猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

恐怖、お化け屋敷 ~タロウの怪談(前編)~

f:id:masami_takasu:20180826084422j:plain文:奥村來未

タロウが脱走した。
あれは私が、小学校にあがって初めての夏のことだった。
ほんの一瞬の出来事。少し暑かったので私が居間にある小窓を開けたとき、まるでそれを狙っていたかのように、タロウの白い残像が私の横を駆け抜けて飛び出していった。

「勝手に外に出さないでね!」
常々母からそう言われていた私。
「怒られる!」と思い、靴も履かずにタロウが飛び出していった小窓から外に出て、追いかけた。

タロウは、家の隣の廃屋に入っていったようだった。
そこは幽霊がでると噂される、ボロボロでつぶれかけた廃屋。
猫が度々集まって、猫会議を開いている場所だった。

 

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以前私はこの廃屋に、一度入った事があった。
タロウが散歩をするとき、どこで何をしているのかを知りたくて、追いかけた先がこの廃屋。そこで私は生まれて初めて、猫会議を目撃したのだった。

さて中に――
そう思ったのだが、そこで私の足は止まってしまった。
実は少し前に友達のAちゃんから、その廃屋で「本当に幽霊を見た」という目撃談を聞かされたばかりだったのだ。

前の時は好奇心が勝ったので、怖くは無かったのだけど、そんな話を聞くと、すぐに廃屋の中に飛び込んでいくことができなかった。
それだけではない。前にそこから出たところを近所のカミナリ親父に見つかって、怒られたことまで思い出してしまった。

やっぱり帰ろうか――
考え直そうとした私。しかしそこで思い止まった。
幼かった私には、幽霊よりもうんと怖いものがあった。――母親だ。

地震・雷・火事・母ちゃん!
母からの叱責を恐れた私は、廃屋へ入る決心をした。

タロウがよく出入りする壁の穴から中の様子を窺ってみたが、夕刻に差し掛かり薄暗くなった廃屋内はさらに薄暗くて、お化け屋敷そのものだった。
暑さのせい? 恐怖のせい? もう私は汗だくだった。それでも前に入った雨戸から廃屋の中へと入っていった。

「ギギギ……ギギ……」
軽く小柄だった私が歩いても、大きな軋むような音が廃屋中に響き渡る。
よろけて壁に手をついただけでも、この家は極端に大きな音を出して私を怖がらせてきた。

幽霊話はAちゃんの目撃談だけではなかった。
「お前んちの隣の廃屋、白いワンピースの女が出るんだってよ!」
「見た奴が居るんだって!」
ガキ大将だった男の子からは夏休み前に、そんな話も聞いていた。
この廃屋は子供たちの間では有名な幽霊屋敷で、様々な目撃談があったのだ。
その中でもとりわけ多かったのが、この “白いワンピースの女” だった。

『おばけな~んてな~いさ おばけなんてうっそさ ♪』
私は心の中で、「お母さんの方がずっと怖いんだから……」と考えながら、『おばけなんてないさ』を小さな声で歌いながら進んでいった。

足元には茶色く変色した新聞紙が落ちていた。
印刷された日付は1985年5月……「私が産まれる何年か前に人が居なくなったんだ」
ここに住んで居た人はどんな人だったんだろう。どんな会話をしたんだろう。
そんなことを考えていると、少し恐怖が紛れた。

 

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タロウを探さなきゃ。
前に猫会議をしていた部屋に向かって「タロウ!」と小さく呼んでみた。
トトトッ――
猫が走ったような足音が突然響いて、全身の毛穴が一瞬で開いた気がした。

怖かったけれど、もう一度「タロウ!」と呼んでみた。

「ァオゥ……」と、奥の部屋から小さく猫の鳴き声。

そぉーっと部屋を覗いてみた。
すると――、居た――
タロウの姿を見つけ、安心感が湧いた私は「タロウ、いけないよ!おいで!」と声をかけた。

その瞬間だった。私はタロウの目線の先に、もう一匹猫がいることに気が付いた。
それは近所でよく見る三毛猫だった。
「そう言えば、三毛猫ってメスなんだよね」
誰かにそう聞いたことがあった。

「彼女?」
私はタロウに訊ねた。

 

――タロウの怪談(前編)つづく――

文:奥村來未

――次話――

――前話――

――このシリーズの1話目です――

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