猫宅・44の物語 22話
今回のお話は:チーズ
その日は小雨が降っていたためか、夏なのに少し肌寒いような朝でした。主人が朝早くから(あれは5時半頃かな)私に言いました。
「外に小さい子猫がいるよ」と。
私は2階の窓から外を見ました。すると生後2ヵ月位の、尻尾がふさふさとした白い子猫がこちらを眺めていました。
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私は主人に「何処から来たのかな? きっとすぐにいなくなるよ」と声を掛けましたが、それ以上には気に掛けることもせず、家族の朝御飯の支度にとりかかりました。この日は主人も娘も息子もお仕事はお休みでした。
一通りの支度を済ませた私は、いつものように外猫のくま きじ しろっくろっにご飯をあげるために外に出ました。
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我が家の玄関先は、左に軽自動車1台分が止められるスペースがあります。 そこでくまとしろっくろっはご飯を食べます。 一方、くまが苦手なきじは、我が家の隣の駐車場でブロックの陰に入って、くまから身を隠しながらご飯を食べます。
外猫には外猫の社会があるのです。
くまにご飯をあげようとした時でした。
「あれ、あの子!」
ふと見ると、庭先には朝見かけた子猫がいました。そしてその子は、くまの周りをちょろちょろと歩いていました。
くまは子猫が寄ってきても、威嚇もしなければ追い払うこともしません。
いつものようにおっとりとした表情で、その場に座ってご飯を待っていました。
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そしてくまの目の前に、ご飯を差し出すと――
その子猫は、お腹がすいていたのかこちらに近づいて来て、くまのご飯を子猫が食べようとしました。どうするだろうかと少し様子を見ていたら、くまは怒る事なく子猫にご飯を譲ってやりました。かつて、ポリスとボス猫の座を争った姿とは別猫です。
私はすぐに、もう一度くまのご飯を作るために、家の中に戻りました。
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先にも書いたように、その日は娘もお休みで、遅い朝を迎えていました。
娘にくまと子猫の話をしたところ、娘も興味を持ったようです。
すぐに窓に視線をやりましたが、その時にはもう子猫はそこにはいませんでした。
「もうどこかに行っちゃったかもね」
と、娘も朝方の私と同じようなことを言いました。
やがて猫宅に行く時間になりました。
私達親子が外へ出ると……、植木の陰に隠れて寝ているあの白い子猫を発見!
遠くには行っていませんでした。
そぅーっと手を差し出すと、逃げずに私の手の中に。
――私は子猫を抱き上げて、娘に託しました。
そのまま子猫を猫宅に連れて行き、ひとまずキャリーに入れ常備してあるフロントライン(蚤取り用の薬)を首筋に。
「さてこの子どうする?」
とりあえず病院へ連れて診てもらう事にしようとなり、娘は出かける準備にひとまず自宅へ。準備が整い迎えに来ると、白猫を車の乗せいざ出発(笑)
残った私はにゃんずのお世話を――
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娘は1時間くらいで戻ってきたでしょうか?
診察の結果を聞くと、特にどこも悪いようなところはなく、歯の生え方から生後2~3ヶ月頃で、性別は男の子と判明。
見た目がかわいくて、女の子だと思っていた私達親子。
「男の子なら保護せず、そのまま外猫さんに」
「いやいや そうじゃないだろう」
と喧々諤々。
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助けてあげたいのは山々なのですが、もう猫宅は限界を迎えています。スペースもそうですが、一番大きいのは金銭面の負担。何しろこの時点で総勢41にゃんで、娘の給料はほとんどは、猫宅の維持のために消えていってしまうのです。
「だけどこの子をこのまま外へ帰すのはちょっと……」
そこで私は、ある決心 をしました。
――このお話は、最後にもう一度書くことにします。
結局その白猫は、猫宅の住人になることが決まりました。
となると、名前を付けなくては――
しかし今回は、考えても考えても、なかなかいい名前が浮かんできません。
それもそのはずですね。今猫宅にいる41にゃんだけでなく、亡くなった子たちや、自宅にいる家猫たち、それとご飯をもらいにくる外猫さんにも含めると、50匹を越える猫たちに名前を付けてきたのです。
どの子にも、その時々の思いを込めて命名をしてきましたが、そのアイデアもそろそろ限界です。そう簡単には思い浮かぶはずがない。
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そこで娘が、8月22日が何の日かネットで検索したところ、語呂合わせから『はい、チーズの日』であるらしい。
「チーズ、決まりだね」
ということで、名前が決まりました。
思えば猫宅では、3月に僅か3歳でいちごを亡くしたばかり。その後で生まれて、入れ替わるようにやってきたチーズ。
今思えばチーズは、いちごの生まれ変わりかもしれません。
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チーズが加わった猫宅。
とら、茶々、華、雪、天、月、あずき、空、みっけ、てっぺい、真白、ぱんだ、麦、小麦、風子、キキ、ララ、四月、ミント、 オレオ、ラテ、モカ、ココア、チョコ、五月、こぱん、バニラ、うさぎ、空(そら)、ポッキー、六月(ムック)、カール・チェリー・ナッツ・みかん・あんず・きなこ、かんな、やさい、いろは、鈴。
そして、チーズ。
猫宅は41ニャンから、42ニャンになりました。
さてここで、先に触れた私の ある決心 について、もう一度お話をしたいと思います。
猫宅は、1匹目のとらを保護してからずっと、私と娘の二人だけで維持をしてきました。最初は、今のような42にゃんにまで膨れ上がるとは、想像もしていませんでした。
それが今では、それぞれの理由があって迎え入れた猫たちと、思わぬ出産で急に増えた猫だちで、猫宅はいまのような大所帯です。しかし決して野放図に増やしてきたわけではないことは、これまでの『猫宅のお話』を読んでいただけたら、お分かりいただけると思います。
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猫宅は猫の保護はしていますが、保護活動ではありません。
だから、誰からも資金援助や寄付も募りませんでした。私たち母娘の出来る範囲で、猫たちを助けようと思ったのです。
42にゃんをご覧になって、多頭飼育崩だと早とちりされる方もおられます。しかし私たちからすると、私たちの限界は越えていませんし、多頭飼育も崩壊していません。
ただ、ちょっと度を越えたかもしれないなという事は感じています。
というのも、チーズを迎え入れる時のように、助けてあげたいと思いながらも躊躇するようになってしまったからです。
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そこで、私の ある決心 です。
私は猫宅のことをを面白がってくれている猫好きさんたちに、Twitter上で支援をお願いしてみようと思ったのです。
そんなことをしたら、きっとよく思わない方もいるだろうとは思いました。
『そら見たことか』という声が聞こえるようでした。
でも違うのです。私たちが支援をお願いしようとしたのは、危機を救って欲しいという救済ではないのです。猫宅と言う不思議な空間を、一緒に支えて下さる仲間が欲しかったのです。
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恐る恐る私のアイデアをTwitterでお知らせしてみたところ、『応援するよ』というリプライをたくさん頂けました。私は嬉しくて、嬉しくて「猫好きさんは優しい方達ばかりなんだなあ」と、改めて思った次第です。
活動家でもない1個人の猫馬鹿を、支援をして下さる方達がいる――
本当に心強かったです。
ということで、私と娘だけでやってきた猫宅が、皆さんで運営する場になったのです。
この記事の下の方に、猫宅ご支援のお知らせのバナーがあります。
皆さんも、猫宅の仲間に入ってくださいませんか?
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猫宅の様子です。
チーズです🧀
— 女神 (@megami_901) 2019年12月18日
お姉ちゃんの背中ってあったかいんだよ pic.twitter.com/3Nm0QwD3pU
――猫宅のお話をしましょう|22話・つづく――
作:女神
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――次話――
猫宅のお話|その23
猫宅のお話|その23
44の物語、今回は五月(いつき)との別れ。
ある日猫宅に行くと、見たこともない血だまり――
それが闘病の始まりでした。
『猫伝染性コロナウィルス』
口内炎でも頑張って食べていた五月
その日――
いつも玄関に1番に迎えに来る五月の姿がありませんでした。
――前話――
今回は外猫3匹のお話。
猫宅の外側には、外猫たちの社会もあります。
突然現れた”キジ”も、その後にやってきた”しろっくろ”も、ボス猫の”くま”も、元は飼われていた猫でした。
縁あって猫宅の周りに住む子たち。
仲良くやって欲しいものです。
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――この連載の1話目です――
44匹の猫が住む家、その名も『猫宅』
それは、保護した猫たちを住まわせるために借りた家。
猫には1匹ずつに物語がありますね。
これは最初の1匹、とらのお話。
さて、44の物語、完成するでしょうか?
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猫宅のまとめ読みです