「その日」がくるまで生きようず!
あとがきにかえて

半年に及ぶ闘病の記録、ならびに後日譚をお読みいただきありがとうございました。
おそらく読んでくださった方のほとんどはペットを飼っている、あるいは飼っていた方だと思います。すぐそばにいるちいさな存在を、より一層愛おしく感じて頂けるきっかけのひとつになったなら嬉しいですし、天国のソーニャも報われることでしょう。
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ペットを飼っている方の中には、今まさにペットの病と闘っている最中であるという方もいらっしゃいますよね?
きっと「無理しないで。あなたが倒れてしまったら大変だから」等のいたわりの言葉を何度もかけられていることと思います。
ですが闘病を終えたいち飼い主である私が言いたいことは、まったく違います。
むしろ「無理をしたいときはしなさい。それで倒れるならば倒れても良いから」と伝えたいのです。
私はソーニャの闘病中、かなり締め切りがタイトな執筆作業を抱えていましたので、時に様々な無理をしました。体調を崩してこちらも病院のお世話になったこともありました。ですが「ソーニャのために使う時間」は限られていることがわかっている以上、無理をするしかありませんでしたし、その無理はむしろ幸せな時間でした。
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そんなものは飼い主の自己満足だと思われるかもしれません。
でもその自己満足が結局「やれることはやりきった」という気持ちに繋がり、かわいいあの子を後悔なくお空へお返しすることができましたから、私は「無理をしない」ことを「しなくて良かった」と今でも思っています。
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飼い主が「やりきった」と思えるまで頑張って生きて、そして『そのとき』にかける言葉が「よく頑張ったね」「ありがとう」「大好きだよ」だけになるほど強く生き延びてくれたソーニャ。
ソーニャが私にくれた最後の贈り物。それは「遺された者に後悔をさせない『その日』」でした。
ソーニャは闘病中も旅立った後もいろんなことを教えてくれました。
あの子が天使になって5年が経ちますが、今でもソーニャに気づかされることがたくさんあります。
ちょうど今日もそんなことがありました。
春になったのでキッチンマットを新調しました。それは猫のイラストの入ったものでした。たまたまかわいいなと気に入って買ったものですが、「そういえば」とあらためて家の中を見回すと猫グッズ・猫柄の多いこと多いこと。
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ソーニャがうちに来る前はどちらかといえばシンプルなものを好んでいましたので、13年後にまさかこんな猫だらけの部屋になるなんてと思わず笑ってしまいました。
「こんなにも猫という存在を愛おしいと思わせてくれたのはソーニャのおかげだね」
お空にいるソーニャにそう言うと微かにあたたかな風を感じました。目が合うと飛びついて抱っこをせがみ、私の頬に顔を近づけてフンフンと鼻息をかけていた愉快なあの子を思い出し、「ああ伝わったんだな」と思いました。
こんなふうにソーニャの存在を感じられるのは幸せですし、その幸せがあるのは今も私のそばに猫たち(テオ、ソフィー)がいるからだと思います。
愛するペットを亡くした方の中には「もう次の子は迎えない」と決めている方も大勢いらっしゃると思います。
その気持ちは私にも理解できます。あの子に申し訳ない、もうあんな悲しい想いはしたくない、私もそう考えましたから。
ですがこうしている間にもたくさんの命が生まれています。
そのすべての子が愛されるわけではありません。疎まれたり、中には生きることを許されない子も出てくるでしょう。
ならばそんな子を一匹でも減らそうじゃありませんか。
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厳しい自然から守ってあげられる家、愛情いっぱいに撫でる手、「大好きだよ」と抱きしめられる腕、いっしょにお散歩できる足、優しく見つめる瞳――そのいずれかがあるのならあなたはちいさな命を幸せにする権利を持っているということです。
そしてその素晴らしい権利を、あなたはお空にいるあの子に存分に使ってきたのではないでしょうか。
あの子に与えてきた愛情を注いでいっしょに暮している間は世界一幸せな子にしてみせよう! そんな気持ちになったタイミングで思い切って迎えてほしいと思います。
それは運命と呼べる出会いになるはずです。
振り返ればソーニャと過ごせた私たちは世界一幸せな飼い主でした。無条件にたくさん愛させてくれるかわいい子でしたから。ソーニャは若くして不治の病でこの世を去りましたが、それでもいっしょにいた7年超はとても濃密で充実した時間を過ごせていたのではないかと思います。
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ソーニャ、あなたは世界一幸せな子でしたね。飼い主はそう思っていていいですか?
今いるテオとソフィーをあなたのように世界一幸せな子にしてみせますから、どうか見ていてね。
あ、何かあったら助けてね。頼りにしてますよ、神様のお気に入りの天使猫さん。
この世に一匹でも多くの「世界一幸せな子」が存在しますように……。
心からそう願っています。
波多野 都
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瞳の中に映る作者と共に
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――あとがきにかえて――
文:miyakonokaori(波多野 都)
▶miyakonokaori:記事の一覧
――本作の履歴――
――前話――
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-天使の章・それからの章(2/2)
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この連載の1話目です――
ペットとの別れを経験された方へ