて行くか迷いましたが、I先生に電話をした瞬間、いろんな想いがこみ上げてきて、泣きながら言いました。
「腸閉塞になっていると思います。手がないのは分かっていますが、せめて気持ち悪いのだけでもとって、苦しみを少なくしてあげたいです」
そう言ううちに、自分の中で答えは出ました。
病院で何があってもいいから連れていく、と――
●
ピンクのかわいいバンドも取り替えたいの
吐いちゃって汚れてしまったからね……
あと、手先まで巻いてもらったら、動きづらくなっちゃったしね。
それもあって眠れずにいたかもしれないもんね。
●
連れていく前、まだ眠ったばかりだったAちゃんに、「何があるかわからないから会っておいた方がいいよ」と、泣き腫らした土偶の目で私が言うと、「ん」と起きだし、ヒーター前でぐったりしている猫さんを撫でたり話したりしていました。
その間に、私は別室で準備をし、もうそろそろ行こうかなと、部屋へ戻ると、
Aちゃんが着替えを済ませていて「いっしょに病院行く」と言いました。
●
私がちらと安楽死の話をしたので、「こりゃいかん!」と思ったのかもしれないです。
いや……たとえ楽にしてあげられる最善のことだとしても、ポケットに入るぐらいのちっちゃな頃から育てた子の命を、自分の意志で止めることは、弱い私にはできるはずがないんですが、こんだけ長いつきあいでもやっぱりわからんかー。
ま、いいや、ひとりで行くよりは当然、いっしょに来てくれた方が心強いし。
●
タクシーでワンメーターのいつもの病院へ到着すると、すぐに看護師さんが猫さんを酸素室へ入れてくれました。
数分後、私たちの番が来て、I先生とこれからの猫さんの治療方針について、話し合いました。
●
この状態だと閉塞があるのは間違いない。
そうなると、これからできることにはかなり限りがある――
それはネットでの情報などで、覚悟はしていたことです。
もう外科手術は不可能なので、残された時間をどうやって過ごさせてあげるか。
「閉塞しているので、ごはんもお水も摂れないですよね? 点滴だけでどれぐらい生きられるものなんですか」
そう訊いてみると、I先生は言葉を選びながらも「一週間」と言いました。
でも私の感覚的には、そんなにもたないだろうと思いました。
あと、気持ち悪いのを止めてあげるには、なんとかして腸管を動かすしかないということも。
●
閉塞の原因が腫瘍ならば、それを小さくできるのは――抗がん剤しかありません。
先生は「飲み薬は今の状態では吸収しないので、弱いもので注射で入れるもの……
レスキューで使ったL-アスパラギナーゼを打って、効果に期待するという選択もあります」と、言いました。
●
ただ、今の猫さんに、いくら弱いものとはいえ「抗がん剤」を打つことのリスクとして、これまでほとんどノー副作用できていた頃の猫さんとは違いますから、死を早める可能性が――
もしかしたら効果が出る以上に高いかもしれないというのもあります。
でも、これをやらずに、腫瘍が小さくなることは絶対にないのです。
だけど、深夜から朝にかけて、何度も吐いた猫さんのことを考えると――
●
「もし、僕の猫だったら……やると思います」
私たちの迷いを感じ取ったのか、I先生が小さく言いました。
それから、「すぐに決められないことだと思います。おふたりでご相談してください」と、酸素室のある部屋へ、私たちを連れて行ってくれました。
●
呼吸が楽になってるYo
こういう姿を見ると、連れて来てよかったと思えます。
●
酸素室で点滴を入れてもらっている猫さんを見ながら、すごくすごく考えました。
そして、最後には「やろう」と決めました。
●
「やります」と伝えたので、I先生が猫さんの血液検査をしました。
実はこれがいちばん嫌だったんですよね…。
昨日は血液検査をしようとして、猫さんが酸欠になったので。
がしかし、さすがは慣れたI先生。
酸素室の中でさっさと終えてくれたわけですが、その血液の結果が、意外なもので――
●
昨日の輸血ではほとんど貧血は改善できませんでした。
PCV14%、赤血球も282などと、標準値よりはるかに低いところにあります。
やはり内臓の出血があるのでしょう。
せっかく体力をふりしぼって輸血したのに…残念です。
●
それに対し、白血球のほうは数は少ないながらも、抗がん剤に耐えうる数値でした。
が、腫瘍が大きくなると増えていたリンパ球の数が、むしろ減っていたのです。
閉塞の原因が腫瘍ではない可能性が出たため、抗がん剤はひとまずペンディング。
猫さんの体力が大丈夫になった頃をみて、腹部超音波検査をすることになりました。
●
結局、猫さんの体力が戻ったのが夕方だったのか、I先生からの電話連絡は17時すぎにありました。
「腫瘍ですが、大きくなっていませんでした。なので今回の抗がん剤投与は中止します」
……そうか。
これは喜んでいいのか、よくないのかわかりません。
●
腫瘍だった場合には「抗がん剤」という、ハッキリした治療法があるわけですが、原因が確定しない閉塞は、治療法も確定しないからです。
望みがあるのか、ないのかもわかりません。
とにかく猫さん、腫瘍ではない何らかの要素で、腸管が動きを止めてしまい、閉塞状態になってしまったのです。
と
はいえ、腫瘍である可能性も捨てきれないわけですが……
●
これからの対処としては、ステロイドを強くし、胃腸を動かす薬も強いものに、そして溜まってしまう水は今のところどうにもできないので、吐き気止めを注射して、「吐きそう」「気持ち悪い」という感覚だけでも緩和してあげることに。
ちなみに、吐き気止めを打っても、「吐く」という行為は、物理的に止められないので、吐けずに苦しむということはないのだそうです。
●
そして脱水がひどく進んでしまっているので、半日かけて、静脈点滴を毎日。
I先生は自宅で皮下補液することを提案してくださいましたが、量を入れすぎると貧血が進んでしまうし、少ないのもまずい、その繊細な配分が、素人にできるとは思えず、確実な静脈点滴をお願いしました。
そして半日入院のときはVIPの証、酸素室。←ほんまかいな!
到着からお帰りまで、入っていていただきます。
●
そんなこんなで、本日のお会計は、
毎日……、ふぅ……
もう人間どもの先の事は考えてないです。
●
あと、コメントでアドバイスいただきまして、酸素室をレンタルしました。
ケージを買っても、あとが悲しいなと思ったので、フルレンタルできるテルコムさんというところにお願いしました。
サイズはSとMの両方、見せていただき、Sにしました。
Sでも意外と大きく、ベッドも入りました。
念のため、酸素の計時器もお借りしました。
●
家でもVIP
●
帰宅してぐったりの猫さんを入れて、しばらくしたら立ち上がったので開けると、そのままおトイレへ行き、おしっこをしました。
そしてそのあとは、一直線に(よろよろとですが)いつもの定位置・ふかふかマットへ。
●
おかーさんの近くがいい
ヒーターの近く…ですよね?
●
長い管もお借りできたので、どこにいても高濃度の酸素を吸えます。
もちろん酸素室にいるのがいちばんたっぷり吸えるのですが、猫さんがいつも通り過ごせることが大事なので、これは呼吸が厳しいぞとなったとき以外は、自由にさせようと思います。
と言いつつ、酸素の管を手にあーでもないこーでもない、と格闘していますが。
●
ちなみに23時現在、猫さん、やはり苦しそうな声・雑音まじりの呼吸をしています。
寝ながら、というか、朦朧としながら、ふかふかマットの中で少し吐きました。
静脈点滴用の管が入った右腕のバンドは、先生が寝やすくなるように巻きなおしてくれたので、それもあってか、姿勢が随分楽そうです。
あ、今、これ眠ってるな。よかった…昨日は猫さん、一睡もできなかったから…。
●
病院、行ってよかったです。
状況に大きな変化はないですが、猫さんが少しでも楽になれるなら、それがいちばんです。
この状態なら、明日が今日になる瞬間を、迎えられる気がします。
朝が来るのがこんなにも嬉しい日々、これからも続けばいいなと心から願っています。
――【リンパ腫】緩和(4/14)・つづく――
文:miyakonokaori
――次話――
その日がくるまで生きようず!101話
「今日という日を迎えることができ、うれしいです」
――我が家のピーチーも3年前はこうでした。
2年違いで、同じように闘っていたのですね。
その日1日だけを見て飼い主は過ごします。
先のことなど考えないで――
「さあ、病院に行こうか」
――前話――
その日がくるまで生きようず!99話
「3月8日の空だよ」
しかし猫さん、もう窓を見る気力がありません。
病院に行こうか?
どうしてあげたらいい、猫さん?
正直に言うと「絶対に看取りたい」という気持ちはない。
病院で逝くのも、家で逝くのも、猫さんの運命だと思うから。
●
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
●
――この章の1話目です――
――この連載の1話目です――
――おすすめの記事です――
――出典――
※本記事は著作者の許可を得て、下記のブログを元に再構成されたものです。