猫の話をしようか

Withcat 猫と飼い主の絆について

【猫と飼い主】それはとても簡単なこと ~二人の未来を紡いでいこう(8/9)~

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私の空、マナ 29話
私の空、マナ_扉

撮影&文|あおい空
 

さて、この連載もあとわずかとなりました。今回は、残されている課題の最も大きなもの、避妊手術のお話に進もうと思います。このお話は、動物病院が関係してくるので、今一度、マナの通院の経過を振り返ります。

マナが動物病院へ行ったのは以下の5回です。

1回目   9月  8日| 拾った日
2回目 12月  9日|健康診断とワクチン接種が2回目
3回目   1月  6日|ワクチン接種が3回目
4回目   1月20日|避妊手術のための検査が4回目
5回目   8月25日|FIV再検査が5回目

前回のお話は、8月25日の出来事。そして本話はその続きです。

この日、マナは最後の望みを賭けたFIV再検査で、陽性反応が出てしまったのでした。
しかし私は、最初の時にように錯乱することはありませんでした。

 

検査結果を聞いてからの、家への帰り道――

私はあの藪――マナが最初の病院の日に飛び込んだ藪です――の横を通り過ぎました。当然ながら、私の脳裏には、またあの日のできごとが思い出されました。
――あの日私は神さまから、「本当に飼えるのか?」と試されたのです。

前にも書きましたが、もうあの藪は、私にとって嫌な予感のする場所ではなくなっていました。病院に向かうときの私は、平常心でした。

そしてこの帰り道。藪に目をやりながら、私は自然に笑顔になりまました。そして肩に下げたキャリーバックの重みを、増々誇らしく感じました。

何故か?

それは、私がマナを愛してること、そして幸せだという事を実感したからです。
簡単なことだったのです。初めからわかっていたことでした。
だけど、この時になってようやく、胸に落ちたのですね。

この瞬間から、私の心を支配していたマナの病気が、正確に言えばマナの病気への心配が、すうっと薄らいでいきました。

そのことが分かるお話をしておきましょう。
この日、動物病院ではFIVのほかに、もう一つ検査がありました。

採血が無事終わり、女医先生から結果を聞いていた時です。診察台にじっと座っているマナを見て、耳の内側の先に少し黒っぽいかさぶたのようなものがある事に気がつきました。まだ小さなマナは家ではじっとしていることが少なくて見逃していました。

女医先生に「これ何でしょうか?今気がついたのですが」と言うと、診てくださり「カビかもしれませんね」と仰いました。「調べてみますか?」とピンセットでかさぶたを少し取り、続けてこう言いました。「もし真菌だと人にも伝染りますので、培養検査をします」1週間後に検査結果が出るので、連絡しますとのことでした。

見逃すほどのかさぶたでしたが、かび・真菌というのは困ります。掃除をして清潔にしているつもりでしたが、なにしろ湿気の多い地域ですから、考えられることです。

 

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結局検査の結果が出るまでに、10日を要しました。
動物病院から電話があり、培養検査の結果は疑陽性とのこと。
「様子をみましょう」と女医さんが言いました。

ほっとした私。そして同時に気が付きました。
この時、私の心配は既に、マナのFIVではなくて、マナの皮膚に変わっていたことに。

どういうことか、分かるでしょうか?
FIVはどんなに考えても、私には解決のしようがないことなのです。
ならばそのFIVを、個性として認めてしまおうと思ったのです。

諦めてしまったとか、達観したのとはちょっと違います。
マナと生きると同時に、マナのFIVと共に生きようと思い始めていました。

マナと私の初めての夏は、このように過ぎていったのでした。

 

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秋になった10月11日(木)の事です。

布団を敷いた時のことでした。なんとシーツに血が付いてたのです。
乾いた血ではないため、驚きました。もしかするとマナ? と――

どこから血が出ているのか抱っこをして見てみると、右の前足の爪の部分が折れていました。どこかに引っ掛かって折れたのでしょう。ティシュでそっと押さえると、血は止まりました。

翌日は金曜日だったので、土曜日に動物病院に行くことに――

その金曜日、仕事帰りのことです。よく一緒になるバス友さんで、”我が輩さん”と私が呼んでいる方と、同じバスに乗り合わせました。なぜ”我が輩さん”かというと、この方は自分のことを『我が輩』呼ぶのです。

マナの足の爪が折れて血が出た話しをして、「土曜日に病院に行こうと思っている」と伝えると、「それは早く病院に行った方がいいと思うよ、我が輩は」という返事が戻ってきました。
しかし閉院時間はもうすぐだし、歩いて行くと間に合いそうにありません。
「○○タクシーなら近くだから、すぐ来るよ」と我が輩さん。
時計を見ると、すぐにタクシーが来てくれれば間に合いそうです。

「そうだよね、やっぱり早いほうがいいよね」
私はアパートに着くと、直ぐに我が輩さんに教えてもらったタクシー会社に電話をかけ、キャリーバックを押し入れから出しました。実はこのキャリーバックは動物病院に行くたびに、拭いて畳んでかたづけてあるのです。

私はマナをバッグに入れると、玄関前で待つタクシーに乗り込みました。
「すごく近くて申し訳ないのですが、○○病院までお願いします」
私は時計を睨みながら、運転手さんに言いました。

家に着いたのが18時10分で、病院に受付したのは18時30分。
閉院時間の19時に間に合いました。

 

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平日の閉院前ということもあり、直ぐに診察室に通されました。

診て下さったのは院長先生です。前回のFIV再検査の時は女医先生で、院長先生は途中チラリと覗いただけでしたから、電話を除けば1月の避妊手術前の血液検査の時以来となります。

看護師さんにがマナをキャリーバックから出そうとすると、マナは少し失禁してしまいました。

そうそう、マナの失禁については、少しお話ししておかなければなりません。

マナがまだ小さな頃、私がマナを抱いて、アパートの前の自販機までジュースを買いに行った時のことです。マナは何に驚いたのか、パニックになって私の手から飛び降りると、前のお宅の玄関前の空きスペースで、グルグル回り始めました。

必死で抱き上げる新米同居人の心臓は、もうバクバクです。
マナを抱き上げ玄関を入ると、私の洋服が濡れていました。小さな頃だったので臭いはしなかったのですが、失禁だと気がつきました。それ以来抱っこをして外に出るのは無理だということがわかりました。

そんな事があったので、私はマナが病院で失禁をしても、さほど驚きませんでした。
多分院長先生には、マナが警戒心が強い猫だということは伝わったでしょう。

前足の爪が折れていることを話すと、先生は抗生剤の注射を背中に打ちました。そして「飲み薬を出しておきます」とのこと。

丁度良い機会だと思ったので、私は「あの、避妊手術の事なのですが…」と、自分から切り出しました。

すると院長先生からは、思わぬ言葉が!
何と「麻酔がね…」とぼそり。

寡黙な医師からの一言に、私は「だから?」と訊き返したくなりました。
この言葉ぶりはどう取っても、避妊手術を勧めるどころか、危険だからやめようと言う感じです。

前回は「避妊手術をするかしないかは飼い主さんの決定だけれど、した方が良い」と言っていたはず。その医師から出た言葉が「麻酔がね…」です。
手術を渋る私と手術を勧める医師が、まるで鏡に映ったように真逆になった瞬間でした。

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実はこの院長先生には、もう1つお話したいエピソードがあります。
私はそれを思い出すたびに、猫について様々なことを考えるのですが、長くなるので次話にそれは譲ろうと思います。

不思議の国のアリスならぬ、ふしぎ鏡の国のマナです!

 

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最後に、夏の暑さのことに少し触れておきます。

日当たりはそんなに良い方ではなく、風の通り道のような感謝すべきオンボロアパートですが、さすがに夏の暑さ対策はどうしようかと考えていました。

アパートに元々付いていたエアコンがありました。入居してすぐにつけてみると、室外機のファンが回りません。不動産屋さんに電話すると、業者の方が見に来て下さいました。古い型なので全部取り替えが必要かもという事でしたが、その後しばらくして、何とか部品があった言って、室外機を修理して下さいました。

運転ボタンを押すと正常に動くことになったのですが、出てくる空気の臭いこと臭いこと!フィルターをもう一度掃除しても直りません。こんな臭いの絶対使えないと、その年は扇風機だけで乗り切りました。

しかし!マナの初めての夏はそうもいきません。一日中家で留守番をするマナを、熱中症にさせるわけにはいかないからです。

恐る恐る私は、エアコンのスイッチを入れました。あの酷い匂いから、実に4年もの間実に4年も封印していた禁断の箱です。

モーター音が聞こえ始め、身構えて、思わず息を止めてしまう私――
「アレッ?!」
あれだけ臭かったはずの風が、全く臭いません。
何にもしていないのに――

おかげでマナの初めての夏は、無事に乗り越えることができました。

天からの贈り物マナが、同居人にくれる贈り物は不思議の世界!
次は何?教えてマナ

 

――二人の未来を紡いでいこう(8/9)つづく――

作:あおい空
 ▶あおい空:記事のご紹介
構成:高栖匡躬、樫村慧

――次話――

いよいよ最終回
マナの病気を知って私は変わり、それと共に私の周囲が変わり始めました。
今、私は『猫の幸せ』を考えます。
それは私にとって、『マナの幸せ』と同じものなのです。

――前話――

マナが猫エイズに感染していることを知ってから、迷いと不安でいっぱい。
病気の表記を見るたびに、マナが責められているように感じて。
「こんな小さな命に、一体何の罪があるの?」
しかし、そんな私の考えは次第に変わっていきました。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――この章の1話目です――

マナがもう外にいかないように、わたしは窓の網戸を締めました。
「危ないよマナ、車来るよ」
網戸越しに外を見るマナに、囁き続けた1カ月。
マナは何かが変わったようでした。

――この連載の1話目です――

初めての一人暮らしで選んだのは、長屋風の安い物件でした。
テレビも洗濯機もなく、私のボンビー生活がスタートしたのです、
気づけばそこは、不思議なアパート。愛すべき隣人たち。
でも、2年が過ぎた頃にはもう――
私の淋しさは限界でした。

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