撮影&文:hey
今日は思い出深い、一匹の猫の話をしようと思います。
ことの始まりは、5年ほど前のこと。
我が家の周辺にある日、一匹の猫が姿を現すようになりました。
ガリガリに痩せこけた、みるからに野良猫です。
可哀そうに思って、見かけた時に何度かご飯をあげてたら、その猫はちょくちょく我が家に通ってくるようになりました。
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とはいっても、それだけで飼いならされたわけではありません。
猫はご飯を上げる私や家族に対しても、威嚇をしてきます。そんな状態ですので、もちろん触ることも出来ません。しかしご飯の恩というか、義理はしっかり感じているのでしょう。噛んだり、引っ掻いたりは絶対しない子でした。
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そのご飯の効果なのかどうか分かりませんが、猫の体はどんどん大きくなっていきました。変わったのは体格だけではありません。顔付きもです。
その猫は、次第に気合の入った面構えになっていったのです。
猫の普段の行動はというと、大声で女の子猫を探し回って、昼も夜も大騒ぎをしていました。そして売られた喧嘩は絶対買っていました。取っ組み合いになると、箒で叩こうが何をしようが、離れることはありません。
ですがそんなに気性が激しいくせに、格下の猫達には手を出しません。
まさに親分肌。
そしてその猫は、とうとう地域のボス猫の座に上り詰めたのでした。
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少しずつですが、信頼関係が出来始めた頃、私たちはその子の名前を「寅」と付けました。(フーテンの寅さんからいただいた「寅」です)
扉の写真が、その寅。
ボス猫の宿命なのでしょう。寅は喧嘩が絶えませんでした。もちろん、寅はいつも勝っているので、大事には至りません。それでこそのボス猫なのです。
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しかしそんなある日、寅は挑戦してきた猫に首を噛まれ大怪我をしました!!
強く噛まれたのか肉がえぐれたような状態で、出血しては乾き、また出血の繰り返しです。
温かくなる季節のことでしたので、衛生状態も心配で、急いで捕獲して病院へ連れていくことにしました。その頃の寅は、もう私たちが触っても大丈夫になっていたので、捕獲はすんなりと出来ました。
病院の先生は「自然治癒はまず無理でしょう。放っておけばそこから腐っていくことになります」と――
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治療はまずは傷口の菌を洗浄して縫い合わせ、その経過を見ながら進みました。
右前足の親指の爪も、根元が壊死していたために、その爪も根元から抜きました。
寅は首の治療と同時に、去勢手術もしてもらいました。
そんなこんなで、寅は2週間も入院をしたのでした。
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退院後の寅は、家の駐車場のベンチ型の物置の上に発泡スチロールのハウスを作り、そこに寝泊まりするようになりました。
しかし、それも長くは続きませんでした。
寅と同じように我が家で面倒を見た猫で、寅とはNo.1,2を争う「にぃーさん」という子がいるのですが、寅に続いてその子も首に大怪我をしてしまい、手術と去勢をした後、駐車場に居着くようになったのです。
「にぃーさん」は、寅とはすごい闘いを何度も繰り返した因縁の相手。きっとそれが嫌だったのでしょう。ある日、寅は出て行ってしまいました。
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それからの寅は、ご飯だけ食べに来たり来なかったりの典型的野良猫生活。
長い時は3ヶ月も姿を見せなかったりして、「もうお空に行っちゃったかな?」と思っていると、ふらっと帰って来たりして。
自由で気ままで、まさにフーテンの寅さんそのもののでした。
寅の推定年齢は、当時で5~6歳だったと思います。
野良猫にしては長生きですね。
どうして寅を家に入れなかったのか、と思われるかもしれませんが、それには理由がありました。家にはすでに、元々野良猫ちゃんだった「にゃーさん」(上の写真)という女の子(避妊済み)が居て、その子が、寅を拒絶したのです。
これはあくまでも私の推測ですが、「にゃーさん」は寅にそっくりだったので、もしかしたら寅の娘かもしれないと思っていました。
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さて、野良生活を謳歌していた寅でしたが、やがて体に異変が起こりました。
出会った頃の寅は黒缶を2つも平らげたものですが、どうやら口の中に違和感があるようで、首を振ったり、モゴモゴしたりで食べる姿に勢いがないのです。
それでも食い意地があるので食べては居ましたが、歳を取る度に、その症状が悪化していきました。
やがて寅は、他の猫が居ても、駐車場の猫ハウスにずっと居るように――
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寅、にぃーさんと共に
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動物病院で診てもらうと、長年の喧嘩で傷を負ったり、感染症やら何やらで口腔内が酷い状態になっていました。
歯石を取るか、抜歯をするかということになったのですが、あまりに寅が痛がるので、とりあえずステロイドを投与しました。ステロイドはとても効いて、寅は劇的に調子がよくなりました
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始めは投与後4週間ほど効いていたステロイドですが、2週間、1週間、そして数日と、段々効きが悪くなっていきました。やがて口の中が腫れたと思ったら、それが弾けて出血し、そこが腫瘍になってしまいました。
こうなると抜歯などは無理なのだそうです。
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医師によると腫瘍はほとんどの場合が悪性で、手術しても再発する場合が多いとの事。
その頃は寅も10歳近い高齢であった事、いろんな事を踏まえて、痛みや苦しみを取り除く緩和治療だけをすることにしました。
食べれていれば寅は元気なので、口が痛くないよう、ステロイド注射、抗生剤投与。様子をみながら、両方打ったり、一種類にしたり…
食欲が出るように、刺身やささみなども与えていました。
とにかく食べてくれるだけで嬉しかった。
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そんな通院生活を続けていた頃、寅が家に入りたそうにするので、用意しておいたゲージに寝床を用意し、家の中に入れました。
寅が安心して寝る姿を見る度、私たちも安心する事が出来ました。
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実を言うとこの頃は、寅を家に入れられない原因だった女の子「にゃーさん」は、既にうちにはいませんでした、何年か前に突然姿を消していたのです。
「にゃーさん」は、家と外を自由に出入りしていたのですが、突然帰ってこなくなり、どこを探しても見つかりませんでした。
さっさと寅を入れてあげれば良かったのですが、これまた猫が関わる事情があり、思うようにはいきません。(その話は長くなるので、別の機会に)
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寅という猫はとても面白い存在でした。
肝が座ってるというか、飄々としていて、注射や治療も痛がらず、鳴くこともほとんどしません。
漫画の『俺つしま』ってご存じでしょうか?
あのつしまが、「これは寅だ!!」と思った位にそっくりなのです。
態度も何もかも似ていて、毛づくろいしながら、デカイオナラしたり(笑)
去勢してからの寅は、他のどの子にも優しくて、ハンサムな格好いい猫でした。
出典:小学館| 俺、つしま(@tsushimacat)さん | Twitter
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寅が亡くなる2日前くらいのこと。
主人が「寅、良い子」って、声をかけたら、かすれた声で「にゃー」って…ほぼ出ない声で、優しい顔で私達を見たんです。
その時は、出にくかったオシッコも出続けて、腫れてた顔の腫瘍は破れて、中の物が全部出て、身体からも変な体液が出尽くしてました。
「これでは、もう持っても2〜3日だろう」
そう私は感じました。
実は当時私たちは、寅の安楽死も視野に入れてました。
もしも苦しむようならば、それが最後の手段です。
もちろん、そんな事にはなりませんようにと願いながらですが――
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寅は予想通り、2日後に息を引き取りました。
特別苦しむことはなかったようです。
その時、私は買い物に行っていて、主人は仕事に出ていました。
ほんの1時間ほど留守にした間に、寅は1人で逝ってしまったんです。
戻ってきて「あれ?おかしいな」と寅を触ってみたら、まだ身体は温かかったです。
最期、自分が旅立つ姿を見せたくなかったのかな?
それも、何だか、とても寅らしいな。
そう思えました。
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実はその4~5日前、寅があまりに外に出たがるので出してあげたのですが、立ち上がるのもやっとの状態なのに、どこかに行こうと、意を決して歩こうとしたんです。でも、すぐにぺたんと崩れてしまって。「寅、もうお家入ろう」と私が言うと、その後は、心に何かを決めた様子で2度と出たいと言わなかった。
最後の力を振り絞って、姿を消そうと思ったのですかね……
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寅にとって、私がしてきた事は果たして正解だったのか――
もしかしたら人間の身勝手だったんじゃないのか――
本当は放っておいて欲しくて、ご飯だけ貰えれば良かったと思って居たんじゃないのか――
今となっては、寅の気持ちはわかりません。
それでも寅は、我が家にとって、特別な子になったのは間違いなく、我が子のように大切な存在でした。
――おしまい――
作:hey
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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