私の空、マナ 13話

前回は脇道にそれて、親しくなったサラリーマンご夫婦のお話をしました。
今回も前半は、脇道のお話をさせてください。
私にとってとても大切なこと。マナの乳歯のについてのお話です。
●
それまでのマナと私はというと――
ひとり暮らしのさみしい生活の中に、神様が空から授けてくださったのが、マナという体重400グラム、月齢1か月半の小さな可愛い贈り物。
それからは飼い主の私も、飼われるマナもお互い必死の毎日でした。
毎日わからないことだらけ、手探りで歩む日々、でもそれは本当に喜びの日々であったとも言えます。
●
掃除機がないため、ホウキで掃いてクイックルワイパー、休日は雑巾で拭き掃除です。すると早速「見~つけた♪」と、マナの白くキラキラ光る爪を発見しました。
これを探すのが、いつもの私の癖(?)みたいなものなのです。
後でわかったことですが、ネコさんが爪を研ぐときに、それが落ちてしまうのは珍しくないことのようです。しかしその爪は、私には貴重なものでした。
キラリと光るマナの爪は、私の目にはシンデレラのガラスの靴に見えました。私はそれを見つけると、大切に箱に入れます。
人間の子供ならば、親は子供の描いた絵を大切に取っておくでしょう?
そんな感じです。
●
もし、マナの爪とダイヤモンドが並んで落ちていたら、私はマナの爪を迷わず拾うことでしょう。それもまた、私の悪い才能(?)ですね、きっと。
ツイッターの大切なお友達が以前に、「両方ほしいね」と冗談で言って下さったことを覚えているのですが、その時も「いえ、私は絶対マナの爪を選ぶ」と確信していました。
●
どちらかしか選べないことって、世の中には多いですよね。選ぶ=決断、そして約束です。多分誰も信じてくれないでしょうが、マナと私は約束をしているんです。
『この世界で、一番大切なものはマナ』と。
だから、床にダイヤモンドとマナの爪が落ちている光景を、いくら思い浮かべてみても、拾うのは必ずマナの爪の方なのです。
そんなある日、また何か床に落ちていました。
「うん?これなんだ?」
と思って拾うと、何と!
マナの乳歯です!
●
実はその2ヶ月前くらいにネットで読んだネコの参考書に、ネコの歯も人間と同じように生えかわることを初めて知りました。そこにはネコが飲み込んでしまうことや、人が気がつかない場合も多いと書いてありました。
私はマナの乳歯を拾えたらいいなと、ずっと思っていたのですが、2回目のワクチン接種の際に、医師がマナの歯を見て「全部永久歯になってるな」と呟いたのを聞いてしまいました。だからもう手に入れられないと、諦めていたのです。
●
それなのに、それなのにです!
永久歯になったと言われたのに、乳歯を拾えた!
私はとてもうれしくて、歯ブラシと爪楊枝をつかってそれを綺麗に洗うと、箱の中にしまいました。結局その時は2個拾うことができました。1個だけも大満足なのに、嬉しすぎです。
●
それから3日後の休日ことです。
マナの寝ている座布団に何やら落ちています。拾い上げてみると、今抜けたという感じの乳歯です。マナはこれでもかというほど、私にプレゼントをくれたように思えました。本当にうれしかった。
●
最初の歯を拾う前のこと。いつもマナが甘噛みする私の手が、いつもになく臭いなと思う期間があったのですが、後で調べてみたら、歯の生えかわりの時期はよだれが匂うこともあるのだそうです。
「納得~」という感じでした。
ええっと、ここでやっと脇道はおしまいです。
話を元に戻します。どこに戻るかと言うと2話前のお話。私が動物病院にいく時に、なぜか胸騒ぎがしてしまうというところまで。
2週間前に2回目のワクチン接種も終わり、こんどは避妊手術です。
まずは検査のために、動物病院へ行かなければなりません。私はその日、キャリーバッグに入れたマナを担ぐと、雪道を歩き出しました。あの胸騒ぎは続いていました。
●
私のカバンの中には、箱に入れたマナの乳歯が入っていました。医師に見せようと思ってです。前回医師が、マナの歯が全て永久歯に生えかわったと言ったことを、咎めようというつもりはありません。動物の診察はまだまだ人間がわからないことがたくさんあります。とくに小動物はそうですよね。
私はただ、マナの歯を見せて自慢したかったのです。
●
歩きにくい雪道を、いつもよりも長い時間をかけて、私とマナは動物病院に到着しました。
「寒かったね、マナ」
扉の先は暖かでした。いつもと同じ待合室。
でも実はこの後、あの胸騒ぎの正体が分かります。避妊手術の検査の結果は、マナと私にとって、雷のような衝撃をもたらすことになるのです。
しかしそれはこの次のお話で――
今はまだ、そのことは知らずに、待合室の椅子に静かに座る私とマナでした。
――二人に舞い降りたものは何?(3/10)つづく――
作:あおい空
▶あおい空:記事のご紹介
構成:高栖匡躬、樫村慧
――次話――
次回は、衝撃の展開。あの予感の正体がわかります。
――前話――
●
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
●
――この章の1話目です――
――この連載の1話目です――
――おすすめの記事です――
作者の執筆記事です