犬派の僕が猫と暮らす理由
撮影&文:紫藤 咲
お待たせいたしました。今回から、『ねこさん、拾いました』の第2クールがついにスタートです。
野良の子猫を偶然拾い、なりゆきで育てることになったぼく。
覚悟なしに始まった新米飼い主の悪戦苦闘は続きます。
まずは漫画にて第1クールを振り返ってみましょう。
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(漫画で振り返るこれまでのお話)
※振り返る漫画は、次話の冒頭まで続きます
(さて、ここから先が第2クールです)
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ハットリくんが訪ねてきたことで、見守る人間が増えたこともあり、ひなさんとのお近づきチャレンジを改めて試みることにした。
正直なところ、ぼくはもっと簡単に仲良くなれるものだと思っていた。
そりゃ、最初からすんなり「どうぞ」にはならないとは覚悟はしていたが、こうも難航するとは思わなかったのだ。
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何度やっても、ひなさんは吼えまくる。鼻息荒く、転がしまくる。かみ殺すんじゃないかという勢いで、喉元に甘噛み。近づけるだけで怖くてたまらず、すぐにねこさんを撤収させるという具合で、距離をなかなか縮めきれていなかったのだ。
しかし、何度もチャレンジして失敗していたけれど、どう考えても仲良くしてもらわねばならないという結論は変えられなかった。ねこさんを預かる期間が長くなれば長くなるほど、いがみ合ってもらっては困るからだ。
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例えばだ。ねこさんが今より大きくなって、本気のねこパンチでひなさんを殴ったとしよう。爪が出ていたとしたら?
ひなさんが怪我をしてしまうことになる。
当たり所が悪くて、目を引っ搔いてしまったら?
失明の可能性だって出てきてしまう。
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反対に、ひなさんが本気でねこさんを噛んでしまったら?
怪我どころか、天国まっしぐらな未来になってしまう可能性も出てくる。
そういったリスクはできることなら、なるべく避けたい。
しかし、だ。
ぼくとしては喧嘩して怪我をしてしまうんじゃないかという心配よりも、仲良く一緒に寝ているところを見てみたいというの気持ちが勝っていたのも事実だった。
さて、チャレンジ開始。
やはり思った通りの展開になる。
ねこさんを近づければ、ひなさんは吠えるし、鼻先で転がす。前歯で背中を噛む。興奮しまくって、ヒット&アウエィを繰り返す。
見ているぼくは気が気じゃない。心臓バクバク。ハラハラしっぱなし。
どうにも耐えきれず、ひなさんを引き離そうとすると、
「まぁ、待て。ちょっと見てみようぜ」
と、ハットリくんにとめられる。
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「怪我したら大事だぞ」
「ひなだって、そこまでやらないさ」
呑気なものだ。
飼い主ではないからなのかと、ぼくは内心舌打ちしたくなるのをこらえた。
もしも大怪我させることになったら、責任は誰がどるんだよとも思った。
実際の世話はぼくがしている。ぼくが飼い主なのだ。
仲良くさせたいが無理もさせたくない。血を見る前にやめさせたいのだが、それでもハットリくんは様子を見ようと言った。
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ひなさんが小さい頃、先住犬たちの洗礼を浴びまくった経験を思い出せば、このハットリくんの意見には納得するところもたしかにある。
それこそ、ひなさんとねこさんくらいの体格差のある先住犬に、子犬の頃のひなさんは歯をむき出しにされて怒られもしたし、転がされもした。背中は唾液でべたべたになったし、食い殺されないかとハラハラさせられた。
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しかし、儀式とも思えるその行為を乗り越えると、親子のように仲良くなったのだ。
うまくいけば、ひなさんとねこさんだって、親子のような関係性を築くことができるようになるのかもしれない――
と考えれば、辛抱するより他なかったのである。
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しぶしぶ彼のいうことに従い、成り行きを見守る。
怖くて固まるねこさんを転がし、逃げれば追いかけていき「ヴヴ……」と唸りながら背中を噛み、また転がすという、ひなさんの行動は変わらない。
そんな彼らの様子を、拳を強く握りしめてひたすら見守り続けること数分。
ついにその瞬間はやってきた。
ねこさんがお腹を出し、全面降伏のサインをひなさんに見せたのだ。
すると、それまで大興奮していたひなさんの態度が若干柔らかくなった。
フンフンとお尻やおまたのあたりの臭いを嗅ぎだした。
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犬がお尻の臭いを嗅ぐ行動は、相手の情報を収集するためのものである。
この行動によって「コイツは敵じゃないな」とわかれば仲間になれる。
そして今回、ねこさんがひなさんにお腹を出したことによって、ひなさんがねこさんよりも優位であるということが確立された。これはとても重要なことだ。
なぜなら犬は順位をつける生き物である。
それに、先に住んでいる者としてのプライドもあったのかもしれない。順位をハッキリさせることは、どうしても避けられないことだったのだろう。
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さて、対面させたときよりも、ずいぶんと穏やかな状況になったのを見て取ったハットリくんは、ぼくに向かってニッコリと笑った。
「ほらな。ひなはさ、順位を教えたかったんだよ。腹を見せろって転がしていたんだから。これで大丈夫だろう」
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腹を見せたねこさんを、充分すぎるほど嗅ぎ終えた後のひなさんであるが、それからは実にあっさりしていた。ねこさんが起き上がってじっと座っていても、もうちょっかいを出さなくなったのだ。
それどころかスルーである。まるで何事もなかったかのように、自分のベッドで寝てしまわれた。
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「仲良くなれるかはわからないけど、一応、(一緒に)いてもいいよくらいにはなったんじゃないの?」
そんなハットリくんの言葉通り、その翌日くらいからは一緒に写真に撮れるくらいには、ひなさんとねこさんの距離は縮まっていた。
匂いを嗅ぐことはあれど、以前のように興奮して転がしたり、甘噛みしたりすることはなかったのである。
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ほら
こんな風に
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さらに日を重ねると、びっくりするような事態が起こった。
ねこさんの好きな、もふもふ系毛布を入れ込んだ段ボールの中。彼がもちゃもちゃ、ゴロゴロしはじめたところに、ひなさんが自ら入っていったのだ。
試しにひなさんのお腹の辺りにねこさんを移動させてみる。
するとねこさん、ひなさんのお腹の中へと潜ろうとする。
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さて
どうだ?
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しかし、彼女は怒らなかった。微動だにしなかった。
潜り込んできたねこさんに、歯をむき出しにすることも、威嚇して吼えるようなこともなかった。
受け入れて、お腹のところにいさせてくれた。
とはいえ、数十秒と短い時間ではあったけれど――
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まずは
一安心
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こうして、仲良しさんへの道が少しずつ開かれた。ひなさんの同居人くらいには、一応格上げされたねこさん。
実はこの先ぼくは、ひなさんの存在が彼の生きる原動力になっていったことを、感じずにはいられなくなる。そんな事態が発生するのだ。
そのことについては、また後程――
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(余談)
――ひとつの命をはぐくむこと(1/11)つづく――
作:紫藤 咲
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――次話――
ねこさんが、自力で排泄ができるように。
喜ばしいことなのだが――、超軟便である。
そしてとうとう、その軟便で大事故も発生。
――ひぃっっ!
トイレ環境整備を急がねば。
そんなことを考えながら、ぼくにはある決心が固まっていくのでした。
――前話(前クール最終話)です――
ねこさんの食事のノルマを達成するため、頭を悩ませるぼく。
やがてそれは、ぼくを過酷な生活サイクルに追い込んで行く。
「生きることを諦めている」
ハットリくんの言葉が頭をよぎる。
ぼくがねこさんの生死を握っているんだ。
――本クール最終話
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――本連載の第1話です――
ねこさんを家に連れて帰った、ぼく。
まずは先住犬とのご対面、なのだが――
――あかーん
次は、お腹のすいたねこさんにミルクを――
――ひぃっっっ
そして、次は排泄――
・・・
分からないことだらけ。
こうして1日が過ぎるのでした。
頑張れ新米飼い主!
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