猫宅・44の物語 21話
今回のお話は:くま、キジ、しろっくろっ

そこには43匹の猫が住んでいて、日々新しいドラマが生まれています。
『猫宅のお話』は、猫宅の主催者であり、猫達のお世話をしているのが女神さんが綴るエッセイです。猫たちの大河ドラマをお楽しみください。
キジのお話
ある日、猫宅の周辺に、突然出没するようになった茶色の虎猫がいました。
首には、元々付けられていたであろう首輪の跡がはっきりとわかります。
近所の方から聞いたところによると、一人暮らしのおじいさんが飼っていた猫で、そのおじいさんが亡くなってしまって、外猫にならなければいけなかった子のようです。
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初めて見た時、その猫の顔が、とてもきつかったことを覚えています。
食べる物もなく、突然放り出されて家なき子になったのですから、生きるために厳しい顔つきになるのも無理からぬことです。
そんな茶トラの猫に付けた名前は『キジ』でした。
出会った時に、娘が呼びやすいようにと名付けたのですが、その由来は俗に言うキジトラ柄の猫だったからという、単純な理由です。
始めのうち、私たちはただの通りすがりの猫だろう、直ぐにどこかへ行くんだろうと思っていましたが、ご飯を上げているうちに通い猫になりました。
キジは ”くま”が苦手でした。くまというのは前回の記事に書いた猫で、我が家の玄関先に居候をしているボス猫です。くまの顔を見るだけでキジは、血相を変えて走って逃げていきました。もしかするとキジはくまだけではなくて、自分以外の猫が全て苦手なのかも知れません。そのことも後になって分かるのですが。
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さて、キジが通ってくるようになったある日のこと、ちょっとした事件が起きました。
キジが我が家でご飯をたべて、お腹も満たされた後のことです。
私は自宅の窓から、目撃してしまったのです。
キジが誰かに、虐待のような目に遭っているのを――
きっと我が家でご飯を貰い慣れて、昔の飼い猫時代を思い出し、人間への警戒心を解いてしまったのが原因でしょう。そんなキジを見るに見かねて、娘と話し合って、キジは保護して猫宅に連れて行くことにしました。
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捕獲は難しくはありませんでした。人懐っこいキジは、私達の近くに寄って来ては触らせてくれていましたので、案外スムーズにネットに入れる事ができました。
捕獲をしてみて驚いたことがあります。それまでずっと女の子だと思っていたキジは、なんと去勢した男の子でした。
キャリーで猫宅に連れて行ったキジは、まずは他の子と喧嘩をしないように、一先ず女の子部屋のケージに入ってもらいました。しかしケージ生活もそう長くはありませんでした。なぜならキジは私達には慣れていて、触らせてくれていたからです。
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私と娘は、早めに外に出しても問題ないだろうと判断をし、キジをケージから出してやりました。上手くいくだろうと楽観していた私たちでしたが、結果はその思いとは裏腹でした。キジは私たち人間には従順なのに、猫同士となると折り合いが悪く、側に寄って来る子全てにシャーシャーと威嚇をするのです。
恐らくこれは、キジが強気で喧嘩を仕掛けているのではなく、その逆の弱さから来ているもののように思いました。外に居る時のキジの様子から、それは容易に察することができました。
あの、くまの姿を見ただけで逃げ去る姿――
キジはその時、恐怖のあまり失禁してしまうこともあったほどなのです。
ここでまた問題が発生しました。
なんとキジはお腹が空くと、他の子を噛む癖があったのです。更に噛む対象は猫だけではありません。私たちにも牙が向けられました。
外に居た時もそうでだったのですが、キジは自分がお腹が空いていると、こちらの用意が遅いと足を噛んでくる癖がありました。キジとしては「お腹が空いているんだから、早くご飯をちょうだい」と言いたくての行動だったと思います。
しかしこの行動――、外でならば靴を履いているので笑って済ませることもできますが、猫宅ではこちらは素足です。噛まれたら青あざになりますし、血だってにじみ出てきます。
2ヵ月ほど猫宅で様子を見ていたのですが、キジは結局仲間と打ち解けることができませんでした。やむなく私たちは、キジを外猫に戻すことにしました。
気の弱いキジは、他の猫を見ると一目散に逃げてしまいます。
それでもキジは、今でも1日2〜3回姿を見せてはご飯を食べて、何処かに去っていきます。きつかった顔も、今では少し柔らかくなってきました。
時々どこから持って来るのか、片手だけの軍手とか、スーパーの白いナイロン袋を丸めたのを口に咥えて、お土産に私に持って来てくれます。
ごはんのお礼なのかもしれませんね。
しろっくろが現れた
「しろっくろっ」が姿を現したのもキジと同じ頃だと思います。しろくろ(白黒)ではなく、小さな「っ」が入った「しろっくろっ」です。
最初は猫宅に来ていたのか、それとも自宅に来ていたのか――?
今となっては記憶が薄れて、はっきりとは思い出せませんが、この子もキジと同じように、去勢手術されたオス猫でした。多分、元は飼い猫さんだったのでしょう。
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見た目は、俗に言う白黒八割(ハチワレ)れ猫で、以前に面倒をみていた、元ボス猫のポリスのような容姿をしています。白黒にちなんだ名前を付けてあげようと思いましたが、ポリスの他にはパンダくらいしか思いつくものがありません。そしてそのパンダの名も、もう猫宅の子に使ってしまっています。
結局、見た通りの呼び名で良いだろうと考えて、「しろっくろっ」にしました。
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しろっくろは私たちを見て逃げることはありませんでしたが、かといって触らせてもくれませんでした。お腹が空くと姿を見せてご飯をねだり、食べ終わるとどこかへと帰っていくのです。
しろっくろはキジのように他の猫を怖がる事もなく、誰にでも近づいて行くような性格でした。なんとあの、ボス猫のくまとも上手くやっていました。
私たちはこの子はきっと、猫宅には入れず自由に走らせてやった方が幸せだと思いました。そこで寝る所だけを用意してやろうということになりました。
寝床を作ってやったのは、猫宅のベランダです。当時はまだポリスも健在だったので2匹分の個室を用意しました。
今はもうポリスは姿を消してしまいましたが、しろっくろはポリスが居なくなった今でも、ベランダで日向ぼっこをしながら寝ています。時折自宅に来て、玄関先でくまと一緒にご飯を食べることもあります。
自由で気ままな、外猫生活を楽しんでいるようです。
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くま、キジ、しろっくろっ――
縁あって我が家の周りに居候することになったこの3匹、喧嘩せずに仲良く過ごしてほしいものです。
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こちらは最近の猫宅の様子です。
女神です🎀
— 女神 (@megami_901) 2019年11月27日
新しい爪研ぎを置きました。
新しい物はみんなで検査にゃ pic.twitter.com/FXcj2L8cIt
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――猫宅のお話をしましょう|21話・つづく――
作:女神
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――次話――
44の物語、今回は新入りのチーズのお話。
突如自宅に現れた白い子猫。
ものおじせず、外猫くまの周りをちょろちょろし始めて、くまのご飯を横から食べてしまいました。
黙ってご飯を譲るボス猫くま。驚きでした!
その子猫が――
次は猫宅に現れたのでした。
――前話――
44の物語、今回は外猫くまのお話。
ある日玄関先に現れた、まるで熊みたいな風貌の猫。
くまはボス猫ポリスに、対抗心をむき出しにしました。
何度も繰り返させる死闘。勝利したのはくま。
しかし一見乱暴者のくまは、人にはすりよって来る甘え上手でした
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この連載の1話目です――
44匹の猫が住む家、その名も『猫宅』
それは、保護した猫たちを住まわせるために借りた家。
猫には1匹ずつに物語がありますね。
これは最初の1匹、とらのお話。
さて、44の物語、完成するでしょうか?
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猫宅のまとめ読みです
『猫宅』のまとめよみ、その2
今回最初の第6話では、猫は6匹。
多いけれども、まだあり得るお話。
それが第10話になると、なんと21匹に。
もう”多い”では済まない数――
1匹1匹に物語がある、猫の大河ドラマ。
今も、現在進行形で続いています。
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