文:奥村來未
いつもは、愛犬Mackの思い出を綴っている私ですが、今回は私が幼稚園の頃に一緒に暮らしていた猫の「タロウ」の不思議なお話をさせていただきたいと思います。
タロウは、真っ白な美しい雄猫でした。
私が幼稚園の頃、近くの公園でフリーマーケットをしていた時に里親募集をしていたようで、母が一目惚れして連れ帰って来た猫でした。
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タロウはとても頭の良い人懐こい猫でした。
二十数年前のことなので、ハッキリはしていませんが、私はタロウに傷つけられたような覚えはないし、ダメと言われたことはしなかった猫だったと記憶しています。
ご飯は出されたら出されただけ食べ、とても早食いで、両親は「犬みたいだ」とよく言っていました。
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(ある日の思い出)私は、大切なものを無くしてしまった
ある日、私は何かを無くしてしまいました。
それは幼い私にとって、とても大切なものだったのですが、今となっては私自身が、それが何だったのかを覚えていません。
――ただ大人が、ガラクタだと思うようなものであったのは確かです。
一日中探しても、一週間探しても、一か月探してもそれは見つからず、タロウに聞いたりもしてみましたが、タロウが答えてくれるわけもありません。
もう捨てられてしまったのかもしれない――
私はそんな風に思い、諦め、そしていつしか、何かを無くしたという記憶さえも、薄れていきました。
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(ある晩のこと)お告げ
それから、ずいぶんと経って――
私の頭の中からは、探し物のことなど、すっかり消えてしまっていて――
そんなある日の晩のこと――
私は、タロウの夢を見ました。
いつもの家の中のリビングにタロウが居て、私が触ろうとすると、タロウは私が寝ている子供部屋のほうへ歩いていきます。タロウは、時折後ろを振り返りながら、私が近づくとまた歩き出し、しばらくすると振り返る。
どうやら「ついてこい」と言っているようなのでついていくことに。
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私と兄の寝ていた子供部屋には、ロフトがついていたのですが、タロウは立てかけてある階段を、器用に駆け上がり、ロフトへと上がっていきました。
私もタロウに続いてロフトへあがりました。
タロウは、色んなものが雑に入れられている箱に前脚をかけて、中をクンクンと嗅ぐような仕草を見せました。
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「なにしてるの?」
そう言おうとしたところで、私は目が覚めました。
夢だと気づいて、「変な夢だなぁ」と思ったけれど、すぐに私の目に飛び込んできたのはロフトへの階段でした。
私はふと、あの箱がどうかしたのだろうかと気になって、夢と同じようにその階段を登りました。
――あの箱――
それはボロボロのダンボールで、何に使うのかわからないガラクタが、たくさん詰め込まれたものでした。
私は、箱を覗き込んでみました。
でも、覗くだけでは全く分かりません。
中のものを、すべて出してみることにしました。
九割がた箱の中身を出し終え、箱の底が見えてきたとき、見覚えのある物が目に入りました。
そう、それは以前無くした、大切なものだったのです。
この箱の中に入っていたものは、私が赤ちゃんの頃使っていた玩具。
私はそれをよく手に取って、眺めていて……
その瞬間、私はそれを無くした時のことを思い出しました。
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(その時)タロウの反応は
大切なものを握りしめ、タロウの所へ行ってみると、タロウはまだ寝ていました。
ですがどうしても聞きたかったのでタロウを起こし、「教えてくれた?!」と聞きました。
タロウは、寝ていたところを起こされたので物凄く不機嫌そうな顔に見えましたが、一言、「ニャオゥ」と鳴きました。
私はまだまだ聞きたかったのだけど、タロウは一言鳴いて面倒くさそうにまた眠り始めてしまいました。
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あの時のタロウは、なんて言っていたのかな?
「そうだよ」なのか――、「よかったな」なのか――
その大切な玩具が何だったのか、もう覚えていないけど――
ありがとうね!タロウ!
――つづく――
文:奥村 來未
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――次話――
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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