私の空、マナ!撮影&文:あおい空
ひとり暮らしを初めてから、ネコを飼うまでの間、私とご近所さんの関係は良好でした。テレビがなかった時のこと、前に書きましたね。
その当時聞こえる音と言えば、ベランダ越しの家の2階の窓で、おじさんがパタパタと何かを叩く音と、お隣のベランダに置かれた洗濯機が回る音だけ。
話し相手もなく、生活音のしない我が家。
私にとって、その2つの音は、とても有難いものでした。
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まず私は、その何かを叩くおじさんのことを、”パタパタおじさん”と呼ぶようになりました。ある日、洗濯物を干しにベランダに出ると、窓を開けたおじさんの姿が見えました。
「こんにちは!」と挨拶をしました。
「あんた誰やったけ? わしの知っとる人やったけ?」
強面のおじさんにそう言わて、私は何と返事をしようかと焦りました。
「ここに住んでいる人です。宜しくお願いします」
かろうじてそう答えると、パタパタおじさんは窓をガラリと閉めてしまいました。
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あ~こわかった!
でも私は知っています。一見強面の愛想の悪いおじさんのタイプは、誰よりも優しい心の持ち主が多いと言うことを。
実は私、このタイプのおじさんは、以前に他の場所でも会ったことがあるのです。
そちらのお話しは、本話の最後の余談の部分に書きますね。
とても不思議なお話しなんです。
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マナと暮らし始めた翌日、いくらネコ同居型アパートになったとはいえ、お隣りさんにはお話ししておかなければと思いました。翌日というと土曜日ですよね。玄関を開けて外に出たとき、ちょうどお隣の人と顔を合わせました。
「あの、ネコが3日3晩鳴いていたのを知っていますか?実は拾ったんです」
と私は言いました。お隣の人はあまりネコが好きではないことが、はっきりとわかる返事が返ってきました。「昼はお勤めですよね、置いていくんですか?誰か飼ってくれる人はいないのですか?」
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うーん、難しい質問です!
「そうですよね、昼は仕事がありますし」と私は言いました。
すると「私も誰か飼ってくれる人がいないか一応あたってみます」とお隣さん。
ショック~!
あまり賛成とか好意的ではないお返事です。
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ただ誤解しないでくださいね。この隣人さんは本当はとても優しいのですが、職業柄責任感が強い人なのです。
以前、アパートの壁のコンクリートの隙間にスズメバチではありませんが、蜂が巣を作りました。私がお隣さんに言うと、お隣さんは「ここ小学生とか子供が通るんですよね、それが心配だな」と蜂を見ながら言いました。
子供のことを先ず第一に考えるなんて、すごいと思いました。人となりがお分かりいただけますでしょうか?
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今回のネコの事も、きっと理性で判断して、ネコのことを考えてあんな風に言ってくれたのでしょう。その時点では私自身も飼えるかどうか不安でしたし、名前も付けていないくらいでしたから、「では、お願いします」と答えるしかありませんでした。
それから数日後、劇的な変化がパタパタおじさんと隣人さんに起こります。
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自分で言うのも何ですが、私とマナはとにかく家では静かです。
でも隣人さんにお会いした時には礼儀として、「いつもうるさいのではありませんか?すみません」とご挨拶をします。
返ってきた答えは「ああ、全然全然、大丈夫です」でした。
やったね!
私は静かな暮らしをしている自分とマナを、誇りに思います。
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次はパタパタおじさんです。
愛想の悪いおじさんは、挨拶をしてもいつも知らんぷりでした。でもベランダに出ると、顔を合わせるのですから、こちらから知らん顔はできません。返事が返ってこなくても「こんにちは」だけは言っていました。
ところが、ところがです!
その日は、ベランダに出たときに私の横にマナがきたのです。マナは恐くてすぐに部屋に入っていきました。
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その時でした。「ネコちゃん、まだ小さいな。名前は何て言うんだ?」とパタパタおじさんから話しかけてきたのです。おじさんの顔は、まるで鬼から天使に変わったほどの表情の違いでした。
やはり思ったとおりでした。このおじさんは心が優しいのです。それからは、会うたびに「ネコ元気か?」と聞いてくれるようになりました。
こんな風にマナと私の同居生活は、優しいご近所さんの理解のもとスタートをきったのでした。そんな風にできたのも、マナが本当にお利口さんだからだよね。
――ありがとうマナ。
さて、ここからは余談です。私が知っている、もうひとりの強面のおじさんのお話しをします。
その人は私の故郷、田舎の自然いっぱいの村で、いつも竹の棒を片手に持っていました。挨拶をするのも恐いくらい。愛想が悪くて近寄り難いなと思っていました。
ある日、おじさんの家の車庫にネコがいました。村に捨てにきた人でもいたのかもしれません。シャムネコのミックスのような顔と体がものすごく小さな子ネコです。死んじゃうかもと思うくらいの状態でした。
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その子は、おじさんの家の前でウロウロしていたようです。
そこには車も通ります。おじさんは見るに見かねて、自分の家の車庫の隅にネコの場所を作り餌もあげていました。
一見取っ付きにくい強面のおじさんの心は、誰よりも憐れみと真の優しさが詰まっているんだと私は思いました。
パタパタおじさんを見た時から、何となく村のおじさんと重なって見えたんです。
だから、ずっと恐々でも挨拶ができたのです。そして、やはり思ったとおり優しい人でした。
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田舎の村での不思議なお話しは、ここからです。
丁度私は休みで、天気の良い日はネコが気になって、しょっちゅう車庫に見に行っていました。
ある日私が近づいたときのこと。
ネコが「もにょもにょもにょもにょ」とし始めました。
「ニャー」と鳴くのではなく、「もにょもにょもにょもにょ」
そのネコは語り始めたのです。
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延延とネコは私に語り続けました。これまであったことを全部、話しているようでした。とにかく長くて、ネコの話は終わりません。
私はその間「そうなのそうなの」と、相槌を打ち続けました。
30分以上そうしていたでしょうか?
まだまだその話は続きそうでした。私は仕方なく、「また聞くからね、またね」と言わなければなりませんでした。
私がいなくならなければ、きっと話し終わらなかったと思います。
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後日ですが、そのお家の奥さまに会った時に、「このネコさん、ずっと鳴いているというか話していませんか?」と訊きました。
でもそのご返事は――
全然聞いたことないとの事でした。
私にだけ話してくれたんだね。
『人生を語るネコ』との不思議な出会い。
今でも忘れられません。
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これが『人生を語るネコ』
おじさんから、先代猫の名前をもらい、
トモコになりました。
――二人の出会いは突然に(7/10)つづく――
作:あおい空
▶あおい空:記事のご紹介
構成:高栖匡躬、樫村慧
――次話――
――前話――
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この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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