猫宅・44の物語 17話
今回のお話は:鈴(りん)との出会いと、ムーとの別れ
いろはを保護してからの猫宅は、雄同士シャーシャーはあっても、これと言った大きな変化はなく、同じような毎日が過ぎて行きました。
そんなある日のことでした。
また私は、出会ってしまったのです。新しい命に。
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その頃私の実母は、入退院を繰り返していました。
何度目かの入退院の時、見舞いに行った帰りのことです。
一緒にいた実妹が、急に呟きました。
「ねーちゃん、この前来た時この辺に子猫が居た」
『なんでその話を私にするかな』というのは、心の中の私の声。
だって、前話でやさいを保護した時に、『この子が最後』『もう、増やさない』と誓ったばかり。(それから更に、いろはが増えています)
「もう居ないかもしれない」
と、妹が指し示した先には側溝があって、総菜の入っていたらしいプラ容器が1つ。
更にその辺りを探すと、白い子猫がちょこちょこと逃げ隠れをしている姿が見えました。生後2ヶ月位の子猫です。
しかし、捕獲に使えそうなものを何も持っていません。
「車にショッピングバックがあるから、持ってきて」
妹を車に向かわせると、それからの私は、子猫を捕まえようと必死でした。
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その場所は大病院の駐車場と建物の間でした。
新しく建った建物は耐震性を確保する為に、地面より少し上げて建てられている構造なのだそうです。その為、空洞になっている部分を子猫が自由に行き来できるのだと、たまたま通りかかったガードマンのおじさんが教えてくれました。
「何処かに、捕まえる為のかごもあるよ」
とのこと。恐らくは捕獲器とか、保護器のことでしょう。
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このままでは保護することができないと思った私は、一旦その場を後にしました。
そして車で近くのホームセンターに行き、子猫用の缶詰めや紙製の茶碗を買って、段ボールをもらうと再び病院の駐車場へ――
妹の話では、3日くらい前からその辺りで、猫の鳴き声が聞こえてたそうです。
紙の茶碗に缶詰の餌を入れて、与えようとした時のことでした。
「餌やりはしないで下さい」
と、先ほどのガードマンのおじさんが言ってきました。
私が「連れて帰りますから」と言うと、ガードマンさんがそれ以上は何も言わずに、去って行きました。
私と妹が悪戦苦闘していると、通りかかった一人のお姉さんが、「その子を連れていってくれるの?」と声を掛けてきました。
そのお姉さんも、子猫が気になっていたらしいのです。
子猫はご飯を差し出すと、恐々食べに出てくるのですが、手を伸ばすとすぐに身を翻して捕まえられない場所に逃げていきます。その時お姉さんは子猫に「連れて行ってもらいな、こんなチャンス2度とないよ」と言いながら、少しずつご飯を前に出していきました。そして手の届く所まで移動させて、食べかけた瞬間に、首根っこを捕まえ段ボール箱に。勿論食べかけのご飯も入れて。
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段ボールに入ってもらったのは良いのですが、子猫はすぐに飛び出してきます。
お姉さんは違うガードマンのおじさんに、「ガムテープを持って来て」と頼んでくれました。
無事に子猫を確保すると、私たちは子猫を入れた段ボール箱を抱いて、そのまま車で猫宅に向かいました。車の中で子猫は鳴き叫ぶわ、暴れるわ。
私は子猫に「大丈夫、何もしないよ。みんなが居る所に行こうね」と何度も言いながら帰路を急ぎました。
それはいろはを保護してから3ヶ月が経った、2018年9月24日のことです。
娘にラインでいきさつを告げると、『仕事から帰ったら、その子を連れて病院へ行く』と返事がきたので、私は帰ってきた娘に、キャリーバッグに入れた子猫を託しました。
病院から帰ってきた子猫は、取り急ぎキッチンに素早く段ボールハウスを組み立てて、その中に入ってもらいました。
「待っててね」
と言って、娘と立ち話。病院で言われたのは、女の子で歯の這え方から2ヶ月位だろうということと、特にこれと言った病気もないということ。蚤の薬を処方されただけで済みました。
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これで晴れて猫宅の住人――
となると次は名前が必要です。今まで保護してきた子達は、その時々のエピソードに因んで名前を決めていた私達ですが、何故かこの子の名前は、なかなか決められませんでした。考えても考えても――
9月の末、残暑の残る頃――
風に揺れる風鈴の音から連想して、鈴と書いてりんと名付けました。
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愛嬌のある顔立ち、とにかく人懐っこい性格。
直ぐに抱っこを要求する鈴。
最近では私より、娘の方が鈴に首ったけです。
鈴も避妊手術を受けてもらい、みんなとわいわいガヤガヤやってます。
一番年の近いいろはと仲良くて、その間に入ってくる、かんなともじゃれあったり。
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鈴が増えた猫宅。
とら、茶々、華、雪、天、月、あずき、空、みっけ、てっぺい、真白、ぱんだ、麦、小麦、風子、キキ、ララ、ムー 、四月、ミント、 オレオ、ラテ、モカ、ココア、チョコ、いちご、五月、キング、こぱん、バニラ、うさぎ、空(そら)、ポッキー、六月(ムック)、カール・チェリー・ナッツ・みかん・あんず・きなこ、かんな、やさい、いろは。
そして――、鈴。
こうして猫宅は、合計44ニャンになったのでした。
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実はこの頃Withcat は女神さんと、『猫宅のお話』を連載するためのやりとりをしていました。チャットの最中で女神さんが、『緊急事態なので、続きは後ほど』とのことで中座されました。その後戻ってこられた女神さんは、『また一匹増えちゃいました』とのこと。それがまさに、本話のこの瞬間でした。
Withcat は奇しくも、43ニャンが44ニャンになる瞬間に立ち会ったのでした。
平和な時間が流れていた猫宅。
しかしある日、ムーに異変が――
日頃から口内炎で、ご飯を食べにくそうに食べてたムー。
サプリを入れてやっても一行に良くなりません。
抱くことも、触ることも許してくれない、頑ななムー
ムーは母猫の彼女に、容姿だけでなく性格まで良く似ていました。
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そんなムーが触らせてくれるようになったのが前年の年末辺り。
触ると言っても、背中を少し撫でるだけです。
少しずつだけれど、ご飯を食べていたムーですが、あるとき部屋から出て行きたそうに鳴くようになりました。その声から最初は「発情期かな?」と思っていたのですが、間もなく丸1日、ご飯を食べなくなりました。
触った背中は骨でごりごり。いつの間にか痩せ細っていたのです。
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ご飯を食べてくれないムー。
しかし、娘と話し合った結果、病院へ行くのはやめようという結論になりました。
何故ならば、そのムーの姿は、亡くなった彼女の時と似ていたからです。
無理やりネットに入れて、キャリーで病院に連れて行った彼女。
でも――、何も手当てする事なく帰って来たのです。
あの時と同じなら、静かにさせておこうと思いました。
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前の晩まで歩いて鳴いていたムーですが、次の日の朝からキャットタワーに上ろうとしても力がなく、落ちそうになりました。沢山飲んでたお水も、口を近づけるだけで吐く様な感じです。
静かな所を探しては仲間に寄り添ってもらい寝ていました。
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午後3時半頃猫宅に様子を見に行った時、ムーは本当に静かに息をし寝ていました。
その時私はムーの頭を「辛かったね、偉かったね。向こうに行ったらお母さんが待っててくれるから心配しなくていいよ」と何度も何度も撫でてやりました。
もう少し早くうちとけてくれていたら、抱っこだってできたのに。
夜、10時過ぎ――
猫宅に行きムーを探すと、ムーはお昼に居た場所で向きを変えて、安らかに眠っていました。誰かがいっしょに最後まで寝ていてくれていたかの様な体制でした。
2019年1月5日 ムー 永眠
次の日の朝、お寺に供養の電話を入れて午後から火葬の予約を。
午後1時20分 ムーは煙となってお星様になったのです。
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――ムーへ――
最後に抱き上げた時のあなたはなんて小さいんだろうと思った。
弱音を吐かず病気と戦っていたのかな?
お母さんには会えた?
懐かなかったあなたの記憶が遠退いていくよ。
ムーが去った猫宅。
とら、茶々、華、雪、天、月、あずき、空、みっけ、てっぺい、真白、ぱんだ、麦、小麦、風子、キキ、ララ、四月、ミント、 オレオ、ラテ、モカ、ココア、チョコ、いちご、五月、キング、こぱん、バニラ、うさぎ、空(そら)、ポッキー、六月(ムック)、カール・チェリー・ナッツ・みかん・あんず・きなこ、かんな、やさい、いろは、鈴。
44ニャンだった猫宅は、合計43ニャンになりました。
――今回の写真のご説明――
1枚目(扉):大晦日の夜の鈴
2枚目:保護して2日目の鈴
3枚目:これも鈴
4枚目:保護して半年後の鈴
5枚目:ムー
6枚目:やさいとムー
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猫宅の様子もどうぞ。
女神です🎀
— 女神 (@megami_901) July 28, 2019
久し振りに出してみました。
いちごがお星様になってキングが病気になってずっと封印していたんだけど。
気付いた事、これは多頭飼いには向いてません(笑) pic.twitter.com/FOBTZs4wQd
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――つづく――
作:女神
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――次話――
いちごが体調を崩した様子は、母猫のムーやその母の彼女に似ていました。
腎不全かも――
もしもそうなら、嫌がることはやめよう。
そう決めたとき、抱っこが嫌いないちごが抱かせてくれました。
彼女とムーの最期のときのように。
――前話――
44の物語、今回は外猫ポリスのお話。
ポリスは地域のボス猫でした。
あちらこちらで喧嘩をするようで、いつも身体中怪我だらけ。
やがて、ライバル猫の”くま”が現れて縄張り争い。
外猫には外猫たちの世界で生存競争があって――
やがてポリスともお別れの日が来ます。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この連載の1話目です――
44匹の猫が住む家、その名も『猫宅』
それは、保護した猫たちを住まわせるために借りた家。
猫には1匹ずつに物語がありますね。
これは最初の1匹、とらのお話。
さて、44の物語、完成するでしょうか?
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